キャストは長い尻尾と体毛で覆われたボディタイツ姿に、それぞれが魅惑のメイクを施し観る者を魅了する

月光の下、しなやかに踊るネコたちがチャーミング
『キャッツ』多彩なキャストのパフォーマンス

2022/08/01 公開

スピルバーグが撮りたかった、もう一つの傑作ミュージカル

「キャッツ」は、T・S・エリオットによる子ども向けの詩篇を基に、「エビータ」「オペラ座の怪人」などで知られるアンドリュー・ロイド=ウェバーの作曲により誕生したミュージカルだ。1981年にロンドンで初演され大ヒットし、翌82年にブロードウェイへ進出。以来、同地で18年間にわたり上演され続けてきた名作を、『英国王のスピーチ』(2010年)、『レ・ミゼラブル』(2012年)のトム・フーパー監督が映画化した。

実は、ブロードウェイ公演が幕を開いてすぐ、スティーヴン・スピルバーグ監督が「キャッツ」を映画化する企画が浮上した。ところが、猫の描き方についてアニメにするか?それとも実写か?といった議論が持ち上がり、企画は難航の末、最終的に流れてしまった。その代わりなのか、本作にはスピルバーグが製作総指揮で名を連ね、原作への愛着が語られている。スピルバーグは『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)でミュージカル映画に初挑戦しているが、彼の監督でまったく毛色の違う『キャッツ』も観てみたかったと思う。

ロンドンのゴミ捨て場でネコの舞踏会が年に一度開かれる

月夜のネコたちの舞踏会で歌い踊る「ジェリクルキャット」たち。そのなかから、天上へ昇り新たに生まれ変われる1匹が選ばれる。幻想的な設定はあるものの、これといってストーリーはなく、個性の強いネコたちが歌い踊りながらアピールを繰り広げる。言うなればそんな内容だろうか。

得意を生かしたミュージシャンやダンサーたちの好演

ショーのステージで歌い踊る。その中心に立つのは、グラミー賞受賞のシンガーソングライター、テイラー・スウィフト演じるボンバルリーナ。他の出演者の大半はオーディションで選ばれたそうだが、その妖艶な姿とパフォーマンスが裏付けるように、スウィフトは納得の別格扱い。ロイド=ウェバーの協力を得て、映画オリジナル楽曲「Beautiful Ghosts」を共同制作し、エンドロールでスウィフトが歌っている。

三日月のゴンドラに乗って空から降りてくるボンバルリーナのシーンは、まさに豪華絢爛。

その「Beautiful Ghosts」を本編で歌うのは、英国ロイヤルバレエ団のプリンシパル・ダンサーであるフランチェスカ・ヘイワードが演じる白い捨てネコ、ヴィクトリア。何も知らず、舞踏会に紛れ込んでくるピュアな存在が、愛らしく瑞々しい。もちろん、踊りもすばらしく魅力的。彼女を誘うネコ、マンカストラップを演じるのは元ニューヨークシティ・バレエのロビー・フェアチャイルド。2人のパフォーマンスは、バレエ好きにはきっと見逃せない。

まさにネコのようなしなやかさで舞うヴィクトリア。物語は彼女の視点から語られる

映画に見る、実力派俳優たちの底力と思い

もちろん、映画がアーティスト、バレエダンサーの独壇場というわけではない。ボンバルリーナといわくありげな仲に見えるお尋ね者のマキャヴィティを演じるのは、ドラマ「刑事ジョン・ルーサー」の主演でゴールデン・グローブ賞を受賞した英国の売れっ子、イドリス・エルバ。自分がジェリクルキャットになるために邪魔な有力候補を片端からさらっていく。そのワイルドな悪党ネコぶりで存在感を放つ。

ネコたちが賑やかに踊り歌う場へそっと入り込み、身を隠すように見ているグリザベラは、もう若くなく、誰にも見向きされない悲しい娼婦ネコ。彼女がネコの長老オールドデュトロノミーに勧められ、このミュージカル最大の聴きもの「Memory」を熱唱するさまに心を震わされる。一度聴いたら絶対に耳から離れないとまで言われ、多くの歌手もカバーする曲を歌うのはジェニファー・ハドソン。そう、アカデミー賞助演女優賞に輝いた『ドリームガールズ』(2006年)での彼女のパフォーマンスを知る人なら、自ずと期待も高まるはず。

ちなみに、オールドデュトロノミーを演じた英国演劇・映画界の重鎮ジュディ・デンチには、ロンドンでの「キャッツ」初演の際、出演が決まっていたものの足の筋を切断してしまい出演が叶わなかった過去があるそう。彼女にとって本作への出演は、その悔しい過去を振り払うものになったのではないだろうか。

ネコたちの視点で造形された美術の数々も見どころ。映画だからこそできるリアルな作り込みだ

映画は、舞台とはかなり異なる演出になっているのも楽しい。先述のオリジナル楽曲も然り、鉄道ネコのスキンブルシャンクス(スティーヴン・マックレー)が、舞台にはない華麗なタップダンスを踊ってミュージカルの楽しさを加えるなど、ワクワクさせられるのもうれしい。そんなネコたちのパフォーマンスに魅せられながら、どのネコが選ばれるのかを予想して観るのもおすすめです。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。最近見た『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が来年のアカデミー賞にノミネートされないかと今から期待。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
キャッツ
放送日時:2022年8月20日(土)20:56~、21日(日)13:15~
チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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