サム・ライミ監督のシリーズ第1作『スパイダーマン』。ピーターがスパイダーマンになったきっかけも詳細に描かれている

哀しみを乗り越え強くなるヒーロー
人々の心を掴んだ「スパイダーマン」シリーズの軌跡

2022/08/01 公開

ファンが夢想した「ある展開」が奇跡の実現

2022年1月に公開されて大ヒットを記録した、トム・ホランド主演のマーベル・シネマティック・ユニバース版のスパイダーマンシリーズ(以下、「MCUスパイダーマン」)の最新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。シリーズ3部作の完結編であり、多元宇宙=マルチバースの影響で、別次元のスパイダーマンと戦ったヴィランたちが集合するということで、公開前から大きな話題を呼んだ本作には、ファンが夢想する「ある展開」が起こるのかどうかにも話題が集中していた。その展開とは「歴代実写映画版スパイダーマンの共演」だ。

原作コミックスでは、マルチバース展開を用いる形で、別次元のスパイダーマン同士が時空を超えて共闘する話は何度も描かれており、その集大成として2014年には80人以上もの多元宇宙のスパイダーマンが登場し、共闘する「スパイダーバース」が刊行された。その後2018年には、劇場用アニメーション作品として、『スパイダーマン:スパイダーバース』が公開。こちらは、コミックス版の「スパイダーバース」をヒントにしつつも、5つの別次元のスパイダーマンが集う完全なオリジナルストーリーとして制作された。

このように、原作コミックスやアニメーションで、別次元のスパイダーマン同士の共闘が実現した流れがあるからこそ、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でもトビー・マグワイアが演じた「スパイダーマン」シリーズのピーターと、アンドリュー・ガーフィールドが「アメイジング・スパイダーマン」で演じたピーターとの競演が見たいという気持ちが高まったのも当然と言えるだろう。

そして、あまり前面的な話題には上がっていなかったが、2022年はスパイダーマンというヒーローにとって重要な年でもあった。スパイダーマンがマーベルコミックスでデビューを飾ったのが1962年。つまり、2022年はスパイダーマンの生誕60周年のアニバーサリーイヤーだったのだ。

さらに付け加えると、マグワイア主演の「スパイダーマン」第1作の公開は2002年。ガーフィールド主演の「アメイジング・スパイダーマン」第1作の公開は2012年であり、2022年は、各作品の10周年&20周年を祝うアニバーサリーイヤー。トリプルアニバーサリーとも言える、スパイダーマンにとって特別な年に公開される『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に、スペシャルなことが起こらないわけがなかったのだ。

黒いスーツを纏ったブラック・スパイダーマンは、叔父の仇を討つべく復讐に燃える(『スパイダーマン3』)

というわけで、ここからは各シリーズの特徴を紹介。まずは公開から20周年を迎えた、サム・ライミ監督、マグワイア主演の「スパイダーマン」の注目すべきポイントを振り返っていこう。

1990年代から始まった実写映画へのCGを使った映像効果も、この作品が発表された2002年には、デジタル技術も成熟途上とは言え、様々なことにチャレンジできるほどになっていた。なかでも「スパイダーマン」を再現するために不可欠な、都市の映像表現に関しては、CGによってバーチャル空間的にニューヨークの街を構築することが可能になり、ビルの谷間をスイングするスパイダーマンの姿を違和感なく描くことができるようになった。また、ビルとビルの間をスイングしながら撮影することができる特殊なカメラが開発されたことで撮影の幅も広がり、広大なセットやワイヤーを使ったスタントワークなどの最新技術を駆使することによって、それまでは不可能と言われていたコミックスのイメージどおりのスパイダーマンの活躍を、実写映画として表現することが可能となったのだ。

監督に起用されたライミ自身もコミックスのファンであり、強い思い入れと情熱を持って作品に取り組んだことで、「スパイダーマン」の第1作は大ヒットを記録する。原作コミックス初期のイメージを踏襲した引っ込み思案な青年ピーター・パーカーが、自らの過ちを契機にヒーローとして成長する姿を軸に、恋人であるメリー・ジェーン(キルスティン・ダンスト)や、親友でのちにスパイダーマンを父の仇だと思うようになるハリー・オズボーン(ジェームズ・フランコ)との関係性を描くという、青春映画としての要素も加わり、本作の完成はアメコミ作品の映画化の可能性を広げた。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でも最初に登場するヴィラン、ドクター・オクトパス(『スパイダーマン2』)

シリーズは2007年公開の第3作まで製作され、そのヒットを受けて第4作も企画されていたが、製作のソニー側と監督のサム・ライミ側の意見が合わず、残念ながらシナリオ段階で製作は中止となってしまった。シリーズ3作品を経て、より大人に成長するピーターの姿を見たかったファンも多かったことだろう。

それから5年後の2012年、マーク・ウェブ監督、ガーフィールド主演でリブートされた『アメイジング・スパイダーマン』が公開される。マーク・ウェブは『(500)日のサマー』(2010年)で見せた恋愛映画的な手腕が評価されての抜擢であり、ガーフィールド演じるピーター・パーカーと、ヒロインであるエマ・ストーン演じるグウェン・ステイシーの関係性がより強調された作風になっている。また、ピーターの性格描写も、いじめられっ子的な暗さが緩和され、むしろ、自身の両親の謎を追う展開やオズコープという巨大企業の闇に迫るダークな雰囲気など、ライミ版とは印象が異なる作品となっている。CGを駆使したデジタルVFX技術はさらに進歩し、スパイダーマン自身の視点から見せる体感的ウェブ・スイングやスピーディかつダイナミックなアクションによって、没入感がさらに高まった映像は評価も高い。

しかし、本シリーズは、当初は3部作の製作が予定されていたものの、2作目となる2014年公開の『アメイジング・スパイダーマン2』で終了となってしまった。その結果、シリーズ2作目のクライマックスで描かれた恋人のグウェンの死という衝撃を、ピーターがどのように乗り越え、ヒーローとしてさらに成長したかが語られずに終わってしまっている。

MCU参加後初の単独作『スパイダーマン:ホームカミング』。まだヒーローとして成長途上のピーターの奮闘が描かれる

全スパイダーマンのその後を描く『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

「アメイジング・スパイダーマン」シリーズが中止となってから1年後の2015年、ソニー・ピクチャーズはマーベル・スタジオとの提携を発表。スパイダーマンは当時展開中だった、多数のヒーローが存在するMCUのキャラクターとして2度目のリブートをすることになる。ホランド演じる新しいスパイダーマン/ピーター・パーカーは、2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でデビューを飾り、翌2017年に『スパイダーマン:ホームカミング』で単独映画が製作されることになる。

シリーズの監督を務めるのは、ジョン・ワッツ。ちょっとした好奇心が原因となり、恐ろしい大人の本性に触れてしまうというスリラー映画『COP CAR/コップ・カー』(2015年)での手腕を認められての抜擢で、「MCUスパイダーマン」シリーズにもその作風は大きく取り入れられている。

ピーター・パーカーは現代的な要素として、やや幼さを残す高校生として描かれ、明るい作風も含めたジュブナイル・ムービー的な方向性となっているのも特徴。大人の怖さを知りながらも、前向きな姿勢で困難に打ち勝とうとするピーターの行動や、恋愛感を前面に出さない「親友であり恋人」というゼンデイヤ演じるMJ、親友であり相棒でもあるジェイコブ・バタロン演じるネッドの存在や、アイアンマンの技術によりハイテク化したスパイダーマンスーツの描写など、原作コミックスの設定をいい意味で現代的な感覚で換骨奪胎したスパイダーマン作品と言えるだろう。また、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)で他のヒーローたちと共闘する姿が描かれるのも、前2シリーズとの大きな違いだ。

サノスとの戦いで師であるトニー・スターク/アイアンマンを失ったピーターは、彼の遺志を継ぎ奮闘する『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

こうしたヒストリーを経てきた3つのスパイダーマン作品が、一つに融合することになったのが『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だ。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)での戦いの結果、ピーターは、世間にスパイダーマンの正体が自分であることをバラされてしまった。自分だけではなく、家族や友人、恋人たちまでも好奇の目にさらされることに心を痛めたピーターは、かつて共に戦った魔術師ドクター・ストレンジのもとに向かう。ストレンジは、人々からスパイダーマンの正体を忘れさせる秘術を使うが失敗。マルチバースの扉が開き、別次元のスパイダーマンの宿敵たちが時空を超えてピーターたちの前に現れてしまう。ピーターは、ヴィランたちを捕まえ、彼らの能力を取り除き善人に戻してから元の時空に送り返そうと尽力するが、戦いで大きな悲劇に見舞われてしまう…。失意の中、戦う気力を失ったピーターの前に現れたのは、同じ悩みを理解することができる、次元を超えて現れた2人のスパイダーマンだった。

ファンが夢想しながらも実現しないと思われた、トム・ホランド、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールドが演じるスパイダーマン3人の夢の競演がついに実現。年代が異なるピーター同士の、まるで兄弟のようなやり取りに喜んだファンも多いことだろう。

戦いを経て大きく成長したピーターが、さらなる成長を遂げる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

さらに大きなサプライズとなったのは、本作がマグワイア演じる「スパイダーマン」のピーターと、ガーフィールド演じる「アメイジング・スパイダーマン」のピーターの、「その後の物語」となっているという点にもあるだろう。

本作内での2人のスパイダーマンの活躍と心理は、『スパイダーマン3』と『アメイジング・スパイダーマン2』での出来事を経て、哀しみを抱えながらも人間的に成長した姿として描かれている。ある意味、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』という作品は、企画されながらも映像化されなかった『スパイダーマン4』と『アメイジング・スパイダーマン3』の要素も包括した作品になっていたのだ。あり得たかもしれない作品へ思いを馳せながら、夢の共闘を楽しむことができる『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。過去作と合わせて見れば、より感慨深く味わうことができるはずだ。

文=石井誠

石井誠●1971年生まれ。アニメ、アメコミ、アクション、ミリタリーなどのジャンル系映画を好むホビー系映画ライター。「シネコンウォーカー」、「MOVIE WALKER PRESS」、「映画秘宝」、「月刊ニュータイプ」、「アニメージュプラス」などで執筆。著書に「安彦良和 マイ・バック・ページズ」(太田出版)などがある。

<放送情報>
スパイダーマン:ホームカミング
放送日時:2022年8月14日(日)16:00~、28日(日)8:30~

(吹)スパイダーマン:ホームカミング
放送日時:2022年8月28日(日)21:00~

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
放送日時:2022年8月14日(日)18:30~、28日(日)11:00~

(吹)スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム
放送日時:2022年8月28日(日)23:30~
チャンネル:ムービープラス

スパイダーマンTM2[エクステンデッド版]
放送日時:2022年8月27日(土)14:00~、30日(火)14:00~

スパイダーマンTM3
放送日時:2022年8月27日(土)16:30~、30日(火)16:30~

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
放送日時:2022年8月27日(土)21:15~、30日(火)19:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)スパイダーマンTM2[エクステンデッド版]
放送日時:2022年8月28日(日)16:00~

(吹)スパイダーマンTM3
放送日時:2022年8月28日(日)18:30~

(吹)スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
放送日時:2022年8月28日(日)21:00~
チャンネル:スターチャンネル3

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
放送日時:2022年8月27日(土)13:00~、30日(火)19:30~
チャンネル:WOWOWプライム

スパイダーマン
放送日時:2022年8月27日(土)13:00~

スパイダーマン2
放送日時:2022年8月27日(土)15:15~

スパイダーマン3
放送日時:2022年8月27日(土)17:30~

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
放送日時:2022年8月27日(土)20:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

▼同じカテゴリのコラムをもっと読む

哀しみを乗り越え強くなるヒーロー 人々の心を掴んだ「スパイダーマン」シリーズの軌跡

哀しみを乗り越え強くなるヒーロー 人々の心を掴んだ「スパイダーマン」シリーズの軌跡

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

##ERROR_MSG##

マイリストから削除してもよいですか?

ログインをしてお気に入り番組を登録しよう!
Myスカパー!にログインをすると、マイリストにお気に入り番組リストを作成することができます!
新規会員登録
マイリストに番組を登録できません
##ERROR_MSG##

現在マイリストに登録中です。

現在マイリストから削除中です。