1978年製作の学園ミュージカル映画『グリース』

リーゼントのジョン・トラヴォルタが歌い、踊る!
1970年代に作られた“フィフティーズ”映画『グリース』の魅力

2021/04/05 公開

フィフティーズ・ネタのギャグに注目して観るともっと楽しめる

ある年の夏休み。ティーンエイジャーのダニーは、オーストラリアから旅行に来ていた清純派の女の子サンディとひと夏の恋に落ちる。やがて秋が訪れ、ふたりは離ればなれになるかと思いきや意外な展開に。親の都合でサンディが偶然ダニーと同じ高校に転校してきたのだ。

ところが誠実だったはずのダニーはつれない素振り。彼は学内きっての不良グループのリーダー的存在で、仲間の反応を気にしていたのだ。呆れて他の男子と付き合い始めるサンディ。はたして二人の恋の行方はいかに?

革ジャンとスクールセーター。リーゼントとポニーテール。オープンカーとホットロッド。そしてロックンロール! 底抜けにハッピーなミュージカル映画『グリース』を観たなら、1950年代アメリカ産の典型的なティーン・ムービーだと思うだろう。でも注意して観てほしい。奇妙な点がたくさんあるから。

1950年代のファッションも話題に!(『グリース』より)

まずは、トップアイドルだったサンドラ・ディーの扱い。当時のティーン・ムービーで絶大な人気を誇っていた彼女がこの作品の中では小馬鹿にされているのだ。やはりこのジャンルのスター、フランキー・アヴァロンが本作に特別出演しているのだけど、劇中で彼が歌うロッカバラードは「ビューティ・スクール・ドロップアウト(美容学校落第生)」と題された脱力ソング。ドライブイン・シアターでは、無名時代のスティーヴ・マックイーンが主演していたことで有名な低予算B級SF映画『人喰いアメーバの恐怖』(58)がこれみよがしに上映されている。

そしてなによりダニーとサンディを演じているのは、この時代にはまだ子どもだったはずのジョン・トラヴォルタとオリヴィア・ニュートン=ジョンなのだ。そう、『グリース』がアメリカで公開されたのは1978年なのである。

主演のトラヴォルタは、この時23歳だった(『グリース』より)

なぜ当時から遡ること約20年前のアメリカが舞台になっているのだろうか? その理由は、『グリース』の時代のあとにやってきた1960年代にある。1960年代のアメリカは、ケネディ暗殺に公民権運動、そしてヒッピー・ムーヴメントと激動の時代だった。このため1970年代に入ると、アメリカ人はリアルタイムの出来事に疲れ果ててしまっていた。

そんな時代の雰囲気を反映して、「面倒臭いことは忘れて昔の日々を懐かしもうぜ」とばかり、1971年にシカゴで舞台上演が開始されたのが、1950年代のユースカルチャーを賛美したミュージカル劇『グリース』だったのだ。ちなみに“グリース”とは、リーゼント・スタイルに欠かせない油っこい整髪料のこと。このタイトル自体が、1967年初演のヒッピー・ミュージカル『ヘアー』(長髪の意味)へのアンチとして付けられたものだった。前述のようなニヤリとさせるギャグが散りばめられた『グリース』は観客にバカウケしてブロードウェイにも進出。トニー賞に6部門ノミネートされる成功作となった。

前日譚を映画化する企画もあがっている(『グリース』より)

『グリース』から大きな影響を受けたその後の映画たち

一方、映画の世界でも同様のコンセプトを持ったジョージ・ルーカス監督作『アメリカン・グラフィティ』(1973年)が大ヒット。同作に出演していたロン・ハワードが1950年代のティーンに扮したテレビコメディ「ハッピーデイズ」も高視聴率を記録した。音楽界では、1950年代ロックンロールのヒット曲カバーが売りのシャ・ナ・ナが冠番組を持つほどのスターになった。

こうなればショウビズ界の考えることはただひとつだ。そう、『グリース』をミュージカル映画化することである。かくして、『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)でスーパースターになったばかりのジョン・トラヴォルタと「そよ風の誘惑」が全米1位を記録していたオリヴィア・ニュートン=ジョンが招集され、(パーティ・シーンにはシャ・ナ・ナも出演)ビッグバジェットが投じられた映画版が完成したのだった。

サントラも大ヒットした(『グリース』より)

1970年代における1950年代リバイバルの総決算となった『グリース』は、当時映画史上第3位の興行収益をあげるメガヒット作に。ビー・ジーズのバリー・ギブが手がけ、フォー・シーズンズのフランキー・ヴァリが歌った主題歌は全米1位を獲得し、サントラアルバムは1978年のアメリカで2番目に売れたアルバムとなった。

ハッピーな気分になれるミュージカル映画(『グリース』より)

そんな『グリース』はその後の映画界にも多大な影響をもたらしている。カルト監督ジョン・ウォーターズがメジャースタジオで撮った『ヘアスプレー』(1988年)と『クライ・ベイビー』(1990年)は、明らかに『グリース』の影響下にある作品だ。『ヘアスプレー』はのちにブロードウェイで舞台化され、2007年に再映画化されているのだが、その際にヒロインの相手役を務めたザック・エフロンの出世作『ハイスクール・ミュージカル』(2006年)も事実上『グリース』のリメイクと言える内容である。『グリース』で描かれているトピックがいかに愛されているかがよくわかるだろう。そのトピックとは、「ちょいワル男子と優等生女子のじれったくなるような恋」だ。

たしかにベタすぎるにも程があるトピックかもしれない。でもそれこそがティーンエイジャーの普遍的な関心事であることを、『グリース』は教えてくれる。

文=長谷川町蔵

長谷川町蔵●ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「CDジャーナル」「EYESCREAM」などに連載中。著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「文化系のためのヒップホップ入門1~3」(アルテスパブリッシング/大和田俊之と共著)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(DU BOOKS/山崎まどかと共著)など。人生で最も観た映画は『ブレックファスト・クラブ』。

<放送情報>
グリース
放送日時:2021年4月8日(木)10:30~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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