2人のおおかみこどもと母親の13年にわたる親子の物語 (『おおかみこどもの雨と雪』)

『時をかける少女』から『未来のミライ』まで
細田守監督の作家性に僕が惹かれる理由

2021/07/26 公開

様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井さんが「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。第2回は最新作『竜とそばかすの姫』が公開中の細田守監督について。WOWOWにて「細田守監督特集」として放送される『時をかける少女』(2006年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)、『未来のミライ』(2018年)の4本を中心に、細田作品の魅力を語ってもらった。

描きたいテーマがハッキリしている細田監督の作家性

細田監督の映画を初めて観たのは1999年公開の『デジモンアドベンチャー』です。「デジモンアドベンチャー」は、僕が小学生ぐらいの時に登場した育成携帯ゲームをアニメ化した作品です。今でこそゲームの世界に入ったり、異世界に転生したりする作品はよく見かけますが、この頃はすごく珍しかったのでTVアニメの放送も毎週ワクワクしながら観ていました。僕がイメージする「仮想現実」や「四次元」の基礎を作った作品、それが「デジモン」です。大好きなアニメの劇場版が、細田監督の映画監督デビュー作だと思うと感慨深いですね。

その10年後、インターネットの世界がグッと進んだ時代に登場するのが『サマーウォーズ』。これはめちゃくちゃハマって、3回くらい映画館に行きました。最初は小さな映画館で観たのですが、大きいスクリーンで観るべき作品だと感じて、すぐに別の劇場へ向かったのを覚えています。

細田作品に関しては1本につき2~3回は映画館、さらにDVDを買って何度も繰り返し観るぐらい大好きです。監督がご自身の人生感を踏襲しているところが楽しいし、そこに惹かれます。新作を観る時は「最近、細田監督はどんな感じなんだろう?人生に何を感じているんだろう?」と確認する感じですね。作品を観れば近況が分かるので、エッセイを読んでいる感覚に近い気がします。

未来からやってきた妹・ミライちゃん(『未来のミライ』)

無性に細田作品が観たくなるのは、商業的な理論のもとで作られたアニメに出会った時です。もちろん、それはそれで楽しめるのですが、僕は描きたいテーマがハッキリしている細田監督の作家性が好きなんです。細田作品はいずれもヒットしているけれど、毎回テーマは違うし、演出も同じ手法じゃないところがいいんですよね。ファンとしては、正直ヒットしなくてもいいから、監督には好きなことをやり続けてほしいとさえ思っています。

マイナスイオンも感じられる細田作品の魅力

細田作品で一番好きなのは『バケモノの子』です。たしか細田監督に息子さんが生まれた時期で、父親が息子にかける無償の愛情みたいなものが感じられました。熊徹と九太は本当の親子ではないけれど、熊徹は育ての親であり父親同然という存在。物語中盤で本当の父親も登場するのですが、離ればなれに暮らしていた父親をちょっと悪く描くのかなと思ったら、そうではなかった。熊徹とは別タイプの良い父親として描かれているところも素敵だと思いました。僕が惹かれたのは本当の父親ではない熊徹が、自分を犠牲にしてでも九太(息子)への愛情を見せるところ。父親と息子、男同士の絆を感じてグッときました。

一人ぼっちの少年・九太と暴れん坊のバケモノ・熊徹の成長と絆を描く(『バケモノの子』)

『未来のミライ』は、細田作品で一番泣いた映画です。僕は独身で子育ての経験もないのですが、この作品はくんちゃん目線で楽しみました。僕も妹が生まれた時に、くんちゃんのように拗ねたりしていた話を親から聞いていたので、「こんな感じだったのかな」なんて思いながら観ました。見たもの、感じたものを屈折することなく受け止めるくんちゃんの姿を通して、自分にもこんな時期があったのかもと思うと、とても懐かしい感じがして涙がこぼれました。細田監督もくんちゃんの両親みたいに子育てに奮闘中なんだろうなと確認できる作品でもあります。

両親が生まれたばかりの妹に付きっきりで、拗ねてしまうくんちゃん(『未来のミライ』)

『おおかみこどもの雨と雪』は、僕の中で一番難解な細田作品です。母親をテーマにした作品だったので実体験に落とし込めず、ファンタジーの世界として捉えていたからかもしれません。細田作品には多かれ少なかれファンタジー要素はあるのですが、『サマーウォーズ』や『未来のミライ』から感じるファンタジーとは別物な気がしました。結末がすごく印象的で、子どもの人生なんだから、子どものやりたいようにやらせてあげるのが親というものなんだと考えさせられました。親のエゴで子どもに何かを強要するものじゃないんだなと。そのようなことが、いつかストンと理解できる日が来るのかなと思いながら、何度も観返している作品です。

都会を離れ、自然豊かな田舎で子育てをし、母親として自身も成長していく花(『おおかみこどもの雨と雪』)

『時をかける少女』だけは、最初に観たのが映画館ではなく、TVのオンエアでした。高校2年か3年生の夏休みに、放送されているのをなんとなしに観たのが最初でした。めちゃくちゃ映画っぽいキャラデザだなと思ったら、貞本義行さん(「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」など)が担当していて、そこに惹きつけられました。今でこそ、タイムリープを描く作品はたくさんありますが、(原作の物語を)現代にしっかり落とし込んだうえで、うまく作用している。いまを生きる人たちの心に、きちんと刺さる描き方をしていると感じました。

筒井康隆による名作小説を原作とし、その20年後を舞台とした『時をかける少女』

僕は、タイプリープもので最終的に世界を変えてしまうパターンが苦手なんです。でも、『時をかける少女』は、途中でぐちゃぐちゃになってしまっても、最後は元の世界に戻る。ここが僕の中ではすごく大事なことだと思っています。世界を変えてしまったら、自分目線では良くなっていても、どこかに弊害をもたらしている可能性がある。誰かを生き返らせると、誰かが死んでいる可能性だってある。この作品は良い側面だけを見ているタイムリープものじゃない、そういう意味で自分の中ですごくスッキリした作品です。そんな感想を持ったのは、大人になって観返した時なんですけどね。

原作の主人公だった芳山和子の姪である紺野真琴と、2人の少年との瑞々しい青春ストーリー(『時をかける少女』)

最後に、細田作品は自然を丁寧に描いているのもポイントです。田舎の風景や青空がとても綺麗で気持ちいいんです。あと、動物がよく登場するので、そこにも癒されますし、作品からマイナスイオンが出ている気がします。自然や動物にデジタルのような世界観が入り混じっても成立する、それが細田監督の作品の魅力でもあります。

取材・文=タナカシノブ

岩井勇気●1986年生まれ。幼稚園からの幼なじみである澤部佑とのお笑いコンビ「ハライチ」として活躍。初のエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」が17刷り重版中。放送されるアニメ作品はすべてチェックし、テレビ朝日で放送中の「まんが未知」など、漫画やアニメに関する番組でもMCを務める。

<放送情報>
未来のミライ
放送日時:2021年8月9日(月・休)12:15~
時をかける少女(2006)
放送日時:2021年8月9日(月・休)14:00~
おおかみこどもの雨と雪
放送日時:2021年8月9日(月・休)15:45~
バケモノの子
放送日時:2021年8月9日(月・休)17:45~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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