長編映画デビュー作『渇き。』から8年...第一線を走り続けてきた小松菜奈の存在感

長編映画デビュー作『渇き。』から8年...第一線を走り続けてきた小松菜奈の存在感

「いちばん」を目指して走り続けてきた小松菜奈の活躍をプレイバック!(『糸』)

  • この俳優から目が離せない

長編映画デビュー作『渇き。』から8年…
第一線を走り続けてきた小松菜奈の存在感

2022/08/01 公開

恐ろしい!小松菜奈をスクリーンで初めて観た時に、そう思った人は少なくないはずだ。それぐらい、女優デビューを飾った長編映画初主演作『渇き。』(2014年)の彼女は怖かった。

「いちばん」を目指して、早くからポテンシャルの高さを発揮!

『嫌われ松子の一生』(2006年)、『告白』(2010年)などの鬼才・中島哲也監督がオーディションで発掘した小松は本作で、学校ではマドンナ的な存在の優等生でありながら、素顔はドラッグで友人たちを支配し、次第に狂気を暴走させる女子高生の加奈子を怪演!役所広司が演じた刑事の父親をも翻弄するその挑発的な演技と冷ややかな瞳、独特な笑い方が、実際にこういう少女がいるのかもしれないと思える生々しい恐怖を作り上げていて、「愛する娘は、バケモノでした。」という映画のキャッチコピーそのものの彼女にゾクゾクしたのをいまも鮮烈に覚えている。

それだけではない。『渇き。』の取材時の彼女の力強い一言も印象的だった。写真撮影の最後に「どんな女優になりたいですか?」と聞いたら、「いちばんになりたいです!」と即答したのだ。あれから8年。小松が自ら発したその言葉通り、若手の演技派女優として第一線を走り続けていることは誰もが知るところだ。

佐藤健と神木隆之介がW主演した『バクマン。』(2015年)には、漫画家を目指す真城最高(佐藤)が片想いをする声優志望の女子高生、亜豆美保役で出演。『渇き。』の加奈子とはまるで違う、世の男性の多くが理想的な女性として思い描きそうな亜豆をキュートに演じて映画ファンの心をときめかせた。

さらに『黒崎くんの言いなりになんてならない』(2016年)では、中島健人が演じたドSの黒崎くんに翻弄されながらも、少しずつ彼のことが気になりだすドMのヒロイン、赤羽由宇を演じてコメディエンヌの才能を開花。黒崎くんのドSな要求と、千葉雄大が扮した「白王子」のタクミくんの優しさを交互に味わう小松の可愛らしさがこの作品でも際立っていた。

そんな小松の女優としてのターニングポイントとなった映画は、2016年の『ディストラクション・ベイビーズ』だろう。本作は、『イエローキッド』(2009年)などの若き鬼才、真利子哲也監督が愛媛県松山市を舞台に若者たちの狂気と欲望が描いた異色の青春ムービー。小松が演じたのは、凶暴な泰良(柳楽優弥)とつるむ裕也(菅田将暉)に強引に車に乗せられ、行動を共にすることになるキャバクラ嬢の那奈。拉致された当初は裕也に殴られたり、蹴られたりして脅えていた彼女が突如変貌し、2人に牙を剥くクライマックスのキレッキレの芝居が凄まじかった。その怒りを爆発させる怪演は、魔物が乗り移ったかのような迫力だった。

そう、小松は役の感情と同化し、それを表情や芝居で観る者に伝える能力に長けているのかもしれない。『アオハライド』(2014年)などの三木孝浩監督が、「史上いちばん可愛い小松菜奈を撮る」という裏テーマで挑んだ『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)で小松が演じたのは、福士蒼汰扮する京都の美大生の高寿が通学電車の中で一目惚れするヒロインの愛美。小松は高寿に声をかけられて突然涙する本作の肝となる冒頭のシーンで、本物の涙を圧倒的な集中力で流すと、逆行する時間の中で生きる愛美を繊細な表情で体現して彼女の切なさをリアルなものにしていた。

『溺れるナイフ』(2016年)も、小松を語るうえで外せない映画だ。『5つ数えれば君の夢』(2014年)などの気鋭監督、山戸結希がメガホンをとった本作。小松が扮したのは、雑誌モデルをやっていた東京から父親の故郷の田舎町に移り住み、そこで出会った不思議な魅力を持った青年コウ(菅田将暉)に心惹かれていく夏芽。自らの感性の赴くまま、現場でセリフや設定をどんどん変える山戸監督の演出に戸惑いながらも、泣くシーンではドライ(リハーサル)から本気で泣くブレーキをかけない芝居をして、共演の菅田を唸らせた。

東京から海辺の田舎町に転校してきた人気モデルのヒロインが、不思議な魅力を持った地元の少年に惹かれていく『溺れるナイフ』

『ディストラクション・ベイビーズ』の時に本気で「殺し合った」2人の息もピッタリで、監督が併走する車から彼らにセリフを伝えながら撮影したラストシーンは、菅田が最後のセリフを言い、小松が泣いているのがわかる瞬間に2人の乗ったバイクがトンネルに入って暗転する奇跡のワンカットになっている。

菅田将暉との息の合ったかけ合いにも注目!(『溺れるナイフ』)

登場人物の人生に深みを持たせる底知れない演技力

ここまで読めば、小松が妥協をしない、負けず嫌いな女優であることがよくわかるが、大泉洋と共演した『恋は雨上がりのように』(2018年)の取材時には本人がそれを明確に言葉にしていた。この作品で小松が演じたのは、28歳も年上のバツイチで子持ちのファミレス店長(大泉)に恋をする高校2年生のあきら。あきらにはアキレス腱断裂のケガで生き甲斐だった陸上から遠ざかっているという背景もあるため、劇中には小松が美しいフォームで走る姿も収められたが、そのシーンのために用意された走る練習では、一緒に走ってくれた大学生の現役ランナーたちが自分に合わせてスピードを落としてくれたのが悔しかったそう。「それで家に帰ってから、公園で自主トレをしたんです」と語り、話を聞いていた大泉が「マジで?」と驚いていたのが印象的だった。

『渇き。』の中島監督と再び組んだ『来る』(2018年)は、小松のフィルモグラフィの中では異色のホラーだ。だが、実は『エスター』(2009年)や「死霊館」シリーズなどのホラー映画が大好きな小松が、髪の色がピンクで、体にも刺青を入れまくった見た目も派手なキャバ嬢の霊媒師・真琴に扮し、ほかの映画では見ることのない爆演をした貴重な作品でもある。なかでも妻夫木聡演じる「イクメン」とその一家に憑いた、「何か」に戦いを挑むシーンのおぞましさと迫真はハンパない。小松の演技の幅の広さを見せつけた。

パンキッシュな出で立ちをしたキャバ嬢の霊媒師というトリッキーな役に挑戦した『来る』

中島みゆきの同名のヒット曲をモチーフにした『糸』(2020年)は、そんな小松の女優としてのポテンシャルの高さと成長、輝きを彼女が生きてきた時代とシンクロさせながら回想する映画という捉え方もできる。菅田との3度目の共演となった本作は、平成元年に生まれた男女のすれ違いとめぐり逢いの18年間を、平成史と重ねて描いた壮大なラブストーリーだ。

三度、菅田将暉と共演した、中島みゆきの同名のヒット曲がモチーフの『糸』

人生には出会いがあり、別れがあり、思いがけない悲しい出来事も起こるが、それらを小松はヒロインの葵が移り住む土地土地の風土や共演者の息吹きを感じながら熱演。その時々の年齢の女性のリアルを鮮やかに体現していたが、なかでもシンガポールの地で思いがけない裏切りにあった彼女が涙目でカツ丼を食べながら自分を奮い立たせるくだりは、葵が思わず口にする「マズい」の一言とともに映画史に残る名シーンに。葵の21~30歳に説得力を持たせた、小松の演技力に改めて魅せられた人も多いに違いない。

様々な経験を通して人間味が増していく葵のキャラクターに説得力を持たせた(『糸』)

それにしても、最初にも書いたように、わずか8年でこの躍進はスゴい!『糸』の後も、『ムーンライト・シャドウ』、『恋する寄生虫』(ともに2021年)、『余命10年』(2022年)といった趣の違う3本のラブストーリーのヒロインを演じ、それぞれを異なる知性と輝きを持つ女性に作り上げていたが、小松はまだまだ底が知れない。次はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか?これからも大いに期待したい。

文=イソガイマサト

イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「Movie Walker Press」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。

<放送情報>
来る
放送日時:2022年8月16日(火)22:10~、25日(木)7:30~

溺れるナイフ
放送日時:2022年8月3日(水)7:50~、30日(火)18:50~


放送日時:2022年8月4日(木)7:50~、26日(金)7:30~
チャンネル:チャンネルNECO

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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