高層ビルから飛び降りる!飛行機にしがみつく!
大スター、トム・クルーズの命知らず伝説
2021/07/26 公開
トム・クルーズという俳優。この人の存在をわりと当たり前に受け止めがちだが、なかなかどうして異常なスターである。何しろ浮き沈みというものがない。第一線で活躍する俳優には誰しもそれなりに好不調があるのではないかと思う。たとえばシルヴェスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガー。90年代まで破竹の勢いで暴れ回ったが、その後はそれぞれに何をやってもうまくいかない時期を経験している。
アクションスターだけではなく、演技派の大物にしても同じことだ。ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノも長いながい芸歴の中で、あるいは本人たちでさえなぜ主演したのか分からないかもしれない作品に出たりしている。
もちろん映画は興行成績だけがすべてではないし、また批評が振るわなくとも一部の観客からは熱狂的に愛される作品も存在する。と、世間的な評価だけが絶対ではないと前置きしたうえで、しかしトム・クルーズのフィルモグラフィを改めて俯瞰してみると、やはりその異常性が際立ってくる。
80年代半ばから、この人はいつでも巨額の予算を投じた超大作で主役を張ってきたが、そのキャリアの中で失敗と呼びうる失敗がないのだ。これはどうしたことかと思う。興行&批評の両面で振るわなかったのは2012年のミュージカル大作『ロック・オブ・エイジス』くらいではなかろうかと思うが、その場合も同年のアクション『アウトロー』で見事にリカバーしている。
アクションだけでなく、文芸作品やドラマでも演技力を磨く!
クルーズが大スターとしての地位を固めた作品といえば、なんといっても1986年の『トップガン』だろう。トニー・スコット監督が切り取る、朝焼けだか夕焼けだか分からないオレンジ色の風景。その中でクルーズが戦闘機を、あるいはバイクを駆る。画面はやけに煙っている(1990年に再度スコットと組んだレース映画『デイズ・オブ・サンダー』でも、クルーズは妙に煙ったオレンジ色の画面でレースカーやバイクを乗り回していた。同作はクエンティン・タランティーノのお気に入りだという。なぜだかその気持ちは異常に分かる)。
物語の詳細はもうひとつ覚えていないが、画面に横溢するハッタリとクルーズの爽やかさだけはいまでも脳裏に焼き付いている。しかし本人がこうした路線だけを邁進していたら。あるいは同時期にブイブイ言わせたスターたちのように、時代の移り変わりに流されて、一度はその勢いを失っていたのではないか。そう思えてならない。
しかしクルーズはアクション超大作で一枚看板を張りつつ、同時に超大物監督の手がける非アクション作品…というか堂々たる文芸超大作でも主演を続けている。考えてみれば『トップガン』の同年にはすでにマーティン・スコセッシ監督作品『ハスラー2』でポール・ニューマンの若きライバルを演じているし、1988年の『レインマン』ではダスティン・ホフマンと堂々たる競演を見せた。。
その後もロン・ハワード監督作『ア・フュー・グッドメン』(1992年)でジャック・ニコルソンと正面対決、または名匠シドニー・ポラックの『ザ・ファーム/法律事務所』(1993年)にも主演し、いずれの作品でも高い評価を得ている。
さらにはスタンリー・キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』(1999年)、その衣鉢を継ぐスティーヴン・スピルバーグの『マイノリティ・リポート』(2002年)および『宇宙戦争』(2005年)ではそれぞれ極めて情けない中年男性に扮して、その演技力を遺憾なく発揮している。スーパーヒーローから一般的な完全な駄目男まで、広い振り幅を見せつつ、毎度作品をヒットさせるトム・クルーズ。世代を問わず、実はほかのどのスターよりも優れた選球眼とバランス感覚を持ち合わせていると思う。
ノースタントで体を張り続ける『ミッション:インポッシブル』シリーズ
しかし仕事選びと世渡りの上手さだけで、35年以上も第一線のスターであり続けられるはずはない。作品が何であれ思わず観に行かざるを得ないクルーズの魅力。その裏には本人の、実は誰よりも映画を愛し、全身全霊で仕事に打ち込む姿勢があるのではないだろうか。
スコセッシ、キューブリック、スピルバーグといった超大物監督との作品で性格俳優に徹するにおいても、またはより若い監督たちとの仕事で堂々たるアクションヒーローぶりを見せつけるにおいても、そこに共通しているのは恐ろしく真面目に俳優業に殉じる姿勢だ。
1996年から続く『ミッション:インポッシブル』シリーズ全6作など観ていると特にそう思う(これも第一作の監督がブライアン・デ・パルマ、その後がジョン・ウーというあたりで若干クラクラしてくる。序盤の2本でもう統一性がないあたり、最高におもしろい)。最新第7作は新型コロナウイルスの影響で製作と公開が延びに延びているけれども、考えてみればこれも基本的にはクルーズ一人を共通項に監督を替え、共演陣を入れ替えて25年も続けてきた。
同シリーズで毎度毎度、スター本人が見せる無茶苦茶なアクション。やたらと高所に登っては急に飛び降り、バイクを異常な速度で飛ばし、果ては地上1,500メートルを飛ぶ飛行機に生身でしがみつく。これらすべてをノースタントで、自分自身が体を張ってやってみせる。
よくよく考えればスタントマンに任せるべき局面なのではないかと思う。だが意地でも自分でやらなくてはならない。そして観客の度肝を抜かなくてはならない。そうした理屈を超えた思いの強さに、トム・クルーズのアクションスターとしての異常なこだわりと凄味を見るのである。
『ミッション : インポッシブル』最新作は徹底したウイルス感染対策のもとに撮影されたというが、現場のルールを守らなかったスタッフをクルーズ御自らが怒鳴り上げた件は世界中に報じられた。ここにも本人の、映画作りに対する極めてストイックな態度を感じたものだ。
おそらくまた信じられないような無茶をするのであろうシリーズ第7弾、そして、前作から実に36年、まさかの続編となる『トップガン マーヴェリック』(2021年公開)も待機中のトム・クルーズ。ドラマとアクション、2つのジャンルに順繰りに出演して芸の幅の広さを見せつけたのも今や過去のことで、近年はほとんどアクション大作ばかりに出演しては無闇に命を削っている。
1981年に19歳で映画デビューしてから早40年、そろそろ還暦という年ごろではあるが、その長いキャリアの果てにとにかく体を動かすしかないという境地に達したと考えれば妙に感慨深い。ここまで来たらケガに気をつけて、好きなことをやり続けてほしいと思うのである。
文=てらさわホーク
てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。
<放送情報>
ラスト サムライ
放送日時:2021年8月14日(土)23:15~
ワルキューレ
放送日時:2021年8月14日(土)21:00~、20日(金)21:00~
(吹)ワルキューレ
放送日時:2021年8月20日(金)12:30~
(吹)ワルキューレ【月刊吹替声優】
放送日時:2021年8月28日(土)12:45~
ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
放送日時:2021年8月15日(日)23:45~、17日(火)23:00~
(吹)ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
放送日時:2021年8月15日(日)12:00~
(吹)ジャック・リーチャー NEVER GO BACK【月刊吹替声優】
放送日時:2021年8月28日(土)10:30~
レジェンド/光と闇の伝説
放送日時:2021年8月14日(土)12:45~、31日(火)17:30~
(吹)レジェンド/光と闇の伝説 【日曜洋画劇場版】
放送日時:2021年8月12日(木)8:15~
ミッション:インポッシブル
放送日時:2021年8月14日(土)14:30~、8月27日(金)14:30~
M:I-2
放送日時:2021年8月14日(土)16:30~、8月27日(金)16:30~
M:i:Ⅲ
放送日時:2021年8月14日(土)18:45~、8月27日(金)18:45~
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
放送日時:2021年8月15日(日)16:00~
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
放送日時:2021年8月4日(水)18:30~、15日(日)18:30~
(吹)ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
放送日時:2021年8月4日(水)12:30~
ミッション:インポッシブル/フォールアウト
放送日時:2021年8月15日(日)21:00~
チャンネル:ザ・シネマ
マイノリティ・リポート
放送日時:2021年8月7日(土)18:30~、28日(土)16:00~
宇宙戦争(2005)
放送日時:2021年8月7日(土)13:30~、28日(土)18:45~
アウトロー(2012)
放送日時:2021年8月28日(土)21:00~
チャンネル:WOWOWプラス
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
放送日時:2021年8月28日(土)8:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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