当初は2020年4月に全世界公開予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で3度の延期を余儀なくされ、昨秋、念願の公開となった

ダニエル・クレイグが挑んだ最後のボンド
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

2022/05/30 公開

アンチをはねのけ築き上げた、硬派なボンド像の総決算

ショーン・コネリー主演の『007/ドクター・ノオ』(1962年)から始まった「007」シリーズの25作目『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、英国秘密情報部員(MI6)のエージェント「007号」ジェームズ・ボンドをダニエルが演じた5本目の、そして最後の作品となった。

2005年、舞台を中心に活躍していた金髪、ブルーアイズの中堅俳優のダニエルが6代目ボンドに決まった際、ボンド・ファンの間では「原作者イアン・フレミングが創造したボンドは黒髪にダークアイズ。あまりに違う」とクレームの嵐が吹いた。しかし、ダニエルが初めてボンドを演じた『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)の出来の素晴らしさでその嵐もピタリと止んだ。

「007」ナンバーと殺しのライセンスを返上したボンドが、自らの身体と愛車を頼りに壮絶なミッションに挑む

ダニエルは原作の行間を読み込み、寡黙で、肉体的にタフで硬派なボンド像を見事に体現してみせた。『ジェーン・エア』(2011年)のキャリー・ジョージ・フクナガ監督による本作は、ダニエルの過去のボンド像とリンクさせつつ有終の美を飾るドラマが繰り広げられる。

「ボンドガール」の枠にはまらない新時代のヒロイン

物語は、ボンドがMI6を辞め、前作『007/スペクター』(2015年)で出会い、その後イタリアで一緒に暮らすマドレーヌ(レア・セドゥ)との突然の別れをきっかけに展開する。前作の犯罪組織スペクターに襲撃されたボンドは、実父がスペクターの幹部だったマドレーヌの裏切りを疑うも、真相はわからぬまま2人は離ればなれに。

ボンドと旧知のフィリックス(右)はサフィンに誘拐されたロシアの細菌学者の救出をボンドに依頼する

5年後、ジャマイカに滞在するボンドは、CIA情報員フィリックス(ジェフリー・ライト)からの依頼でキューバへ飛ぶ。現地での任務を前にボンドは、ハイヒールに黒のイブニングドレス姿もセクシーなCIA情報員パロマと出会う。

パロマ役のアナ・デ・アルマスは、ダニエルが(寡黙なボンドとは対照的に)おしゃべり探偵を演じた『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年)で、南米移民の看護師役で出演。その素朴な印象とは打って変わり、これはもう「ビックリ!」としか言いようのない、本作でのセクシーな変貌ぶりにダニエルもさぞ驚いたことだろう。そんな彼女が魅せるピンヒールシューズを履いたエージェントのアクションなんて、シリーズ始まって以来の衝撃だ。

スペクターの構成員が集うパーティーへ潜入するボンドとパロマ。パロマはこれが初任務とは思えぬほど圧倒的な活躍でボンドをサポート

男性上位の1960年代に誕生した「007」シリーズの女性たちは、男女平等、フェミニズムの嵐を受けながら、時代と共に大きく変わった。「ボンドガール」と呼ばれていた女性たちの時代をいまや昔のものにする、タフな女性エージェントが誕生した。そんなパロマの存在こそが、原案・脚本も手掛けたフクナガ監督の巧みな計算なのだろう。

ダニエルの容姿、過去作の挿入歌が重要な要素に?

本作でボンドが対峙するのは、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のラミ・マレックが演じる凶悪なテロリスト、サフィン。かつて能面をつけた彼が幼いマドレーヌの家族を襲撃、彼女と浅からぬ因縁を秘めたサフィンはスペクターに家族を殺害された過去を持ち、特定のDNAを持つ者を殺害するナノマシン兵器で世界制圧を企んでいた。そんな狂気の男とボンドの戦いは、イギリスのみならずロシア、そして日本を巻き込んだ壮大なスケールの、ダニエル版ボンド最後の見せ場として見逃せない。

ボンドが出会うもう一人の女性ノーミ(ラシャーナ・リンチ)は、番号と殺しのライセンスを受け継いだ、「007」の後継者

サフィンとの戦いと並行して描かれるのが、マドレーヌとの再会の物語。ノルウェーの自宅に滞在する彼女を訪ねたボンドは、金髪、ブルーアイズの幼い少女マチルドを見かける。「違う、あなたの子じゃないわ」とマドレーヌは言うが、さて真実は…?

スリリングな展開に親子、家族という従来のシリーズにはなかった要素が添えられ、ここで改めてダニエルの金髪とブルーアイズが物語に活かされる。世界に受け入れられたダニエル版ボンドは、もはやフレミングが考えていた以上のボンド像が誕生したことを物語る。

そんな本作では、ビリー・アイリッシュが歌うテーマ曲「No Time To Die」はアカデミー主題歌賞を受賞しているほか、ルイ・アームストロングの大ヒット曲「愛はすべてを越えて」の、インストゥルメンタルが挿入歌として、歌唱バージョンがエンドロールで流れる。この曲は『女王陛下の007』(1969年)の挿入歌でもあり、2代目のジョージ・レーゼンビー演じるボンドが、ある人物の死に際し、曲名の原題「We have all the time in the world」とセリフを発した際に流された。このことがどんな意味を持つのかを含めて、ダニエルの有終の美を堪能してほしい。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。最近見た『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が来年のアカデミー賞にノミネートされないかと今から期待。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
放送日時:2022年6月11日(土)20:00~、19日(日)18:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

(吹)007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
放送日時:2022年6月11日(土)13:00~、15日(水)17:00~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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