韓国バイオレンスの中でも屈指の衝撃作『悪魔を見た』

イ・ビョンホンとチェ・ミンシクが火花を散らす!
苛烈な暴力描写に圧倒される復讐劇『悪魔を見た』

2022/03/22 公開

悪魔のような人物に愛する人を奪われたら…

「ミイラ取りがミイラになる」という言葉がある。「人を連れ戻すために出かけた者が、その目的を果たせずに自分もその場所に止まってしまう」という意味だ。『悪魔を見た』では、愛する者を奪われた主人公が、復讐のため、悪魔のような男の元へと出かけていく。果たして彼は、「ミイラ」になることなく戻ってくることができるのだろうか。

雪の降るある夜、国家情報院捜査官のキム・スヒョン(イ・ビョンホン)は婚約者のジュヨン(オ・サナ)から電話を受ける。一人で出かけていた彼女の車がパンクし、修理会社が来るのを待っているところだという。不安を感じたスヒョンだったが、持ち場を離れることができず、結局、仕事に戻る。その後、学習塾の送迎用の車を運転している男チャン・ギョンチョル(チェ・ミンシク)が、ジュヨンの車に近づく。数日後、行方がわからなくなっていたジュヨンを捜索中の警察が、川辺に捨てられた遺体の一部を発見する。

チェ・ミンシクが、サイコすぎる猟奇殺人鬼を怪演!

人里離れた山中にある山荘を舞台にしたブラック・コメディ『クワイエット・ファミリー』(1998年)でデビューをして以降、ヒューマン・コメディ『反則王』(2000年)、リリカルなホラー『箪笥』(2003年)、スタイリッシュなノワール『甘い人生』(2005年)、荒野を舞台にしたアクション『グッド・バッド・ウィアード』(2008年)と、ジャンルの枠を軽々と飛び越えながら、独自の美学に裏打ちされた作品を生み出してきたキム・ジウン監督。長編第6作となった『悪魔を見た』は、『クワイエット・ファミリー』に出演した俳優チェ・ミンシクが1本の脚本を彼のもとに持ってきたところから制作が始まったという。

脚本を手掛けたのは、『悪魔を見た』と同じ2010年に監督デビューを果たすことになるパク・フンジョン。これまた同じ年にリュ・スンワン監督によって映像化された『生き残るための3つの取引』の脚本の執筆と並行して、同作に登場する連続殺人犯のエピソードを膨らませて書いたのが『悪魔を見た』だったという。この脚本を読んで「動機よりも行為そのものが目立つところがキム・ジウン監督のスタイルに合うのでは」と考えたチェ・ミンシクが監督に推薦。キム・ジウンは「悪魔のような人物によって愛する人を失ったら、果たして私はどうするのか?」という「感情」と「本能」に従って、作品を完成させた。

不条理さとアイロニーを映し出す苛烈な暴力描写

当初、チェ・ミンシク自身が演じることを希望していたというキム・スヒョン役には、監督の提案で、『甘い人生』、『グッド・バッド・ウィアード』に続いてイ・ビョンホンを起用。キム・ジウン監督が本作の後で手掛けた『密偵』(2016年)でも存在感を発揮しているイ・ビョンホンは、愛する婚約者を無残に殺されたショックと絶望によって、自らの想定を超えて醜く変貌していく男を、顔の筋肉のわずかな動きまで駆使しながら演じている。

復讐に燃える男の静かな狂気をイ・ビョンホンが体現

一方、『オールド・ボーイ』(2003年)で世界的な名声を得た後、やや方向を見失っているかのように見えたチェ・ミンシクは人間の弱さと醜さを極大化したようなキャラクターを作り上げ、『悪いやつら』(2012年)や『新しき世界』(2013年)で演じることになる当たり役へとつなげていく。

『悪魔を見た』は10年以上前の作品だけに、その後、ブレイクを果たした俳優が小さな役で顔を見せているのも興味深い。その筆頭は、事件を捜査する若手刑事役のオム・テグ。今作ではまともなセリフさえなかった彼は、6年後の『密偵』でソン・ガンホを監視する警官役を好演して大きく注目され、2021年には『悪魔を見た』の脚本を手掛けたパク・フンジョンが監督したNetflixオリジナル映画『楽園の夜』で主演を務めるまでに成長。その若き日の姿をぜひ、探してみてほしい。

監督と俳優に加えて、この映画の暴力描写についても、触れておかなければならない。冒頭、チェ・ミンシク演じるチャン・ギョンチョルが、車の中にいる女性ジュヨンを惨殺するシーンを筆頭に、この映画に登場する暴力シーンは、韓国映画の中でも最も苛烈なレベルとなっている。また、被害者のほとんどが女性で、レイプシーンもあるので、鑑賞にあたっては注意が必要だ。韓国での封切り時には、レーティング審査を行う映像物等級委員会が殺人と復讐に関連したいくつかのシーンについて「人間の尊厳と価値を著しく毀損」していると指摘して、「制限上映可(指定された映画館のみ上映可能)」区分であると判定。最終的に1分30秒あまりを削除し、「青少年観覧不可」(日本の「R18+」に相当)区分で上映された。

復讐への執着と止まらない暴力の果てに何が残るのか…

キム・ジウン監督はこの作品において、「『悪を悪として罰する』ということの不条理」と「思いを叶えた者がさらに苦しまなければならないアイロニー」を表現したかったと語り、「極限まで行く、激しい復讐劇にしたかった」としている。目を覆いたくなるような残酷な暴力描写はそのために必要だったのかもしれない。私自身はこの映画を見ながら、「結局、暴力では何かを守ることはできない」と感じた。その証拠に、この映画の中では、武術に長けた国家情報院の捜査官である婚約者も、凶悪犯罪を長年、扱ってきた元刑事の父親も、殺人犯に狙われた女性を助けることができない。そればかりか、「婚約者と同じ苦痛を犯人に与える」と決意した主人公の歪んだ欲望は、別の被害者まで生み出してしまう。「暴力を自在に扱える」と過信した者は、結局、暴力によってしっぺ返しを食う。そのことの意味が、今、痛切に伝わってくる。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニムズ・ジェンダーから読む」(青弓社)がある。

<放送情報>
悪魔を見た[R15+指定版]
放送日時:2022年4月5日(火)23:00~

チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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