その年の最も優れた映画に贈られるアカデミー賞作品賞の過去10年を振り返る(『コーダ あいのうた』)

時代背景や受賞理由を探るとより楽しい!
アカデミー賞作品賞の10年を遡る

2023/02/27 公開

今年もいよいよ年に一度の映画界最大のイベント、アカデミー賞授賞式が迫ってきた(現地時間3月12日)。最注目の作品賞はもちろん、1年間で最も優れた作品に贈られるわけだが、ここ10年くらいを振り返ると大激戦の末に受賞に到達したケースが多く目につく。要するに作品賞への道がドラマチック。そんな受賞へのプロセスを重ねながら改めて作品を観ることで、感動や興奮も高まったりする。

映画ならではの面白さ、社会が抱える問題を映しだすことを追求

たとえば劇的な瞬間で有名なのは、ちょうど10年前(2012年度、第85回)。授賞式では最後となる作品賞発表が、ホワイトハウスからの中継で、ミシェル・オバマ米大統領夫人(当時)が作品名を読み上げたことも話題になったが、受賞作の『アルゴ』は有力の1本でありながら、監督賞ノミネートの5人の中にベン・アフレックは入っておらず、作品賞は難しいとも言われていた。監督賞ノミネートなしでの作品賞受賞となると、23年前の『ドライビング Missデイジー』(1989年)まで遡らなければならない。ホワイトハウスの中継プラス、常識を覆しての栄冠で授賞式は盛り上がりをみせた。

『アルゴ』は1979年に起こったイランのアメリカ大使館人質事件を解決する物語で、救出を任されるプロフェッショナルたちをSF映画の撮影スタッフに偽装させるという、前代未聞のプロジェクトを映画化した作品。嘘のような驚きの実話に、エンタメ的な面白さ、そこに「映画」というネタが絡んだことで、映画人で構成されるアカデミー会員の心をつかんだ。もちろん人質救出作戦は緊迫感満点なのだが、そのクライマックスの攻防と結末に、アカデミー賞授賞式の記憶を重ねながら観るのも、映画ファンにとって一つの楽しみ。おそらく感動も倍増するのでは?『アルゴ』をきっかけに、この10年で、監督賞にノミネートされずに作品賞を受賞したケースはさらに2例に達した(『グリーンブック』と『コーダ あいのうた』)。

1979年に発生したイランのアメリカ大使館における人質救出作戦の模様を描く『アルゴ』

『アルゴ』と同じように、「後世に伝えたい実話」としてアカデミー賞作品賞に輝いたのは、2015年度(第88回)の『スポットライト 世紀のスクープ』など数多い。同作はカトリック司祭による性的虐待というスキャンダラスな事件を告発したジャーナリストたちを描き、アカデミー賞らしく社会性が強い骨太な仕上がり。

聖職者による性的虐待のスキャンダルを白日の下に晒そうとする記者たちの闘いを描く『スポットライト 世紀のスクープ』

そして後世に伝えるという意味で、アカデミー賞作品賞は「その時代を映している」ことも重要なポイント。2020年度(第93回)の『ノマドランド』はリーマンショック後の経済危機によって、自家用車に寝泊まりし、各地でパートタイムとして働く高齢者たちにフォーカス。アメリカの一断面を描いて高く評価された。

家を手放し、自家用車で季節労働の現場を渡り歩く現代の遊牧民(=ノマド)たちを映し出す『ノマドランド』

演出スタイルやテーマの「多様性」が高く評価された作品たち

そして描くストーリーだけでなく、映画のスタイルそのものが「時代」を象徴するのもアカデミー賞であり、記憶に新しいのが2019年度(第92回)の作品賞『パラサイト 半地下の家族』だ。裕福な一家と、半地下という厳しい生活を送る家族。その対比で世界中のどこにでもある格差社会をテーマにしつつ、何よりも英語以外の作品がハリウッドの頂点に立ったことが画期的。それまでの91回の作品賞はすべて英語メインだった。

人種の多様性が叫ばれてきた風潮を代弁するような結果であり、その意味でアカデミー賞が「時代」を映す鏡となった。『パラサイト』は映画として「楽しませる」ことに徹した作りで、「アカデミー賞作品=お堅い」というイメージを覆した功績も大きい。ユーモアも、バイオレンスやサスペンスの衝撃度も、そして切実さや感動も、あらゆる要素がハイレベルで、それらが一つの物語で美しく噛み合っている。ジャンルの多様性を1本でなしとげたのも『パラサイト』だった。

裕福な家族が暮らす豪邸に潜り込もうとする極貧一家のサバイバルを描くブラックコメディ『パラサイト 半地下の家族』

『パラサイト』と同じように、多くの人がシンプルに感情移入できる映画が作品賞に到達したのが、2021年度(第94回)の『コーダ あいのうた』だった。この年もライバルに強力な作品があったので、サプライズ的な受賞だった。聴覚障がいの家族の中で、1人だけ聴者である10代の少女を主人公に、家族との絆を見つめたこの作品は、もちろん聴覚障がいという「多様性」をフィーチャーしてはいるものの、ヒロインの成長を爽やかに見つめ、愛すべき珠玉作という印象。2018年度(第91回)の『グリーンブック』も含め、ここ10年間のアカデミー賞作品賞は、エンターテインメントという映画の王道を極めた秀作が意外なほど多い。そんな事実に気づかされたりもする。

聴覚障害を持った家族の中で、唯一の健聴者である少女の葛藤と成長を描く『コーダ あいのうた』

その反面で、2014年度(第87回)の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のような異色作もある。当たり役の過去に囚われるベテラン俳優の苦悩というテーマがある作品だが、全編をカメラが1回も途切れない「ワンカット風」で見せ切った点が野心的。実際には編集でつないでいるのだが、それをほとんど気づかせないのは、まさに映画のマジック!改めて観直して、そのつなぎ目を確認したくなる人も多いだろう。こうしたテクニックを評価するのも、アカデミー賞の役割だと再認識できる。

過去の栄光に囚われる落ちぶれた俳優が悪戦苦闘する模様をワンカット風で映す『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

このように過去10年を振り返るだけでも、アカデミー賞作品賞のタイトルはバラエティに満ちていることがよくわかる。つまり、様々なモチベーションに合わせて作品が選べ、なおかつそのすべてが「傑作」として保証されているのだ。

文=斉藤博昭

斉藤博昭●1963年生まれ。映画誌、女性誌、情報誌、劇場パンフレット、映画サイトなど様々な媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品。

<放送情報>
パラサイト 半地下の家族 [PG12]
放送日時:2023年3月13日(月)21:00~、26日(日)21:00~

(吹)パラサイト 半地下の家族 [PG12]
放送日時:2023年3月26日(日)12:30~

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) [PG12]
放送日時:2023年3月13日(月)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ

ノマドランド
放送日時:2023年3月11日(土)20:56~、12日(日)14:00~
チャンネル:ムービープラス

スポットライト 世紀のスクープ
放送日時:2023年3月9日(木)14:00~、22日(水)1:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)スポットライト 世紀のスクープ
放送日時:2023年3月11日(土)15:10~、15日(水)23:00~
チャンネル:スターチャンネル3

アルゴ
放送日時:2023年3月12日(日)15:00~

コーダ あいのうた
放送日時:2023年3月12日(日)17:05~
チャンネル:WOWOWシネマ

コーダ あいのうた
放送日時:2023年3月17日(金)16:00~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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