SF作家フランク・ハーバートの代表作をドゥニ・ヴィルヌーヴが新たに映画化した『DUNE/デューン 砂の惑星』

苦難の連続だった傑作SF「砂の惑星」の映像化
『DUNE/デューン 砂の惑星』へと至る半世紀をひも解く

2022/05/30 公開

『メッセージ』(2016年)、『ブレードランナー 2049』(2017年)と近年SF映画で高い評価を得ているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の超大作『DUNE/デューン 砂の惑星』(2020年)。SF作家フランク・ハーバートの代表作「デューン砂の惑星」を原作とする本作は、砂漠に覆われた辺境の惑星をめぐって繰り広げられる壮大な物語。1984年にはデヴィッド・リンチが映画化、2000年にはドラマ化がされたほか、何度も映像化が試みられてきた経緯を持っている。ヴィルヌーヴ版に続く道のりをふり返り、多くの映画人を惹きつけてきた「デューン」の魅力を探ってみたい。

壮大過ぎて映像化不可能!?企画と頓挫を繰り返してきた歴史

ハーバートが雑誌オムニに「デューン」を発表したのは1963年のこと。65年に単行本化されると、ヒューゴー賞、ネビュラ賞と権威あるSF文学賞2冠に輝くなど絶賛された。物語の舞台は、人類が宇宙に巨大な帝国を築いた約8000年後の未来。貴重な資源メランジを産出する辺境の惑星アラキス、通称デューンをめぐる陰謀に巻き込まれた領家の少年ポールが、救世主として覚醒していく姿が描かれる。

皇帝や惑星を治める領家、砂漠の民フレメンほか多くの勢力が絡み合い、愛憎渦巻く人間模様、激しい権力闘争など波乱のドラマを展開する本作。その背景には環境と生態の関わり、資源問題といったエコロジー、多文化共生など多くのテーマが込められており、そんな奥深さが時代を超えて「デューン」が愛されている理由だろう。

『ホドロフスキーのDUNE』(2013年)は、未完に終わった映画版「デューン」に迫るドキュメンタリー映画。『エル・トポ』(1969年)や『ホーリー・マウンテン』(1973年)の奇才アレハンドロ・ホドロフスキー監督が1975年に進めていたプロジェクトを、本人をはじめ多くの関係者のインタビューや膨大な資料で解き明かす。

奇才アレハンドロ・ホドロフスキーが、未完に終わった自身の監督作「デューン」を語る『ホドロフスキーのDUNE』

原作の救世主誕生を軸に精神を解放させる映画を目指したホドロフスキーは、一緒に映画を作るクルー=魂の戦士を求め各地を巡る。キャスト陣にサルバドール・ダリやミック・ジャガー、オーソン・ウェルズ、音楽担当としてピンク・フロイドらを次々に口説き落としていったエピソードは、まるでおとぎ話。結局スケールが膨らみすぎて企画は頓挫するのだが、波瀾万丈の舞台裏をハイテンションでふり返るホドロフスキーの創作への強い思いは感動すら呼び起こす。

当時ホドロフスキーの元には、若手を中心に才能あるクリエイターも集まっていた。「デューン」が中止になると、彼らはハリウッドに向かい新風を巻き起こしていく。おもなメンバーは『エイリアン』(1979年)のオリジナル脚本を書くダン・オバノン、同じく『エイリアン』で邪悪なエイリアンを生み出すH.R.ギーガー、『エイリアン』や『ブレードランナー』(1982年)の衣装などをデザインするメビウス、『エイリアン』のメカデザインや『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)のコンセプト画を描くクリス・フォス、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)のデロリアンをデザインするロン・コッブ…錚々たる顔ぶれだが、映画界では無名だった彼らを見出したホドロフスキーの鑑識眼にも驚きだ。

このドキュメンタリーでは、ホドロフスキーが売り込みのためメジャースタジオ各社に送った画コンテやデザイン画の行方にも言及。『スター・ウォーズ』(1977年)や『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)、『ターミネーター』(1984年)など多くのSF映画に見え隠れするホドロフスキーの痕跡にも触れており、映画ファンならきっと目から鱗だろう。

左より、ホドロフスキー、皇帝の部隊サーダカー、メビウス(『ホドロフスキーのDUNE』)

未完に終わった「デューン」映画化プロジェクトはほかにもある。アクション、お色気、ホラーとキワモノ映画で知られるB級映画の帝王ロジャー・コーマンは1971年に映画化権を入手。壮大なアクションや人間ドラマのほか、社会性や政治的側面を持つ多面性に魅せられたというコーマンは、自身が監督する予定で脚本も執筆したが、製作には至らなかった。

その後、『猿の惑星』(1968年)のプロデューサー、アーサー・P・ジェイコブスが権利を取得。彼が監督に想定していたのが、中東を舞台にした『アラビアのロレンス』(1962年)を手掛けたデヴィッド・リーンだった。この作品にはアクションやスペクタクルに加え、美しくも厳しい砂漠を捉えた神秘的な映像が盛り込まれ、人間と環境が互いに作用していく様を克明に描いた「デューン」のイメージにもぴったり。『アラビアのロレンス』テイストで映画にしたいと考えるのも当然だろう。

ちなみにヴィルヌーヴは自分の人生を変えた映画の一つにこの作品を挙げている。残念ながら1973年にジェイコブスが急死したため企画は立ち消え、やがて権利はホドロフスキーへと移行したのだった。奇才ホドロフスキー、B級コーマン、そして巨匠リーンとそれぞれ毛色の違う監督たちの映画化が企画されていたところにも原作の懐の深さが伺える。

ホドロフスキーと入れ替わり1977年に権利を手にしたのは、『戦争と平和』(1956年)や『キングコング』(1976年)の大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスと娘のラファエラだった。79年には『エイリアン』を終えたリドリー・スコット監督、コンセプトデザインのギーガー、さらに原作者ハーバートも参加。話題性あるスタッフ編成は、映画作りをイベント化してヒット作を生んできたデ・ラウレンティスらしい。しかし脚本作りは難航し、スコットの離脱を機にチームは解散してしまう。

デヴィッド・リンチ、そしてドゥニ・ヴィルヌーヴによって映画化が成される

そして1981年、仕切り直しで就任したのが『エレファント・マン』(1980年)で脚光を浴びたデヴィッド・リンチだった。リンチは3年がかりで初の大作『砂の惑星』(1984年)を完成。正攻法で壮大な宇宙戦記に挑んだが、長大な物語を2時間17分に詰め込んだため駆け足の感は否めなかった。ただし、モノトーン調の色彩やボンテージ風ファッション、グロテスクなハルコンネンや怪物化した航宙士など、リンチらしいビジュアルはいまだ強烈なインパクトを放っている。

バンド「ポリス」のスティングもフェイド・ラウサ役で出演し、圧倒的な存在感を放ったデヴィッド・リンチ監督の『砂の惑星』

なおこの作品はテレビ放映時に、削除シーンを加えた約3時間9分のバージョンが作製された。帝国の歴史を紹介したイントロを入れるなどわかりやすさを重視した改変だが、リンチ本人は関わっていない(監督は「偽名」を意味するアラン・スミシー名義)。

リンチらしいビジュアルの独特の世界観には目を見張るものがある(『砂の惑星』)

スクリーンから離れると、2000年にはドラマ版「デューン 砂の惑星」がケーブルテレビで放映された。計4時間30分という大作で、03年には原作の続編「デューン砂漠の救世主」「デューン砂丘の子供たち」を基に「デューン 砂の惑星 II」も放映された。展開を含め原作を尊重した丁寧な作りで、セットや衣装のデザインも凝っていた。なお撮影監督を『地獄の黙示録』(1979年)など3度のアカデミー賞に輝く巨匠ヴィットリオ・ストラーロが担当した。実は彼はホドロフスキーから「デューン」のオファーを受けた「魂の戦士」の一人で、今作には自ら希望し参加したという。

ドラマ版の完成後、プロデューサーのリチャード・P・ルービンスタインはパラマウント・ピクチャーズと組み映画化も企画。後に『バトルシップ』(2012年)や『ローン・サバイバー』(2013年)などのピーター・バーグ監督や、『96時間』(2008年)のピエール・モレル監督と4年にわたって検討した。残念ながら製作には至らなかったが、アクション・サスペンス系の監督を起用というパラマウントのアプローチは面白い。

2016年、レジェンダリー・ピクチャーズは「デューン」の映画化権を獲得。インタビュー記事でヴィルヌーヴが「デューン」の大ファンだと知ったプロデューサーのメアリー・ペアレントは、すぐに監督契約を結び『DUNE/デューン 砂の惑星』が始動した。10代で初めて「デューン」を読んでファンになったというヴィルヌーヴは、『灼熱の魂』(2010年)以来6作ぶりに脚本に参加。原作のイメージそのまま物語を時系列で整理し直し、ナレーションや説明的なセリフに頼らず設定が理解できる構成に仕立てている。

ティモシー・シャラメが主人公のポール・アトレイデスを演じる『DUNE/デューン 砂の惑星』

「デューン」でもっとも重要な要素の一つが、惑星デューンの多くを占める過酷な砂漠とそこに生息している砂虫〈サンドワーム〉の存在。これらをどう映像にするかが、作品を左右すると言ってよい。そういう意味で今作は、ハーバートが構想したままの世界観に忠実な、映像化が可能なテクノロジーが揃ったタイミングだったといえる。

撮影には高解像度のIMAXカメラが併用され、砂漠とポールが見る夢や幻覚シーンはラージフォーマットで撮影。砂漠のシーンは引き気味の構図を多用し、自然の雄大さと人間の小ささを印象づけた。サンドワームの登場シーンも、もうもうと上がる砂煙や振動によって砂漠の表面を泡立たせるなど、凝ったビジュアルが味わえる。ただ迫力があるだけでなく、クジラを思わせる神々しいデザインも魅力的だ。

ハーバートによる「デューン」シリーズは全6作。どこまで映画化されるかは明かされていないが、すでにヴィルヌーヴは2023年の公開に向け続編の製作を進めている。レジェンダリーはテレビ化の権利も取得しており、女性だけの組織ベネ・ゲセリットを描くスピンオフのドラマシリーズ「Dune: The Sisterhood」が準備中だ。ハーバートの死後、『DUNE』に製作総指揮として名を連ねた息子ブライアン・ハーバートによるスピンオフ小説も数多く発表されている。惑星デューンを取り巻く壮大な叙事詩の映像化が期待できそうだ。

文=神武団四郎

神武団四郎●映画ライター。「映画秘宝」「MOVIE WALKER PRESS」「シネマトゥデイ」などへの寄稿、パンフレットの執筆、編集など。編書に「別冊映画秘宝 絶対必見!SF映画200」(洋泉社)など。監修書に「テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトデザイン画集」(玄光社)、「メイキング・オブ・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(玄光社)など。ゴジラよりコング派。

<放送情報>
デューン/砂の惑星
放送日時:2022年6月26日(日)16:45~

ホドロフスキーのDUNE
放送日時:2022年6月26日(日)19:15~

DUNE/デューン 砂の惑星
放送日時:2022年6月26日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

DUNE/デューン 砂の惑星
放送日時:2022年6月30日(木)14:45~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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