大量の血とトラウマ級のバイオレンス描写...
社会からはみ出した者を描き続けるサム・ペキンパーの魅力
2021/04/05 公開
「ブラッディ・サム」の異名で知られるヤバイ映画監督の筆頭格、サム・ペキンパー
ヤバイ映画が最近は減った。ヤバイ映画監督も減った。僕が子どもだった頃は映画館だけじゃなく、午後のテレビなんかでも「これヤバくない?放送していいの?」と思うような映画が普通に放送されていた。今から30年くらい前の話だ。
ヤバイ映画がどんなものかというと、子どもが観たらあんまりよろしくないんじゃないか、と思うような映画だ。それで、だいたいの子どもはそういうヤバイ映画を観て育つ。そして、少しずつ大人の世界を知っていく。その経験は、たまにトラウマとして残る。映画とは元来そういうものだ。
ヤバイ映画監督というのは、もちろんヤバイ映画を作る人だ。中には、性格や生き方そのものがヤバイ人もいるが、それは別の話。僕にとってヤバイ映画を作る人の筆頭格が、今回ご紹介するサム・ペキンパー監督だ。
アメリカの映画監督で、代表作は『ワイルドバンチ』(1969年)、『わらの犬』(1971年)、『ゲッタウェイ』(1972年)、『戦争のはらわた』(1977年)など。映画の道を志す人でその名を知らない人はいない。アメリカ本国ではその残酷な作風から「ブラッディ・サム」(血塗れのサム)と呼ばれたとか。
たしかにサム・ペキンパーの映画には大量の血が出てくる。といってもスプラッター映画やホラー映画を撮ったわけじゃない。彼が描いたのは、男たちのハードボイルドな生き様だ。とにかく社会からはみ出した者ばかりを描く。「こんな奴が近くにいたら迷惑だ」と思うような男ばかりを主人公にする。(例外の一つが『わらの犬』だけど、これはこれで僕の人生最大級のトラウマ映画だ)
サム・ペキンパーの映画の中で好きな作品を一つ挙げろ、と言われたら、個人的には『ガルシアの首』(1974年)を挙げたい。ペキンパー監督自身もお気に入りの一作で、これを彼の代表作に推す人も多い。
ストーリーはといえば、「首探しの冒険」だ。メキシコの大地主の愛娘がいつのまにか妊娠した。地主が調べさせたところ、妊娠させたのはガルシアという男。「その首を取ってこい、コラァ!」ということで、主人公が首探しの旅に出る。シンプルな物語で、普通の映画監督が撮ったら、単純なロードムービーになる。
でも、サム・ペキンパー監督なのでそうはならない。出てくる人がとにかくクセモノぞろい。舞台がメキシコなのもあって、ギラギラベタベタ。なんだかずっとホコリっぽい。昨今のクリーンで抗菌な環境を推奨する世相とはまったく真逆。でも、それが味。
人生の理不尽を知れば知るほど、体に染み渡るサム・ペキンパーのやさしさ
サム・ペキンパーの映画に出てくるのはアウトローばかりだ。社会からはじかれ、孤独を酒で慰め、カネはない、それでも生きてかなきゃいけない人たち。ハッピーエンドはもちろん訪れない。人生はいつだって苦み走ったもので、世界は不公平にできている。サム・ペキンパーはうわべだけの欺瞞を容赦なく剥ぎとって、観客である僕たちに「お前はどうする?」と問いを叩きつける。
正直なところ、20代前半で観た時は、『ガルシアの首』の良さはそれほどわからなかった。「すごい映画だな~」とは思ったけど、本作の真価が胸に迫るようになったのは、もうちょっと後になってから。むかつく先輩や仕事相手と出会い、何度も握り拳を背中に隠し、落ちそうになる涙をこらえて夜道を歩く。そんな経験をすればするほど、サム・ペキンパーの映画は寄り添ってくれるようになる。
生きた分だけ、人は理不尽なことや悔しさを体に蓄積させていくのだろう。そんな時、サム・ペキンパーの映画には欺瞞がないから、厳しくてやさしい、大人の映画なのだ。「大丈夫。世界はもともと残酷なんだ。お前のせいじゃない」と言ってくれる。
だから、本当はとってもやさしい映画なのだ。そして、サム・ペキンパーはやさしい映画監督なのかもしれない。いやでも、類を見ないほどのバイオレンス描写をこよなく愛している節もあるから、やっぱりヤバイ映画監督だろうか。ともかく、サム・ペキンパーへの入門として『ガルシアの首』は必見だ。
文=入江悠
入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)など。連続ドラマ「ネメシス」が4月より放送中。
<放送情報>
ゲッタウェイ(1972)
放送日時:2021年4月8日(木)14:30~、21日(水)8:00~
キラー・エリート(1975)
放送日時:2021年4月13日(火)21:00~、23日(金)7:45~
ガルシアの首
放送日時:2021年4月14日(水)23:30~、22日(木)8:00~
わらの犬(1971)
放送日時:2021年4月20日(火)7:15~
チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
関連ワード
あなたにおすすめのコラム
-
この俳優から目が離せない
40 歳の若さで逝った伝説… 映画スター、松田優作の俳優としての生き様
2024/03/25
-
今月の韓国映画
「イカゲーム」のファン・ドンヒョク監督作 国の存亡を懸けた真実の物語を描く『天命の城』
2024/03/25
-
事件捜査ファイル
殺人事件に巻き込まれた私立探偵の運命は…? 実際の水利権を題材にしたネオノワールな探偵映画『チャイナタウン』
2024/03/25
-
コミックが生み出すヒット...
超人気ドラマの劇場版『ごくせん THE MOVIE』 失敗を認めチャンスをくれる主人公に背中を押される
2024/03/25
-
監督が語る巨匠の仕事
『羊たちの沈黙』と『フィラデルフィア』 俳優たちの最高の演技を引き出したジョナサン・デミの手腕
2024/03/25
-
旬ネタPICK UP
スーパーマンにバットマン、アクアマン、フラッシュも! エンタメ界を盛り上げてきた DC ヒーローの活躍をプレイバック
2024/03/04
##ERROR_MSG##
##ERROR_MSG##
##ERROR_MSG##
マイリストから削除してもよいですか?
- ログインをしてお気に入り番組を登録しよう!
- Myスカパー!にログインをすると、マイリストにお気に入り番組リストを作成することができます!
- マイリストに番組を登録できません
- ##ERROR_MSG##
現在マイリストに登録中です。
現在マイリストから削除中です。