「最も偉大な女優50選」にもランクインする名優オードリー・ヘプバーンの魅力とは

永遠の妖精、オードリー・ヘプバーン
名作を振り返りながら、彼女の愛され力の秘密に迫る

2022/04/25 公開

演技とは異なる、生の感情を吹き込むオードリー

ハリウッドのゴールデンエイジを代表する最後のスターと言われるオードリー・ヘプバーン。時は移ろい、ハリウッド映画もスターの有り様も劇的に様変わりしたが、なぜか、オードリー映画は時間の洗礼をすり抜けて、いまもどこかで上映、または放送されるたびに新しいファンを獲得し続けている。それは、オードリー映画は寡作でも名作が多く、オードリー自身が役柄に演技とは少し異質の生の感情を投入しているからだ。『役に自分の体験を反映させることしかできなかった』と本人も語っているように、決して作り物ではない、自然体の演技が観客の心を射抜き続けた代表作の数々を、ここで改めて振り返ってみたい。

表敬訪問中に城を抜け出した王女をチャーミングに演じ切った『ローマの休日』

そんなオードリーの独特の演技スタイルが遺憾なく発揮されたのが、ハリウッドデビュー作の『ローマの休日』(1953年)だ。撮影前のスクリーンテストで過酷な戦時体験を聞かれた時、ユーモアで返したオードリーの人間性に魅了された監督のウィリアム・ワイラーは、季節はずれの猛暑に見舞われたローマでの撮影中、オードリーが繰り出す自然な感情の発露を心から堪能したと言われる。「真実の口」の前で共演のグレゴリー・ペックが発案した悪戯を悪戯とは知らず、マジで悲鳴を上げるシーンはその最たるものだし、撮影があまりに楽しくて泣く演技ができないオードリーをワイラーが叱り飛ばして、その剣幕にショックを受けたオードリーが涙を流す別れのシーンも、それに属する名場面だ。オードリーほど感情表現が絵になるスターはいなかった。

『昼下りの情事』では、背伸びした純情な女性を好演。非常にハマり役であった

『昼下りの情事』(1957年)で共演したゲイリー・クーパーは、当時オードリーとは25歳の年齢差があった。従って、クーパーが演じる中年のプレイボーイのフラナガン氏に対して、彼の気を引こうとして必死に背伸びするオードリー扮するアリアーヌの気持ちが伝わって、可愛くも切ない物語として成立している。また、パリのホテル・リッツで昼下りにデートする2人の関係は、設定上は肉体関係があっても何ら不思議ではないのに、ここでもオードリーの自然体の演技が効力を発揮して、父親と娘のようでもあり、大学教授と生意気な教え子のようでもあり、歳が離れたカップルのようでもあるという、監督のビリー・ワイルダーが狙った小粋なラブロマンスに着地。そこでは、演技力ではカバーできないオードリーならではのマジックが働いていた。

『マイ・フェア・レディ』では労働者階級の少女から淑女へと変貌をとげる

摩天楼の景色を切り取ったようなエッジィなルックに魅了される

同じワイルダーが監督した『麗しのサブリナ』(1954年)に始まり、オードリーからファッション・アイコンとしての魅力を存分に引き出したスタンリー・ドーネン監督のミュージカル『パリの恋人』(1957年)を経由して、オードリーが辿り着いた「シンデレラ物語」の完成形が、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』(1964年)だ。数多くのヒロイン候補の中から主人公のイライザ役に抜擢されたオードリーは、その日から、歌のレッスンと物語の前半で必要なロンドンの下町訛りの特訓を開始する。物語は、コベントガーデンの花売り娘がレックス・ハリソン演じる言語学者、ヒギンズ教授の実験材料となり、上流社会の社交場であるアスコット競馬場から、さらに宮廷晩餐会デビューする話のため、前半の下品な言葉遣いや動きは必須だったからだ。そこをオードリーが完全にクリアしたかどうかについては微妙だが、後半、変身後に見せる洗練された身のこなし、輝くような美しさ、そして衣装の着こなしは、様々な問題点を凌駕して多くの映画ファンを夢の時間へと誘うには充分だった。ほとんどの歌唱シーンが吹き替えだったことから、アカデミー賞にはノミネートすらされなかったオードリーだったが、当時のキャンペーン映像のどれを見ても心からの笑顔で対応している姿には感服する。『マイ・フェア・レディ』は恐らく、自然体ではどうにもならない女優という職業の厳しさをオードリーが身を以て痛感し、その後『いつも2人で』、『暗くなるまで待って』(共に1967年)で見せた圧巻の演技表現へと繋がる分岐点になる作品ではなかったかと思う。

ジバンシィのブラックドレスを身にまとうオードリーに心奪われる『ティファニーで朝食を』

ニューヨークの5番街、ハイジュエリー・ショップ、ジバンシィのリトル・ブラック・ドレス、永遠のテーマソング等々、当時人気絶頂だったオードリーが出演した『ティファニーで朝食を』(1961年)は、オードリー映画の粋が結集したようなラブロマンスとして、これをベストに推すファンは多い。原作者のトルーマン・カポーティは主人公のホリー役にはマリリン・モンローが最適だと考えていたが、結果的に、オードリーのコミカルで芯が強く、摩天楼の景色を切り取ったようなエッジィなルックが、この役にぴったりだったことはファンの皆さんもご存知のはずだ。午前さまの眠気まなこでドアを開けるホリーの可笑しさ、シャワー上がりの窓辺で弾き語る名曲「ムーンリバー」、大雨の街角で愛猫キャットを見つけて泣きじゃくるラストシーンと、何度でも見たくなるキラーショットが数珠繋ぎになった、これはオードリー映画の中でも特にカルトと呼べる作品。同時に、ティファニーというハイジュエリーがハリウッド女優とコラボし、いまも語り継がれ、コピーされるイメージ戦略のパイオニアでもある。

古本屋の娘のシンデレラストーリーを描いた『パリの恋人』

オードリーが他界して早30年。人々の日常から夢や憧れが奪われつつある現代、スターがスターで、映画が夢だった時代へと連れ去ってくれるオードリー・ヘプバーンの世界は、以前にも増して貴重になりつつあるような気がする。

文=清藤秀人

清藤秀人●映画ライター・コメンテーター。アパレル業界から転身。映画com、CINEMORE、Yahoo!ニュース個人「清藤秀人のシネマジム」等にレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社・刊)他。

<放送情報>
いつも2人で
放送日時:2022年5月6日(金)13:00~、21日(土)9:00~

おしゃれ泥棒
放送日時:2022年5月6日(金)15:00~、22日(日)8:00~

チャンネル:スターチャンネル1

昼下りの情事
放送日時:2022年5月3日(火・祝)12:00~、24日(火)18:40~

パリの恋人
放送日時:2022年5月3日(火・祝)14:20~、25日(水)19:00~

ローマの休日
放送日時:2022年5月4日(水・祝)12:00~、27日(金)18:50~

噂の二人
放送日時:2022年5月4日(水・祝)14:10~、26日(木)19:00~

シャレード(1963)
放送日時:2022年5月5日(木・祝)12:00~、30日(月)19:00~

マイ・フェア・レディ
放送日時:2022年5月5日(木・祝)14:00~、31日(火)18:00~

チャンネル:スターチャンネル2

シャレード(1963)[吹]金曜ロードショー版
放送日時:2022年5月11日(水)22:00~、15日(日)4:40~

マイ・フェア・レディ[吹]名作洋画ノーカット10週版
放送日時:2022年5月11日(水)23:50~、16日(月)7:00~

チャンネル:スターチャンネル3

ティファニーで朝食を
放送日時:2022年5月29日(日)14:45~

(吹)ティファニーで朝食を
放送日時:2022年5月6日(金)12:15~

チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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