ウィノナ・ライダー主演作『リアリティ・バイツ』が映し出す
ジェネレーションXが抱える空虚感や悩み
2022/03/28 公開
「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第13回に登場するのは、『リアリティ・バイツ』(1994年)。俳優として、そして監督としても活躍するベン・スティラーの監督デビュー作。ウィノナ・ライダー、イーサン・ホーク、そして、スティラー自身も出演し、「ジェネレーションX(1960年代中盤から70年代終盤、もしくは80年代初めに生まれたアメリカの若者)」の心情をリアルに描いた辛口の青春群像劇は、90年代を代表する青春映画の1本としても人気が高い。
育ちがよくて秀才で美人。大学の卒業式で総代スピーチもしたリレイナ(ライダー)。大学卒業後、地元のTV局で契約社員として働き始めるも、些細なことがきっかけでクビになってしまう。ちょうどその頃、リレイナと親友のビッキー(ジャニーン・ガラファロー)が住むアパートへ、同じく職を失った男友だちのトロイ(ホーク)とサム(スティーヴ・ザーン)が転がり込み、強引に4人の共同生活が始まる。
大人になりたくない、本当に求めているものが何かわからない若者たちの恋愛模様
小川「最初に観たのはレンタル版VHSがリリースされた頃のはずなので、たぶん13歳とか。すごく久しぶりに見直しました」
松崎「僕も劇場公開ではなく、30代だった頃に深夜のテレビ放送で観たのが初めてだったと思います。冒頭でリレイナが卒業生総代でスピーチをするシーン。彼女が『アドリブ』と言った部分に、空虚感が表れていると感じました。ジェネレーションXらしい、何をすればいいのかわからない感の描写がすごくわかりやすかったです」
小川「冒頭10分で、ジェネレーションXについて可視化されていますよね。既存の社会システムに乗りたくないという意思と不安感に溢れているというか。親世代のように生きたくなくて、大人になることを一時停止しているようなやさぐれ感もあって。それに、今観ると映像、音楽、服装までmid90’s感が漂っていて、その時代の片鱗も楽しめました」
松崎「ベン・スティラー演じるマイケルが着ているスーツとか、すごく90年代っぽい感じ」
小川「リレイナの赤いタンクトップとブルージーンズとか、デニムとか。あと、シャツワンピース。当時すごく流行っていたので、懐かしかったです」
松崎「若者世代が感じる生きづらさを描きつつも、思いのほか恋愛方向へ向いていきますよね。これは、脚本の制作過程に理由があったようで、ジェネレーションXの話になるはずが、脚本をブラッシュアップする段階で、リレイナとトロイにフォーカスすることになったそうです。そのなかで、恋愛模様を描くなら2人の関係に割り込む登場人物がもう一人必要になり、マイケルが誕生したとかしないとか」
小川「自分が本当に求めているものが何なのかが、まだわからない若者たちの恋愛模様ですよね。信頼のおける友人に恋心を抱くのは自然なことかもしれないけれど、いまの唯一無二の関係性を壊してしまいそうで怖い、そういう気持ちに共感する人は多そうな気が」
松崎「日本のトレンディドラマにも通じると感じました。ただ、こういったドラマは何人かのキャラクターを横並びで描くけれど、本作ではウィノナを中心に描かれている点が大きな違いかな」
小川「マイケルもトロイもどっちもダメな部分はあって、それはリレイナも一緒なんですよね。でも、大学卒業したばかりで週に400ドルしか稼げないし、親の支援なしに生きていくのは大変なときに自分よりは成熟していると映る大人の男性(=マイケル)に惹かれるというのはすごく理解できます。不安や孤独の外へ連れて行ってくれそうに勘違いしてしまうというか」
松崎「リレイナが働いていたTV局のモーニングショーの描き方もすごくおもしろい。90年代ということを考慮してもすでに時代遅れな番組なんですが、大都市だけどローカルで、司会者のワンマンぶりな表現も興味深かったです」
小川「リレイナが撮ったドキュメンタリー作品が、編集で別物にされてしまうじゃないですか。あの映像は、それこそ『ベンスティラーショー』で見たような、90年代の雰囲気が凝縮されているなと思いました」
松崎「バカげたショーの感じを含め、スティラーは監督だとすごくシニカルな表現をする印象があります。揶揄しているというのかな。『リアリティ・バイツ』は彼の処女作なので、よりそれが滲んでいる気がします。例えば、最後のシーン。リレイナとトロイには、お互いにこのままうまくいくわけがないと思っている感じが漂っています(笑)」
小川「2人がうまくいこうがいくまいが、どうでもいいというわけではないけれど、人生でこんな気持ちで過ごした1ページあったよね、ということなんじゃないでしょうか。仮に別れて友だちに戻ったっていいし、もちろん、あのままハッピーエンドもあり得えますし」
自身もジェネレーションXのウィノナ・ライダーがリアルな葛藤を体現
松崎「ジェネレーションXを代表する映画として挙げられる『ファイト・クラブ』とも、主人公の空虚感は共通していますね。ぬるい空気の中で私たちは何をすればいいの?みたいな感じとか」
小川「リレイナは働いている友だちを前にして、アパレルショップのバイトなんてしたくないと言い放ちますし、トロイも(リレイナの)お父さんが経営する工場の面接をすっぽかすじゃないですか。2人はそっくりだな、って思いますよね。似た者同士はうまくいかないって言われるけれど、そういう人と特に20代は付き合ったりもするので」
松崎「でも、うまくいく場合もありますしね(笑)」
小川「2人は言い寄ってくる人が絶えない美男美女なわけですが、内面でわかり合える人を求めていて、葛藤するわけですよね。その役にウィノナとイーサンがぴったり重なって、発光する2人から目が離せませんでした」
松崎「当時、ウィノナは時代劇などいわゆるコスプレものへの出演は多かったのですが、現代に生きる等身大の女性役はほとんどなくて、おそらく本作が初めてなくらい。ジェネレーションXである彼女が、その世代が持つ悩みを象徴するところはよく描けていたと思います」
小川「それまでの役柄の印象に引っ張られて、勝手に清純なイメージを押し付けられてがっかりされたり、内面を見てもらえないという葛藤は、ウィノナ自身にもあったのかなと。迷いながら自分らしい生き方を模索する、本当の自分に近いものを表現できる役として、リレイナを引き受けたのかなと想像してしまいました」
松崎「役柄と本人のギャップ、世間が求めるイメージとのギャップには苦しんでいたと思います」
小川「そういう意味でも、この映画は、等身大の自分について語ることを描いているんだなと思ったんですよね。だからリレイナはそういう自分たちのドキュメンタリーを撮ったのかなって」
松崎「内面を吐露するってやつですね。言葉ではなく映像で表現みたいなムーブメントが出始めていた頃。MTV世代ってこういうもんだって決めつけでもありますよね。言葉ではなく映像で表現しちゃおうみたいな」
小川「いろんな決めつけや偏見に苦しんでいた世代という気がします。もちろん、今でもそういう決めつけは社会にたくさんありますけれど」
小川「ウィノナもイーサンもこの映画がなかったらキャリアの方向が違っていた、この作品があったから今があると言っていますね。そういう思い出になっているところも青春な感じがしていいですよね」
松崎「ちょっと前のカルチャーをかっこいいと思う感覚とかも、あの年代を表していますよね。ゴルバチョフと『サタデー・ナイト・フィーバー』のポスターを隣り合わせで貼ってあったり」
小川「私も、二世代前くらいの60~70年代カルチャーに憧れがあったのでその気持ちはわかります。あと、シェアハウスで友だちと夜通しゲームしながらおしゃべりするみたいな、そういうモラトリアム時代もあったな、と懐かしさとうらやましさがこみあげました」
松崎「90年代に限らず20代前半はあんな感じですよね。30年以上経って、あの頃、何を考えていたのだろうと改めて振り返ると、ゾッとするほど恐ろしいです」
小川「身の丈を知らないって最強ですよね。何も知らないのに自分は無敵だと思い込んでいて、すごく偉そうなことを言えてしまっていました(笑)」
松崎「先日紹介した『恋人たちの予感』もほぼ90年代を舞台にした作品で、通じるところも多いなと思いました」
小川「長らく友だちだった2人が関係を持った翌朝に、男性が向き合わずに逃げ出してしまうところとか?」
松崎「そうそう。だけど、過ごしてきた時間も年代も違うけど、あっちは成熟版のような位置づけかなって。合わせて観るとおもしろいかもしれません」
取材・文=タナカシノブ
松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。
小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。
<放送情報>
リアリティ・バイツ
放送日時:2022年4月5日(火)12:30~、15日(金)16:45~
チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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