ハロウィンの夜に現れる殺人鬼ブギーマンの恐怖を描く『ハロウィン』

人気スラッシャーホラーに多大な影響を与えた金字塔
その40年ぶりとなる続編『ハロウィン』

2021/11/29 公開

鬼才ジョン・カーペンターが生み出した斬新なシリアルキラー

ホラー映画の歴史にその名を刻むジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』(1978年)は、わずか30万ドルの低予算で製作された独立系作品だ。画期的な興行的成功を収めたこの映画は、ホラーのサブジャンルのひとつであるスラッシャー・ムービーの定型を確立し、その後の『13日の金曜日』(1980年)、『エルム街の悪夢』(1984年)、『スクリーム』(1996年)といったスラッシャー系の人気ホラーに多大な影響を与えた。

あらすじは「ベビーシッターの女子高校生が連続殺人事件に巻き込まれる」という他愛ない内容だが、創作上の自由を得ることを条件として監督を請け負ったカーペンターは、斬新なシリアルキラー像を生み出した。6歳の時に姉を殺害し、病院送りとなったマイケル・マイヤーズ。表情をうかがい知ることができない白いマスクを被り、人格や感情も読み取れないこの殺人鬼を、カーペンターは決してこの世から消すことのできない「純粋な邪悪」と定義づけた。ゆえに不死身であるマイケルは、子供たちをさらうとされる民間伝承の怪物の名前を取って「ブギーマン」と称されるようになった。つまりマイケルは生身の人間であると同時に、人智を超えたスーパーナチュラルな魔物でもあるという極めて特異な殺人鬼なのだ。ちなみにマイケル・マイヤーズ/ブギーマンは、カーペンターとデブラ・ヒルが共同で執筆した脚本では「シェイプ」と表記されていた。

精神病棟から解き放たれてしまったブギーマンが再び人々を襲う!

また、大都会でも田舎でもなく、イリノイ州ハドンフィールドという架空のサバービアを舞台にしていることも『ハロウィン』の大きな特徴だ。閑静な住宅街の道端や洗濯物を干している庭先などに、白マスクを被ったマイケルがぼーっと立っているショットは、ただそれだけで恐ろしい。多くの観客は映画館の客席、もしくは自宅のリビングルームという「安全地帯」に身を置いているのに、あたかも異常な連続殺人鬼が自分の身近な生活圏に侵入してきたかのようにリアルな恐怖を感じるハメになった。

さらに「マイケルはハロウィンの夜にやってくる」というキャッチーな設定は、製作サイドの映画会社にとっても好都合だった。伝統行事であるハロウィンは毎年秋になれば必ずやってくるし、そのうえマイケルは不死身の怪物なのだから、続編やリメイクを作る口実に困ることがない。実際にシリーズ化された『ハロウィン』はいくつもの続編が作られ、ロブ・ゾンビ監督による同名リメイク(2007年)も製作された。

「純粋な邪悪」のコンセプトを受け継いだ、40年越しの続編

2018年製作の『ハロウィン』は、リメイクやリブートではなく「続編」だ。数多くのヒット・ホラーを世に送り出してきたブラムハウス・プロダクションのCEO、ジェイソン・ブラムがプロデューサーを務め、カーペンター御大も製作総指揮に名を連ねている。

ブギーマンとの戦いに備えて40年間を過ごしてきたローリーの執念もすごい

この正統なる続編のアイデアをブラムやカーペンターにプレゼンしたのは、ダニー・マクブライドとの共同で脚本を執筆したデヴィッド・ゴードン・グリーン監督。彼らが考案したのは、他のシリーズ作との事実関係や時間軸のつじつま合わせをすることなく、「1978年版の40年後の出来事を描く」というシンプルな企画だった。

物語は2018年10月29日、男女のジャーナリストが40年前にハドンフィールドで発生した大量殺人事件の真相を取材するため、マイケルが収容されている精神科病棟を訪問するところから始まる。ところが翌日、マイケルは他の病院へバスで移送される途中に脱走。やがてハロウィン当日の10月31日、マイケルが舞い戻ってきたハドンフィールドで新たな惨劇が巻き起こる…。

グリーン監督は、脱走したマイケルがハドンフィードに向かう道中でつなぎ服、マスク(40年の経年劣化を表現したデザインが秀逸!)、包丁を入手していき、外見的にもブギーマンが「復活」を果たす過程を細やかに描き出す。マイケルが発するセリフはひとつもなく、カーペンターが定義した「純粋な邪悪」のコンセプトを受け継いでいる。

前作同様、ローリーをジェイミー・リー・カーティスが演じる

もうひとつのストーリーの軸は、1978年版の事件を生き延びたローリー・ストロード(ジェイミー・リー・カーティス)の動向だ。かつて女子高校生だったローリーも今や白髪が目立ち、孫がいる初老の女性。しかし悠々自適の余生とはかけ離れ、なんとローリーはこの40年間ずっとマイケルがハドンフィールドに帰ってくることを警戒し、たゆまぬ戦闘の鍛錬に励んでいたのだ。本作はそんなローリーとマイケルが「宿命の対決」になだれ込んでいく様を、直線的なタイムラインで映し出す。凄まじい死闘を予感させるクライマックスに向け、じわりじわりと高まる緊張感に痺れずにいられない。ローリーと娘カレン(ジュディ・グリア)、孫アリソン(アンディ・マティチャック)という三世代の女性家族の団結が描かれている点も、映画の熱量を高めている。

そして、この40年越しの続編プロジェクトは3部作として構想されている。先の10月29日に日本でも封切られた第2弾『ハロウィン KILLS』(2021年)、2022年公開予定の完結編『Halloween Ends(原題)』へと連なっていくのだ。しかもグリーン監督がすべてメガホンをとるこのトリロジーは、2018年10月31日の一夜の出来事に焦点を絞っている。はたして、呪われたハドンフィールドの町に夜明けは訪れるのか。今から来年のハロウィン・シーズンが待ち遠しい。

文=高橋諭治

高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ+〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。

<放送情報>
ハロウィン(2018) [R15+]
放送日時:2021年12月12日(日)23:15~、29日(水)1:30~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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