菅原文太や松方弘樹、梅宮辰夫、田中邦衛ら錚々たる顔ぶれが揃った『仁義なき戦い』

観ないと損!な問答無用のバイオレンス・アクション
世界からリスペクトされる深作欣二監督のパワーに痺れろ!

2021/05/24 公開

獄中手記を基に描く実録ヤクザ映画の傑作

ヤクザ映画のみならず、日本製バイオレンス・アクション映画の金字塔。それが深作欣二監督(1930年生~2003年没)の1973年1月13日公開作『仁義なき戦い』だ。

あのクエンティン・タランティーノやジョン・ウーや北野武をはじめ、後続への影響力は計り知れない。例えば白石和彌監督は自身の『孤狼の血』(2018年)について、「この映画は東映の歴史で暫く途絶えていたプログラムピクチャーの血脈に位置する作品だと思います」とコメントした。彼が受け継いだ偉大なる「血脈」とは、『仁義なき戦い』を端緒かつ頂点とする「実録やくざ映画」のスタイルとパッションだ。言わば東映という組の中で「盃を受ける」くらいの覚悟を持って、『孤狼の血』は全身全霊の「仁義オマージュ」を捧げたわけである。

未見の人は、とにかく一度でいいから観てほしい。『アウトレイジ』(2010年)や『レザボア・ドッグス』(1992年)などが好きな人は、特に。『仁義なき戦い』は問答無用に面白い。しかもクセになる。何度でもリピートしたくなる中毒性がある。

独特の不穏なムードと血湧き肉躍るバイブレーションの高揚を備えた、津島利章作曲のあまりに有名なテーマ曲。「敗戦後、すでに一年……」など淡々と語られるナレーションの蠱惑。秩序なき暴力に同期するがごとく荒々しく揺れる手持ちのカメラワーク。ニュースのようにヤクザの死亡を伝えるテロップ。映画を組成する全ての要素が「発明」と言っていいレベルだ。

映画界に新たな風を吹き込んだ独自の見せ方

1作目の興行的成功を受けて製作された2作目『仁義なき戦い 広島死闘篇』

1973年の『仁義なき戦い』から始まった東映の実録路線は、それまで人気だった任侠映画の情緒と様式美をブチ破った。このニューウェイヴの旗手となったのが、当時40歳代前半だった気鋭監督の深作欣二。すでに『現代やくざ 人斬り与太』(1972年)など新しいスタイルの傑作をモノにしていた彼は、ロベルト・ロッセリーニ監督の『無防備都市』(1945年)あたりをヒントにしたドキュメンタリータッチの導入を、アクション映画の流儀へと独自に昇華した。

原作は美能組元組長・美能幸三の手記を基にした飯干晃一のノンフィクション小説。脚本は名手・笠原和夫。第1作の記録的大ヒットにより、『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)、『仁義なき戦い 代理戦争』(1973年)、『仁義なき戦い 頂上作戦』(1974年)、『仁義なき戦い 完結篇』(1974年)と矢継ぎ早に続編が作られ、オリジナルシリーズはわずか一年半足らずの間に放たれた以上の計5作となる(『完結篇』のみ脚本は高田宏治。新シリーズなど派生作はその後もいくつか作られた)。

シリーズ最高作との呼び声も高い3作目『仁義なき戦い 代理戦争』

物語の舞台は敗戦直後の広島(第1作の冒頭~タイトルバックは原爆投下によるキノコ雲の映像である)。昭和21年の呉市、混沌とした闇市から物語は始まる。主人公格となるのは、広能昌三(菅原文太)。戦地から復員し、まもなく極道の世界へと身を投じていく精悍な野獣のごとき若者だ。実際に起こった暴力団抗争事件を背景に、広能の個人史と、経済成長に伴って肥大していくヤクザ社会の縄張り争いを背景とした人間群像劇が展開していく。

当初はこれが最終作の位置づけだった4作目『仁義なき戦い 頂上作戦』

仁義なき、という看板の言葉は伊達ではない。裏切り、寝返り、密告の嵐。ワイルドな広島弁が飛び交い、誰が敵で味方か判らない予断を許さぬアナーキーな混乱の中、どの悪党も素晴らしい個性を放つ。クズ、ゲス、鬼畜。自分に不利益をもたらす奴は全員許さない山守義雄(金子信雄)など、存在感は抜群だ。全体の作劇としては欲望と権謀が渦巻くパワーゲームの構造を分析的に俯瞰したものだが、その知性を獣性が乗り越えていくスピードとパワーが凄まじい。

もちろん第1作以降もヤバい傑作がそろっている。第2作の『広島死闘篇』はカルト的支持を集める「外伝」的作品(菅原文太扮する広能は主人公ではなく狂言回しとなる)で、鉄砲玉など使い捨てにされる若きチンピラたちの異様な情念が充満している。メインとなるキャストは千葉真一と北大路欣也。凄惨なリンチを受ける川谷拓三も強烈な印象を残す。第3作の『代理戦争』は第1作の物語を受け継ぐ集団心理劇で、ドラマ作りの見事さという点ではシリーズ最高作の呼び声も高い。井筒和幸監督の『無頼』(2020年)の劇中でも本作のことが言及されていた。

シリーズ最大のヒットを記録した『仁義なき戦い 完結篇』

この『仁義なき戦い』シリーズの魅力に取り憑かれた者は、『仁義の墓場』(1975年)や『北陸代理戦争』(1977年)など、さらにハードコアな深作監督の実録映画にも駒を進めるだろう。要するに筆者が言いたいのは、観ないと損!ということだけだ。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
仁義なき戦い 4Kリマスター版[R15+]
放送日時:2021年6月1日(火)11:00~、19日(土)16:00~

仁義なき戦い 広島死闘篇
放送日時:2021年6月1日(火)13:00~、19日(土)18:00~

仁義なき戦い 代理戦争
放送日時:2021年6月2日(水)11:00~、19日(土)20:00~

仁義なき戦い 頂上作戦
放送日時:2021年6月2日(水)13:00~、19日(土)22:00~

仁義なき戦い 完結篇
放送日時:2021年6月3日(木)11:00~、20日(日)20:00~

仁義なき戦い 総集篇
放送日時:2021年6月4日(金)11:00~、20日(日)16:00~

チャンネル:東映チャンネル

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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