ロボットに殺人は可能なのか?「ロボット工学三原則」の課題に向き合う『アイ,ロボット』

ロボットに殺人は可能なのか?「ロボット工学三原則」の課題に向き合う『アイ,ロボット』

アイザック・アシモフの小説「われはロボット」をベースにしたSFアクション『アイ,ロボット』

  • 事件捜査ファイル

ロボットに殺人は可能なのか?
「ロボット工学三原則」の課題に向き合う『アイ,ロボット』

2022/08/01 公開

第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、その限りではない。
第三条:ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。
<「われはロボット[決定版]」アイザック・アシモフ著/小尾芙佐 訳(ハヤカワ文庫)より>

この条文は「ロボット工学三原則」と呼ばれ、SFファンにとって共通の理解となっている概念だ。この三原則をベースに、SF作家アイザック・アシモフはロボットをテーマにした短編小説を1940年より展開。それらは「われはロボット」というタイトルで編纂され、同テーマにおける古典的名作として幅広い周知を得ている。2004年に公開されたSF映画『アイ,ロボット』は、この同名アンソロジーから着想とキャラクターを活かし、緊張に満ちたアクション・サスペンスへと発展させたものだ。

ロボット嫌いの刑事スプーナーは、投身自殺したラニング博士はロボットに殺害されたのでは?と疑念を持つ

原作小説の本質的なテーマを守りながらも、エンタメ性の高い作品として昇華

ロボットが人間の世話役として普及している2035年の未来。ある日、ロボット開発のパイオニアであるラニング博士(ジェームズ・クロムウェル)が投身自殺を遂げる。調査のために派遣されたシカゴ警察・殺人課の刑事スプーナー(ウィル・スミス)は、彼がロボットに殺されたのではないかと疑念を抱き、ラニングが所属していたサイバネティックス企業USロボティクス社を徹底的に洗い出す。そして研究室を捜索中、サニーと名づけられたロボットが逃亡を図ったことから、彼を第一容疑者とする追跡が開始されていく。

こうした過程において、前述したロボット三原則がドラマに不穏な影を落としていく。調査協力のためにスプーナーを案内していたUSロボティクス社の主任心理学者カルヴィン博士(ブリジット・モイナハン)は、三原則は絶対であり、ロボットによる殺人行為などあり得ないと主張する。だが、サニーは従来のモデルに加工を施した、三原則に従わない特別仕様のものであることが明らかになるのだ。いったい誰が、何の目的で―?

スプーナーを演じるウィル・スミスのアクションもあり、エンタメ感ある作品としても観る者を楽しませる

本作は「われはロボット」から様々な要素を引用しており、中核をなすのは「迷子のロボット」というエピソードだ。この短編小説はカルヴィン博士が恒星間移動でハイパードライブ技術を開発中の惑星基地に運ばれ、そこでロボット三原則の第一条が入力されていない規格外モデルを、危険回避のために探し出すというストーリーだ。

映画はこのトラブルケースをもとに、三原則を逸脱したロボットによる殺人疑惑と、それを追う刑事の物語へとアダプトされている。こうした拡張はウィル・スミスの主演アクション映画という前提に従属的だが、主人公をロボット工学からは一歩引いた人物に設定することで、彼の体験を通して「A.I.(人工知能)に依存した社会」を観客に共有させる、きわめて合理的な手段といえるだろう。結果として映画は原作の本質的なテーマに忠実でありながら、サスペンスものとしての強度に優れ、娯楽作品としての機能を見事なまでに果たしているのだ。

本当にロボットは「三原則」から逸脱して殺人事件を起こしたのか?

ロボットが普及し、それにまつわる問題も抱えた未来社会のリアリティを創出

また『アイ,ロボット』はストーリーのみならず、プロダクションデザインも優秀なコンセプトのもとで構築されている。特にロボットの造型は、トランスルーセント(半透明)仕様でパソコンに革新性を与え、より大衆化に寄与した当時のApple社製コンピューター「iMac」を彷彿とさせ、それが劇中世界におけるロボットの浸透を比喩的に表しているのだ。ゆえに今日的な目から見ればやや時代がかった印象を覚えるも、画面の隅々にまで行き届いた設定へのこだわりが、映画としての鮮度を高いまま保たせている。

テクノロジーが発達し、それに依存する現代社会へ警鐘を鳴らしている

なによりロボットが高度な発達によって自我を得たのであれば、それは一つの知的生命体として尊重すべき対象ではないのか―?

行き過ぎた文明への批判やテクノロジーへの警鐘をゆっくりと最大限にしながら、物語は高次元の問題提起へと移行していく。そしてアシモフが唱えたロボット工学三原則が、科学的暴走のストッパーにとどまらず、広義で我々に必携なモラリティーであることを実感させるのだ。

文=尾崎一男

尾崎一男●1967年生まれ。映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

<放送情報>
アイ,ロボット
放送日時:2022年8月13日(土)21:00~、27日(土)12:00~

アイ,ロボット[吹替版]
放送日時:2022年8月22日(月)21:00~
チャンネル:WOWOWプラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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