円熟したレッドフォードのカッコよさに魅了される『さらば愛しきアウトロー』

銀行強盗、脱獄を繰り返すも誰も傷つけなかった
伝説のアウトロー「ほぼ実話」の愛すべき人生

2021/04/30 公開

ロバート・レッドフォードが愛すべき銀行強盗を演じた引退作

「これを最後に引退する」と宣言したハリウッドのスーパースター、ロバート・レッドフォードが本作で演じるのは、1920年6月生まれ、10代で初めて車の窃盗と脱獄を経験し、2000年の最後の逮捕まで18回の脱獄を重ねながら決して人を傷つけなかった実在のアウトロー、フォレスト・タッカー。若い日にはアウトロー役で売り出し、やがてアカデミー賞監督になり、若手映画作家育成のための「サンダンス映画祭」創設者として知られるなど、硬・軟自在にこなして生きてきたスーパースターの素顔が覗く楽しい映画だ。

スーツ姿が粋なフォレストは、仲間のテディ、ウォラーとともに銀行強盗を繰り返す。その手口は、銀行員に上着の内側に仕込んだ拳銃をチラリと見せ、「金を入れてくれ」とバッグを渡すだけ。そう、フォレストは一度も銃に弾を込めたことがなかった。

仕事=銀行強盗の合間に、フォレストは知り合ったジュエルと深い関係に

1981年のテキサス。アメリカン銀行で仕事を済ませたフォレストは、さりげなく車に乗り込む。演じるレッドフォードのその姿は、「カッコいいとは僕のこと」とばかりにスーパースターらしい存在感を放つ。やがて、追手の警察の動きを無線で傍受することで察知。途中、車のエンストで立ち往生していた女性、ジュエルにさりげなく手を貸し、警察の車をやり過ごす。

ジュエルに一目惚れし、彼女のことが忘れられないフォレストは、別れ際に聞いた連絡先に電話をかける。一方のジュエルも彼にまた会いたいと思っていたものの、もしかすると危ない人では?と同時に不安も抱いていた。それでも優しそうだし、素敵な人だったし、心配してもしょうがないじゃない!?という気持ちから再会を果たす。

そんな思いに心揺らすヒロインを演じるのは、『歌え!ロレッタ愛のために』(1980年)のカントリー歌手役でアカデミー賞主演女優賞を受賞したシシー・スペイセク。主演作『キャリー』(1976年)で世界中を怖がらせた彼女が恋するオバサマを演じ、理性では押さえられない気持ちを滲ませるあたりは、さすがオスカー女優の風格だ。

ダニー・クローヴァー、トム・ウェイツ演じる仲間たちとのドラマも見どころ

紳士な強盗フォレストが信頼を置く相棒テディを演じるのは、『リーサル・ウェポン』シリーズでメル・ギブソンが演じたハチャメチャ刑事に歯止めをかける相棒役を担い続けたダニー・クローヴァー。劇中では「俺にやれるか…」とつい弱気な本音を覗かせる。一歩間違えたら本格的なワル…という、その手前のさじ加減の演技を見せる。

もう一人の仲間、ウォラー役のトム・ウェイツはグラミー賞に7度ノミネートされ2度受賞、ロックの殿堂入りを果たしたミュージシャンだ。俳優としても『ダウン・バイ・ロー』(1986年)以降、ジム・ジャームッシュ監督のお気に入り俳優となり、監督のゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』(2019年)にも出演。フォレスト&テディと組み、入念な下調べなどを担いつつも、3人の中では紳士にはなりきれず…という役柄が似合っている。

スーパースターが魅了された粋なアウトロー

そんなフォレストたちの間近にいながら、何も気づかずに逃して地団駄を踏む非番の刑事ジョン・ハント。上司の命令でフォレストの事件を担当することになった彼は、事件の詳細を知って呆然とする。フォレストは2年間で93件もの銀行強盗に成功、しかもその間、一度たりとも人を傷つけていなかった。犯人の特徴を訊ねられた銀行の支店長は「すごく紳士的でした」と敬服したような口調。誰もがそんな調子だから警察は形無しだ。

ジョンを演じるのは、兄ベン・アフレックの監督デビュー作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007年)にも出演し、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016年)では数々の賞を受賞したケイシー・アフレック。大先輩のスターたちに囲まれ、肩に力の入った刑事を演じきった彼は若手ではピカイチの演技派だ。常に自然体のフォレストを相手に、あえて「頑張り過ぎの演技」を見せている。

フォレストは大胆にも偶然見かけたジョンに接触する

ジョンが失態を演じる間に、フォレストたちは大銀行を襲う計画を立ててミズーリ州へ旅立った。下見をした夜、珍しく不安を口にしたテディとウォラーは今回を最後に引退を考えていた。そんな仲間をよそにテレビを見ていたフォレストは、自分たちが「黄昏ギャング」とあだ名され、大きく取り上げられているのを見ていい気分。そして、ジョンが「自分の手で手錠をかけたい」と言うのを見てやる気を出す。「やってもらおうじゃないか」と言うことの結果、金塊強奪は大成功。しかし、ここまで大きな事件になればFBIが動きだし、田舎刑事のジョンの出番は失われ、フォレストたちがそのままで済むはずがなかった…。

レッドフォードの俳優引退作。彼の演技の集大成を目に焼き付けたい

「なぜ、強盗稼業から足を洗わない?」と訊かれて、「楽しいからさ」と答えるフォレスト。そんなアウトローに魅了されたレッドフォードが最後の出演作に選んだ快作は、彼が演じてきた『明日に向って撃て!』(1969年)の西部の荒くれ者サンダンス・キッドや、『スティング』(1973年)の若き詐欺師フッカーを懐かしく思い出させる。無邪気に人生ゲームをたしなむように犯罪に挑み、脱獄を繰り返して自由へと羽ばたく。どう考えても、これは「ロバート・レッドフォードのための映画」で、彼以外に演じられる人はいなかった、と断言してしまおう!

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。今の夢は『007/ノータイム・トゥ・ダイ』を大スクリーンで見ること。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
さらば愛しきアウトロー
放送日時:2021年5月29日(土)20:55~、30日(日)15:00~
チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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