殉職した警官がサイボーグ警官となって悪と戦う『ロボコップ』シリーズ(『ロボコップ』)

サイボーグになった警官が権力の横暴に立ち向かう!
『ロボコップ』シリーズの進化と戦いの歴史

2021/10/25 公開

ちょっといいところだけつまんで寝ようかと思いつつ、気がついたら最後まで観てしまった……『ロボコップ』(1987年)はそんな映画の代表格だと思う。何しろ無駄がない。真面目な警官アレックス・マーフィ(ピーター・ウェラー)が悪党たちの手にかかって死にかけるが、何とか生き残った脳を機械の体に移植され、サイボーグ警官(そう、有機物と機械とが融合しているので、厳密にはロボットではないのだ)ロボコップとして蘇る。

犯罪組織のボスを追っていた最中に惨殺されてしまった警官のマーフィがロボコップとして復活(『ロボコップ』)

ロボコップが生身の警官だった頃の記憶を取り戻し、正義の心で悪を討つ!

超巨大企業、オムニ社が警察さえもその傘下に収める近未来。治安の悪化は止まるところを知らないが、経営合理化のために警察官の数はまるで足りない。こうした状況を一気に解決するために生み出されたのが機械仕掛けの警官だった。定期メンテナンスを除いては休むこともなく、不平不満を一切言わず、正確に任務を遂行し続ける。カネばかりがかかって文句の多い生身の警官などもはや不要、というのがオムニ社の論理であって、プロジェクト担当の青年重役は自らの出世のためにロボコップ計画をゴリゴリと推進する。

しかし、その被験体に選ばれたマーフィ巡査としてみれば、たまったものではない。複数のゴロツキによって全身穴だらけにされ、息を引き取ったかと思えば蘇生させられる。生まれ変わってみてみればマーフィの名前も生前の記憶もすべて消去されて、いまや単なるマシーンになってしまった。

ロボコップになった当初は生身の人間だった頃の記憶を失っていたマーフィ(『ロボコップ2』)

何しろ悪党ばかりが出てくる映画である。善良な人々は主人公のマーフィ/ロボコップとその相棒ルイス巡査、あと数人の同僚たちぐらいのもので、名のある登場人物は皆極めつけの下衆ばかりだ。件の青年重役に、彼と対立する大物幹部、その手足となって働くゴロツキの一党。誰も彼も、権力とカネのことしか考えていない。

そうした欲望と暴力が渦巻く世界でまずは職務を全うしようとし、いずれ機械の体の奥底から蘇ってくる自身の人間としての記憶に向き合うこととなるロボコップ。大企業の暴力的な倫理の前に一度は追い詰められるが、ド根性で立ち上がる。そしてついにアレックス・マーフィとしてのアイデンティティを完全に取り戻すラストシーンにはいまでも震えてしまう。

そうしたドラマの要所要所に激しく重いアクションがあり、しかもそれらがすべて有機的に絡み合っているため、どこか良いところだけ観て寝ようというわけにはいかないのである。

現代テクノロジー最高の反射機能とコンピュータ記憶装置、治安を守るプログラムを搭載している(『ロボコップ』)

凶悪なサイボーグの出現やロボコップのアップグレードも!続編やリメイク版も製作

本作の監督はポール・ヴァーホーヴェン。すでに名声を手にしていた故国オランダをあとにして、アメリカに殴り込みをかけたばかりだった。大小様々な悪役の活き活きとした描写。彼ら全員を敵に回して、人間の尊厳を取り返す戦いに打って出るロボコップ/マーフィの葛藤と決意。こうした人物描写にその演出手腕が光る。

エドワード・ニューマイヤーとマイケル・マイナーによる脚本の見事さにも触れておくべきだろう。本作の製作開始以前、ヴァーホーヴェンのもとにはいくつもの脚本が持ち込まれていた。だがいずれに対しても食指が動かず、『ロボコップ』のそれなどはタイトルを見ただけで「馬鹿馬鹿しい」とゴミ箱に捨てた。これを拾って読んだ妻マルタンが、バカっぽい題名とは裏腹に濃密なドラマと深遠なテーマに感銘を受け、「アナタ、これを監督しなさい」とヴァーホーヴェンに薦めたというのは有名な話だ。

重いロボ・スーツに身を包み、満足に身動きも取れないなかで熱演を見せたピーター・ウェラー、そしてそのスーツを造り上げた特殊造形のロブ・ボッティン。主人公のライバルたる大型メカ、ED-209の造形と(恐ろしい反面、間抜けでかわいらしい)動きを担当したストップモーション・アニメーションの名手、フィル・ティペット。何人もの天才が本作のために集結した。

ロボコップの前に立ちはだかる大型メカ、ED-209(『ロボコップ』)

あるいはその後、『ダイ・ハード』(1988年)や『トータル・リコール』(1990年)でも腕を振るったフランク・ユリオステの、切れ味の鋭い編集。全篇に鳴り響く音楽についても忘れてはいけない。ロボコップとクラレンス一味が最終決戦を繰り広げるクライマックスでは、最初から最後まで、『コナン・ザ・グレート』(1982年)でおなじみベイジル・ポールドゥリスによる勇壮かつ哀愁に満ちた、最高潮に燃え上がるテーマ曲のアレンジが鳴りっぱなしだ。

毎度毎度、本作を結局最後までぶっ通しで観てしまうのは、音楽を途中で止めるわけにはいかないせいもあるのだ。製作費は決して潤沢ではなかったが、監督ヴァーホーヴェンをはじめ、あらゆるスタッフとキャストが一世一代の仕事をした。102分のタイトな上映時間には彼らの並々ならぬエネルギーが渦巻いている。

一度は剥奪され、完全に踏みにじられた人間性をアレックス・マーフィがついに取り戻す…名前を問われた主人公がにっこり笑って「マーフィ」と答えるラストシーンでもって『ロボコップ』の物語は見事に完結している(機械の体に生まれ変わった当初はまったく感情を失っていたロボが、いずれ怒りや悲しみを覚えることを経て、とうとう笑顔を見せる過程は真に感動的だ)。が、これだけのキャラクターのその後が見たくないかと問われればもちろん超見たいです!と答えるのが人情で、映画はその後2本の続編を生んだ。厳密にはテレビアニメ、2つの実写ドラマシリーズ、さらにはリメイクまで作られているのだが、各々魅力も問題もあるそれら作品群についてはまた別の機会にお話ししたい。

2014年に製作されたリメイク版『ロボコップ』

それでオリジナルシリーズ2本である。ヴァーホーヴェンが離脱した『ロボコップ2』(1990年)、さらに主演のウェラーも降板してしまった『ロボコップ3』(1993年)。『~2』の監督は、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980年)のアーヴィン・カーシュナーが務めた。脚本を書いたのは『シン・シティ』(2005年)や『300 <スリーハンドレッド>』(2007年)で知られるコミック作家のフランク・ミラー。

第1作が描いた悪夢的な近未来像をさらに膨らませ、より強く大きく、そして良心の欠片もないロボコップ2号機を登場させた。ドラッグ中毒で、薬が切れると誰彼構わず皆殺しにする2号機の造形はフィル・ティペットによるもので、その禍々しい姿が第2作最大の見どころだ。

早くも旧型となった元祖ロボコップが、この殺人マシーンに勝ち目のない戦いを挑む姿にはなかなか胸を打つものがある。第1作ほどの濃密さはないものの健闘はしている。そんな感想は初見の時からいまも変わらない。

ロボコップ2号となった麻薬組織のボスにロボコップが立ち向かう『ロボコップ2』

第3作は、製作会社のオライオン・ピクチャーズが公開前に倒産した余波でしばらく塩漬けになるなど不遇の作品だった。脚本は引き続きミラー、『クリープス』(1986年)や『ドラキュリアン』(1987年)でジャンル映画の俊英といわれた監督、フレッド・デッカーも健闘はしている。が、これまでバイオレンス上等のR指定でやってきたシリーズはここへきて子どもも観られるPG12にレイティングを下げ、結果ずいぶんソフトな作品になってしまった感は否めない。

ミラーの妙な東洋趣味が炸裂したロボコップの新ライバル、ロボ・ニンジャことオオトモの造形にも多少困惑せざるを得なかった。だが何しろ第3作目にしてついに飛行能力を身につけるという大規模アップグレードを遂げたロボコップが、無辜の市民たちの絶対の危機にものすごい勢いで飛来するクライマックスである。比較的ガラガラだった日本劇場(1000人収容)の初日第1回で、思わず「と…飛んだ!」と拳を握り締め、感涙にむせんだこともいまは昔であった。

フライトパーツで強化されたロボコップが空を飛ぶなど、よりヒロイックな作品となった『ロボコップ3』

作品それぞれの出来不出来は置いても、権力の横暴に立ち向かう個人というテーマは『ロボコップ』シリーズに共通している。今後も新たな作品が作られるのであれば、どうかそこだけは押さえておいていただきたいと思うのである。

文=てらさわホーク

てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。

<放送情報>
ロボコップ(1987)
放送日時:2021年11月6日(土)14:45~、29日(月)14:45~

ロボコップ2
放送日時:2021年11月6日(土)16:45~、29日(月)16:45~

ロボコップ3
放送日時:2021年11月6日(土)19:00~、29日(月)19:00~

ロボコップ(2014)
放送日時:2021年11月6日(土)21:00~、12日(金)21:00~

(吹)ロボコップ(2014)
放送日時:2021年11月12日(金)12:30~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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