もはや怖いだけじゃない!映画マニアも必見のホラー系ドラマに注目!

いことホラーはテレビ界ではマイナーなサブジャンルだと考えられてきました。確かに、「ミステリー・ゾーン」('59〜'64)のようにSFやミステリーを交えたアンソロジー(作品集)形式のものや、「アダムスのお化け一家」('64〜'66)のようなホラーコメディーではヒット作もいくつかありましたが、いわゆる本格的なホラードラマというものはなかなかヒットしなかったし、そもそも作品自体が非常に少なかった。しかし、最近では「トゥルー・ブラッド」('08〜)や「ウォーキング・デッド」('10〜)といったスプラッター描写満載のリアルなホラードラマがエミー賞やゴールデン・グローブ賞を席巻するほどの高い支持を得ているし、悪霊ハンターのイケメン兄弟が大活躍するお馴染みの「スーパーナチュラル」('05〜)もシーズン7へ突入するほどの人気ぶり。ボクは『ホラー映画クロニクル』(産経新聞社刊)という超マニアックなホラー映画本を執筆しているくらいのホラー好きなので、こうした近年のホラードラマ人気は嬉しい限り。そこで、今回は米テレビ界におけるホラードラマの歩みを振り返りつつ、今なぜこれほどホラードラマが受け入れられているのかを検証してみたいと思います。

る時期までアメリカのテレビ界ではホラードラマが殆ど存在しませんでした。これは物理的に作ることが難しかったと言った方が適切かもしれません。というのも、テレビが一家に一台だった時代は、ドラマは家族揃って見ることが出来るものでなければいけないというのが大前提だったので、視聴者層の限定されがちなホラーは分が悪かったわけです。映画と違ってテレビは表現の自主規制も厳しいので、血生臭い残酷描写はもちろんのこと、時には性的な描写も求められるホラーはやっぱり作りづらい。

はいえ、当時もホラーの受け入れられる土壌がなかったわけではありません。'50年代から'60年代にかけてのアメリカでは、主に各ローカル局で放送されるインディペンデント系の古いB級ホラー映画や外国製のホラー映画を放送するロードショー番組が大変な人気を集めました。ホラーに特化しているという以外で普通のロードショー番組と大きく違っていたのは、不気味なコスプレをした案内役(ホラー・ホスト)の存在。中でも死人メイクを施した男性ザッカリーと妖艶なヴァンパイア風の女性ヴァンピラは、ローカルの枠を超えて全米に名前を知られるようになりました。この現象はティム・バートン監督の映画「エド・ウッド」('94)でもちらりと描かれていましたよね。ホラー・ホストの伝統はその後も脈々と受け継がれており、現在でも'80年代に主演映画まで作られたエルヴァイラが依然として高い人気を誇っています。番組の性質上いずれも深夜枠での放送でしたが、幼少期に夜な夜な親の目を盗んでこうした番組を見てホラー映画マニアになった少年少女も少なくありません。

ずれにしても、ホラーに対するニーズは昔からあったわけですね。そうした視聴者の欲求を満たすために作られたのが、見た目は怖いけど気は優しいモンスター一家を主人公にした「アダムスのお化け一家」やその亜流作「マンスターズ」('64〜'66)のようなファミリー向けホラーコメディーで、ホラーやSFの要素を含む不条理な世界を各エピソード毎に独立した1話完結形式で描く「ミステリー・ゾーン」、「アウター・リミッツ」('63〜'65)のようなアンソロジー・ドラマだったわけです。また、裕福な上流階級一族を主人公にヴァンパイアや魔女などが入り乱れる異色のゴシック系昼メロドラマ「Dark Shadows」('66〜'71)もカルトな人気を集め、'12年にはティム・バートン監督による映画版リメイクが作られる予定。

'70年代に入ると、アメリカ人のライフスタイルや価値観の多様化、「エクソシスト」('73)や「オーメン」('76)に代表される映画界のオカルトブームを受けて、ホラー物のテレビムービーが大量に作られるようになります。ただ、それでもやはりシリーズ物は依然として少数。そんな状況の中にあって、幽霊やモンスターなどの超常現象に関連した事件を追う新聞記者の活躍を描いた「事件記者コルチャック」('74〜'75)が一部で熱狂的なファンを獲得し、現在でも「Xファイル」('93〜'02)や「スーパーナチュラル」の原点としてカルトな人気を誇っているものの、視聴率そのものが奮わなかったことから短命に終わってしまいました。

プラッター映画ブームの吹き荒れた'80年代には、大ヒット映画シリーズから派生した「13日の金曜日」('87〜'90)や「エルム街の悪夢/ザ・シリーズ」('88〜'90)が話題に。どちらも映画版とは全く無関係の内容でしたが、ようやく本格的なホラードラマが登場したという意味で重要な作品と言えるでしょう。また、'80年代のアメリカはケーブルテレビが浸透し始めた時期。HBOで放送されたアンソロジー・ホラー「ザ・ヒッチハイカー」('83〜'91)は、当時としては比較的大胆な残酷描写や性描写でコアなファンを集めました。同じくHBOのアンソロジー・ホラー「ハリウッド・ナイトメア」('89〜'96)も、スピンオフや劇場版が作られるほどの人気を得ています。

して、そのケーブルテレビの存在こそが、現在のホラードラマにとって重要な役割を果たしているんですね。ご存知の通り、基本的に自主規制が殆どないケーブル局。中でもHBOは「Sex and the City」('98〜'04)や「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」('99〜'07)でテレビにおける暴力描写や性描写の限界に挑み、テレビ界全体の表現基準というものを根底から覆してしまいました。ネットワーク局の作品でありながらスプラッター描写も満載の「スーパーナチュラル」などは、そうしたケーブルテレビ主導によるドラマ革命の恩恵を最も受けた作品の一つかもしれません。また、ホラー作品ではないものの、ほぼ毎回グロい描写がてんこ盛りの犯罪捜査ドラマ「BONES」('05〜)も、革命以降だからこそ作ることの出来たドラマだと思います。

うしたホラードラマ新時代の最高峰に位置する金字塔的作品が、やはりHBOの生み出したヴァンパイアもの「トゥルー・ブラッド」。強烈なまでの暴力描写や性描写はもとより、ヴァンパイアと人間が共存する世界というものを、人種や宗教、ジェンダー、生活格差など様々な価値観の渦巻く現代アメリカ社会の写し鏡として捉え、"違い"というものに対する無知と不寛容の招く残酷さや悲劇を徹底的なリアリズムで描いていくストーリーが圧巻。映画「トワイライト」シリーズに代表されるライトノベル的なヴァンパイア・ロマンス・ブームの一つと勘違いされがちですけど、そもそも指向するところが全く違う。これほどまでに奥の深い、そして映画以上にディープで見応えのある作品を生み出してしまうとはさすがHBO。時間をかけて語ることの出来るテレビドラマだからこそ可能なのかもしれませんが。ネットワーク局CWがテレビ版「トワイライト」的位置づけで世に送り出した学園ホラー「ヴァンパイア・ダイアリーズ」('09〜)も、ティーン向けと侮ることの出来ない本格的なホラー描写で好評を得ています。

んなHBOのライバル格として近年注目されているケーブル局AMCが、賞レースを独占し続ける傑作「マッドメン」('07〜)に続けとばかりに着手したのは、恐らくこれがテレビドラマ史上初のゾンビものとなる「ウォーキング・デッド」('10〜)。最近の映画ファンはゾンビものというと「バイオハザード」シリーズに代表されるビデオゲーム的なサバイバル・ホラーという印象があるかもしれませんが、もともとジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」('69)を原点とするモダン・ゾンビ・ホラーというのは、ベトナム戦争以降の暴力や恐怖、憎悪などが蔓延する世の中を、生ける屍の横行する終末的世界観の中に投影し、極限状態の中で露呈する人間の醜さや愚かさをドラマチックに描きながら、生き残った人間とゾンビのどちらが本当に醜悪なのかという社会風刺的テーマを盛り込んでいたんですね。本作は「ショーシャンクの空に」('94)などの名作を生み出した映画監督であり、自ら熱狂的なホラー・マニアでもあるフランク・ダラボンが企画したドラマだけあって、そうしたロメロ版ゾンビの精神をしっかりと受け継いでいるところが素晴らしい。テレビドラマにあまり興味のないようなホラーファンにも是非見て欲しい作品です。

た、オーソドックスな幽霊譚と見せかけておきつつ、家族や夫婦、恋人、友人などあらゆる人間関係の崩壊した荒涼たる現代社会にあって、それでも人との絆を求めずにはいられない人間の哀しき性(さが)というものを、エログロ描写満載のシュールでスタイリッシュな映像美の中に描いていく「アメリカン・ホラー・ストーリー」('11〜)も見ごたえ十分。もしかすると、今のハリウッドにおけるホラー・ジャンルというのは、映画よりもドラマの方が内容的には遥かに充実しているかもしれません。海外ドラマもホラーも大好きな筆者にとっては、とてもいい時代になりました(笑)。

文:なかざわひでゆき

独断と偏見で勝手に選ばせてもらいます!なかちゃんの海外ドラマ情熱系AWARD

PROFILE

なかざわひでゆきHideyuki Nakazawa

映画/ポップ・ミュージック研究執筆家

1968年6月26日生まれ。旧ソ連のモスクワにて育つ。日大芸術学部映画学科および大学院卒業。'91年よりフリーライターとして映画や海外ドラマを中心に活動。『デジタルTVガイド』や『スカパー!TVガイド』、『TVガイド』など毎月多数の雑誌で執筆するほか、『スカパー!e2TVガイド』では9年近くに及ぶコラム「映画女優LOVE」を連載中。また、人気海外ドラマの公式ホームページなどでも数多く活躍中。

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