世界中で一大ブームを巻き起こした エポックメイキングなラブコメディ『猟奇的な彼女』

世界中で一大ブームを巻き起こした エポックメイキングなラブコメディ『猟奇的な彼女』

日本やハリウッドでもリメイクされた、韓国ラブコメの定番作『猟奇的な彼女』

  • 今月の韓国映画

世界中で一大ブームを巻き起こした
エポックメイキングなラブコメディ『猟奇的な彼女』

2022/06/27 公開

お人好しの大学生と破天荒な「彼女」の絶妙なコンビネーション

今でこそ「男性中心のサスペンス」あるいは、「歴史的な事実を基にした骨太のヒューマンドラマ」のイメージが強い韓国映画だが、1990年代後半から2000年代にかけては、若い俳優たちが主演するラブストーリーが数多く作られていた。今回紹介する『猟奇的な彼女』(2001年)は、その中でも、様々な意味で記念碑的な意味を持つ作品だ。

兵役を終え、改めて大学生活を楽しもうと意気込むキョヌ(チャ・テヒョン)は、友人たちとの飲み会の帰り、地下鉄の駅で泥酔した女性(チョン・ジヒョン)を見かける。その後、「彼女」と同じ車両に乗り合わせた彼は、酔い潰れた彼女をホテルで介抱している途中で警察の手入れに遭い、留置所に入れられてしまう。そのことがきっかけとなり、その後、何度も彼女に呼び出されることになるキョヌ。わがままなのに憎めない彼女に振り回されながらも、少しずつ惹かれていくのだが…。

酔った彼女を介抱したことを機に、キョヌの恋の受難が始まる

お人好しの大学生キョヌと、彼の眼の前に突然現れた「彼女」との不思議な関係を描いたこの映画の原作は、1999年にパソコン通信(!)の掲示板に連載された後にベストセラーとなった同名小説。もともとは日本語と同じように「奇怪なものや異常なものに興味を持つ」という意味で使われていた「猟奇」という言葉に、「突飛な行動」「ユニークな考え」「ちょっと変な感じ」といった新しい意味を付け加えて定着させ、一大ブームを巻き起こした。韓国では2001年7月に封切られて大ヒットとなり、年間の興行成績でも、『友へ チング』、『JSA』という、いずれも韓国映画史に残る2作に続く第3位を記録している。日本ではやや遅れて2003年に公開された。

当時の新たな女性像を体現したチョン・ジヒョンは大ブレイクを果たした

この映画の魅力は、主人公であるキョヌと彼女(劇中で名前は登場しない)のキャラクターに集約されている。泥酔して地下鉄の中で派手に吐いたり、初対面の人にいきなりタメ口で話しかけたかと思えば、公共のマナーを守らない相手を怒鳴りつけたり、自分の思い通りに行動しない相手を「死にたいの?」と脅したりと、やりたい放題と正義感を行き来する彼女はまさに「猟奇」を体現したような人物。そして、そんな彼女に対して文句を言いながらも、結局は言いなりになり、次第に深く理解していくキョヌとのコンビネーションがすばらしい。破天荒な役柄をのびのびと演じたチョン・ジヒョンは「女性はこうあるべき」という通念を蹴散らす新世代の象徴として受け入れられ、主要映画賞である大鐘賞の主演女優賞にも選ばれた。劇中では脚本家志望の「彼女」が書いた内容が何度か映像化され、チョン・ジヒョンがアクションを披露しているが、その姿は後の『10人の泥棒たち』(2012年)や『暗殺』(2015年)、『キングダム:アシンの物語』(2021年)といった作品で見せた抜群の運動能力を予感させる。一方、チャ・テヒョンの方は、「どこかとぼけた気のいい男」というキャラクターを自覚的に演じ続け、『加速スキャンダル』(2009年)や『ハロー!?ゴースト』(2010年)、『神と共に 第一章:罪と罰』(2017年)といった作品に出演。また、2016年には『猟奇的な彼女』の続編となる『もっと猟奇的な彼女』でアイドルグループf(x)のメンバーだったビクトリアと共演している。

スマホがなかった時代の、オールドファッションなラブストーリー

公開当時は様々な点で新鮮だった『猟奇的な彼女』だが、20年以上が過ぎた今、見返してみると、やや時代遅れに見えてしまうところもある。その筆頭は「彼女」が後半で見せる「本当の姿」。現在であれば、他愛なくも見える彼女の「猟奇」ぶりに理由をつけて説明しなければいけないところに、時代の限界が感じられる。また、「彼女」の「猟奇」が暴力的な行動で示されているところも、かなり気になる。その辺はまだスマホがなかった時代の、ややオールドファッションなラブストーリーと思って見てほしい。

韓国の恋人たちにはお約束の「100日記念日」には、キョヌがバラをプレゼント

本作を手掛けたクァク・ジェヨン監督はその後、ソン・イェジンを起用した『ラブストーリー』(2003年)、チョン・ジヒョンと再び組み日本でも大ヒットした『僕の彼女を紹介します』(2004年)、綾瀬はるかを主演に迎え、日本で撮影された『僕の彼女はサイボーグ』(2008年)といった作品を発表。自身の作品の特徴として「女性が強いこと、主人公の男性が少年らしさを残していて、女性なしではサバイバルできない部分があること。少年の頃に抱いたファンタジーが反映されているという面が共通しています」と語っている。

高校の制服姿で2人が踊りまくるシーンも印象的!

交際100日記念日に講義室でバラの花を渡す、高校時代の制服を着てクラブに乗り込む、彼女が山の上から遠くにいるキョヌに向かって呼びかけるといった、この映画の名場面はその後、ドラマやバラエティ番組で何度もパロディ化されるほど有名になった。2017年には舞台を朝鮮時代に移したラブストーリーとしてリメイクしたドラマ版も作られ、傍若無人と言えるほど気が強く、常に命令口調の王女ヘミョンと容姿端麗で優秀なキョン・ウ(韓国語では苗字と名前を続けてキョヌと発音する)との恋と、宮廷内の勢力争いなどが描かれた。

2人のスターを生み出し、その後に続く韓国ラブコメディブームの先駆けとなった『猟奇的な彼女』は、劇中に登場するタイムカプセルのように、2001年の韓国の空気をそのまま閉じ込めたような作品と言えるかもしれない。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニムズ・ジェンダーから読む」(青弓社)がある。

<放送情報>
猟奇的な彼女
放送日時:2022年7月1日(金)23:00~、11日(月)14:15~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります