映画表現の芸術性を極めた秀作が競う
カンヌ国際映画祭で発掘された才能を振り返る
2022/04/25 公開
ハリウッド最大の祭典である米アカデミー賞授賞式が過ぎ去ると、世界中の映画関係者の関心は一斉にカンヌ国際映画祭に向けられる。フランス南東部、地中海沿岸のリゾート地カンヌで毎年5月に催されるこの歴史ある映画祭は、ベルリン、ヴェネチアとともに世界三大映画祭の一つとして知られている。メイン部門のコンペティションには映画表現の芸術性を極めた選りすぐりの最新作が出品され、最高賞パルム・ドールなどの各賞を競い合う。
先鋭的な映像表現や現代的なテーマ…数々の部門で評価された名作たち
WOWOWとスカパー!の映画専門チャンネル各局では、来る5/17~28に開催される第75回カンヌ国際映画祭に合わせて、過去の受賞作を多数放映。そのラインアップには巨匠、名匠と認知された著名監督の作品がずらりと並ぶが、若き新鋭監督の受賞作もセレクトされている。本稿ではカンヌがお墨付きを与え、その才能を世界に知らしめた放映作品を紹介したい。
まずWOWOWの『ライトハウス』(2019年)は、アニャ・テイラー=ジョイ主演の歴史ホラー『ウィッチ』(2015年)で脚光を浴びたアメリカ人監督、ロバート・エガースの長編第2作。19世紀後半、絶海の孤島にそびえ立つ灯台にやってきた2人の男が、過酷な重労働に携わるさなか、想像を絶する悪夢のような運命をたどっていく姿を描く。あえて古典的なスタンダードサイズのフォーマットを採用したモノクロ映像が、ただならぬミステリアスなムードと閉塞感を増幅。第72回カンヌの監督週間でワールドプレミアを飾り、国際映画批評家連盟賞を受賞した本作は、夢幻的かつ先鋭的な映像美が高く評価され、米アカデミー賞でも撮影賞にノミネートされた。
ザ・シネマの放映作品では、第72回のカンヌで脚本賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』(2019年)が目を引く。ある一枚の肖像画に隠された秘話を回想形式で映像化し、18世紀の抑圧された女性たちの愛のかたちを鮮烈に紡ぎ出す。画家とそのモデルになった伯爵令嬢の微妙な距離感を、巧みな視線の交錯によって表現したセリーヌ・シアマ監督の演出が出色。カンヌでは優秀なLGBT/クィア映画に与えられるクィア・パルム賞も受賞した。
また、ザ・シネマではLGBT映画の『アデル、ブルーは熱い色』(2013年)も放映。第66回のカンヌではアブデラティフ・ケシシュ監督のみならず、情熱的なラブシーンを体現した2人の主演女優アデル・エグザルコプロス、レア・セドゥにもパルム・ドールが贈られた。本作と『燃ゆる女の肖像』は、共に優れた作家性と現代的な多様性を兼ね備えたラブストーリーである。
「新たな才能を世界に発信する」カンヌの役割
スターチャンネルで放映される『夏をゆく人々』(2014年)は、イタリア・トスカーナ地方の豊かな自然のまっただ中で養蜂業を営む家族の物語。4姉妹の長女である12歳の少女の視点を通して、一家の穏やかな暮らしぶりや彼女たちが経験する思いがけない変化を映し出す。みずみずしさと大胆さが入り混じった演出力を披露したアリーチェ・ロルヴァケル監督はこれが長編2作目で、イタリア映画の未来を担うと見なされている逸材。デビュー作『天空のからだ』(2011年)もカンヌで紹介され、初のコンペ出品となった『夏をゆく人々』で第72回のグランプリを受賞した。
同じくスターチャンネルの『ピアノ・レッスン』(1993年)のジェーン・カンピオン監督は、先頃Netflixの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021年)で米アカデミー賞監督賞に輝いた。今やベテランのカンピオンもキャリア初期からカンヌとの関わりが深く、第46回のコンペに出品された『ピアノ・レッスン』はカンヌ史上初の女性監督によるパルム・ドール受賞作となった。
ムービープラス放映の『朝が来る』(2020年)を手がけた河瀨直美監督は、現役の日本人監督で最もカンヌと縁が深いフィルムメーカーだ。商業映画デビュー作『萌の朱雀』(1997年)で、最も優秀な新人監督の作品に与えられるカメラドールを受賞。その後はコンペティションの常連となり、『殯の森』(2007年)ではグランプリを射止めた。まさしくカンヌに愛され、世界に羽ばたいた監督と言えるだろう。新型コロナの影響で開催中止となった第73回のオフィシャル・セレクション作品『朝が来る』は、特別養子縁組という制度を題材にした辻村深月原作のヒューマン・ミステリー。すでに名匠の風格漂う河瀨監督が、繊細かつ懐の深い語り口で家族の「つながり」を観る者に問いかける。
ちなみに昨年の第74回では、フランスの新進監督ジュリア・デュクルノーの長編第2作『TITANE/チタン』(2021年)がパルム・ドールに輝き、濱口竜介監督の2度目のコンペ出品作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)が脚本賞を受賞。とかく権威の高さで語られがちなカンヌ国際映画祭の「新たな才能を世界に発信する」役割に改めて注目したい。
文=高橋諭治
高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ+〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。
<放送情報>
アデル、ブルーは熱い色 [R15+]
放送日時:2022年5月3日(火・祝)2:45~、27日(金)23:00~
燃ゆる女の肖像 [PG12]
放送日時:2022年5月10日(火)18:45~、26日(木)21:00~
チャンネル:ザ・シネマ
朝が来る
放送日時:2022年5月18日(水)18:15~、27日(金)8:30~
チャンネル:ムービープラス
ライトハウス
放送日時:2022年5月15日(日)22:00~、27日(金)0:50~
チャンネル:WOWOWシネマ
夏をゆく人々
放送日時:2022年5月28日(土)10:00~
チャンネル:スターチャンネル1
ピアノ・レッスン
放送日時:2022年5月21日(土)21:00~、28日(土)13:00~
チャンネル:スターチャンネル2
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