海洋生物学専攻の男子大学生と車椅子の女性との真っ直ぐな純愛を描く『ジョゼと虎と魚たち』

誰の心にも突き刺さる、相手を想い合うピュアな登場人物たち
アニメ『ジョゼと虎と魚たち』は「キュンとする恋愛映画」

2021/12/01 公開

様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井勇気さんが、「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。第3回は『ジョゼと虎と魚たち』(20)。2003年に犬童一心監督により実写映画化もされた田辺聖子の同名小説を、新たに劇場アニメ化。アニメーション制作は、TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」のボンズが務め、主人公の恒夫の声を『砕け散るところを見せてあげる』(20)の中川大志が、恒夫が出会う車椅子の女性、ジョゼを連続テレビ小説「おかえりモネ」の清原果耶が担当している。「ピュアな恋愛作品が好き」という岩井さんに本作の魅力を語ってもらう。

ひょんなことでジョゼと出会った恒夫は、彼女の注文を聞いて相手をするというバイトを始めることに

ストレートな恋愛にキュン。ハッピーエンドでスッキリ

全体的にうまくいかないことが多い中でさらに大変なことが起きるので、ストレスが溜まるし、どんよりとした物語なのですが、ハッピーエンドで終わってよかったです。恋愛のシーンだけを観ると、キラキラしたストレートな恋愛が描かれていて、好きなタイプの作品ですね。性癖は捻じれていてもいいけれど、恋愛観は捻じれてほしくない。ストレートな純愛はわりと観るジャンルで、キュンとする作品は大好きです。

いつも怒っているジョゼが素直な部分を見せた時は、「かわいい」ってキュンとなります。たとえば、恒夫と一緒に絵の具を買いに行くシーン。「青だけでこんなにあるんだ!」と目を輝かせ、テンションが上がるところがすごくかわいらしかったです。ジョゼはこういうところに驚くんだ、と発見できた気がしたので。

きっとジョゼはテンションが上がっているところや、やさしい部分を見られるのが恥ずかしい性格で、そんな彼女が人目を気にせず喜んじゃっているところがかわいいと思いました。きっと恒夫もそんなジョゼが愛おしくなったんじゃないかな。2人のデートシーンはキュンとするところがいっぱいでした。ジョゼが恒夫に抱えられて、波打ち際ではしゃぐシーンなんて最高ですし、デートコースも良かったですね。

足が不自由で家に引きこもっていたジョゼは、恒夫との出会いで外の世界へ踏み出すようになる

恒夫に対しては、最初「つかみどころがない」という印象がありました。心が広いし、すごく真っ直ぐなので。助けた相手にひどいことを言われても、やさしく接する恒夫の包容力がすごすぎて、すぐには彼の感情に共感できなかったです。ツンケンしているけれどジョゼの方が人間っぽい感じがしたし、共感しやすい気がしました。僕だったらジョゼとはすぐにケンカになってしまいそうだけど(笑)。

恒夫が事故に遭ったあたりから、彼の人間味を感じる部分も出てきて、より物語に入り込むことができました。「彼も普通の人間だったんだ」って。何事もポジティブに捉えてリハビリしていく様子は、恒夫らしいなと思いましたね。

僕がこの作品で一番惹かれたのは、恋愛要素です。好きだ嫌いだという感情の動きが激しい物語ではないけれど、「好きなのかな」「どう思っているのかな」と気になりながら、気持ちを確認するところに行き着くまで、近くで見届けられたところがよかったです。「アニメ『ジョゼと虎と魚たち』ってどんな作品?」と訊かれたら「キュンとする作品だよね」と答える、そんな映画でした。

ひねくれていて口が悪いジョゼに対し、恒夫は臆することなく正面からぶつかっていく

作品に流れるやさしさやかわいらしさはキャラデザの力

アニメーション制作がボンズということもあり、動きがすごく滑らかだなと感じましたし、こういう作品は本当に巧いなと思いました。キャラクターデザインは飯塚晴子さん。飯塚さんがキャラクターデザインをやると、作品が柔らかな印象になる気がします。

シリアスになりすぎないところがすごくいいなと、毎回思っています。TVアニメ「クジラの子らは砂上に歌う」でも強く感じました。かなりシリアスな作品なのに、まろやかにしてくれる方だなと。キャラデザでかわいらしく、柔らかい印象になることで、全方向の人が観られるようになるし、アニメ映画だと間口が広くなることも大切だから、『ジョゼと虎と魚たち』でも作品に与えた力というのは大きいと思います。ちなみに、僕の大好きな「ホリミヤ」でも飯塚さんがキャラデザを担当しています。

作品のテイストはちょっとどんよりしているというのかな?ずっと曇りのような印象だけど、淡い色を使って描いているので、物語に入り込める気がします。対して、ジョゼが描く絵や想像の中で海に行くシーンでは、鮮やかな色彩を使っているのですごく際立ちます。そこだけに光が当たっているように見えるところに惹き込まれました。

何度も2人でいろんなところへ出かけるうちに、恒夫とジョゼの心の距離も縮まっていく

約1時間半(の上映時間)でいろいろなことが起きるのもこの作品の見どころ。2人が出会うところから、ジョゼのおばあちゃんが亡くなって、恒夫が交通事故に遭い、彼が海外に行ってそして帰ってくる――。

それなりに長い期間での2人の関係性を「時系列」を追って観られるのも、入り込める理由のひとつだと思います。基本的には10代向けの作品だと思うけれど、20代、30代を経て、40代くらいになるとまた刺さってくる気がします。2000年代初めに、「冬のソナタ」にハマる人が続出したのと似た感覚なのかもしれません。王道、捻じれていない恋愛、ベタベタなストーリーがわりと好きな僕は、すごく楽しめました。

恒夫とジョゼの声もすごく合っていたし、見取り図の盛山(晋太郎)くんは、(恒夫のバイト先の店長役で)出演していると聞いてなかったら気づかないくらいハマっていました。松浦隼人役の興津和幸さんもいつものアニメの演技とは違って、メインキャストの俳優さんの演技に合わせて、ナチュラルな感じになっていた気がします。とにかく明るくて、女の子になら誰にでもやさしくするという隼人のキャラクターは素直で好き。そうありたいという憧れのキャラクターです。下心を隠さない素直さがあっていいなと。『ジョゼと虎と魚たち』は登場人物たちのピュアな心がポイントです。

取材・文=タナカシノブ

岩井勇気●1986年生まれ。幼稚園からの幼なじみである澤部佑とのお笑いコンビ「ハライチ」として活躍。初のエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」は10万部を突破、第2弾となる「どうやら僕の日常生活はまちがっている」が刊行され、好評を博す。放送されるアニメ作品はすべてチェックし、テレビ朝日で放送中の「まんが未知」など、漫画やアニメに関する番組でもMCを務める。

<放送情報>
ジョゼと虎と魚たち
放送日時:2021年12月26日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

放送日時:2021年12月31日(金)18:30~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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