レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスが共演したクライム・コメディ『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

言葉ではなく映像で物語を伝える名手
巨匠、スティーヴン・スピルバーグのすごさを再確認

2021/06/28 公開

新作が公開されたら、題材にかかわらず必ず映画館に2度は観に行って、DVDも購入する映画監督が、一人だけいる。それが今回取り上げるスティーヴン・スピルバーグ監督だ。

エンタメ作品を撮りながら社会派としての顔も見せるスピルバーグ

言わずと知れた世界で最も有名な映画監督。そして、私が子供の頃からずっと映画監督の代名詞みたいな存在だった人。とはいえ、あまりにも有名な監督なので、「スピルバーグが好き」と言うと恥ずかしい感じすらあった。それがやっと言えるようになったのは、『宇宙戦争』(2005年)が公開された頃。あまりの面白さにぶっ飛んで、それ以来、なんのためらいもなく私はスピルバーグ好きを公言するようになった。(いまだに、『宇宙戦争』はオールタイムベスト級に好きな映画だ)。

ナチス政権下のポーランドを舞台に、大勢のユダヤ人を救った男の実話を映画化した『シンドラーのリスト』

かつて大人も子供も一緒に楽しめる映画を作っていたスピルバーグだが、『シンドラーのリスト』(1993年)の頃からキャリアが少しずつ変わってきた。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年)といった娯楽作品を作る一方で、自身やアメリカの歴史と向き合う映画を多く作るようになってきたのだ。

臨場感あふれる凄まじい戦場シーンで、以降の戦争映画の描写をがらりと変えてしまった『プライベート・ライアン』(1998年)や、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンが奴隷制廃止のため、「憲法修正案」に取り組む姿を描く『リンカーン』(2012年)など。最近ではゲームの世界をカラフルに表現した『レディ・プレイヤー1』(2018年)と、メディアの矜恃を描いた『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017年)をほぼ同時期に作り上げて、映画ファンを驚愕させた。

たった一人の兵士を救うため戦地に赴くことになったある部隊の戦いを描く『プライベート・ライアン』

分断の愚かさや人々の交流の温かさを伝えるメッセージ性と変わらない技術力の高さ

近年のスピルバーグ作品でとりわけ好きなのが、東西冷戦下の諜報戦を描いた『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015年)だ。個人的にスパイ映画が好きなのもあるけれど、本作はいわゆるアクション・スパイ映画ではない。射程距離がもっと長いのだ。

実際に行われたスパイ交換をめぐる実話をコーエン兄弟の脚本で映画化した『ブリッジ・オブ・スパイ』

主演はトム・ハンクス。彼が演じるのは敏腕の保険担当弁護士。ひょんなことからアメリカに潜伏中だったソ連スパイの弁護士を務めることになり、さらに東西ドイツでの人質交換の重要な役割も担うハメになってしまう。ただの民間人が、冷戦下での国同士の交渉に立たされてしまう設定が面白い。さらに、これが史実に基づいた話ということに驚かされてしまう。

ちょっと話が変わるけれど、スピルバーグは「橋」を撮るのがとても巧い。ちょうど本作が公開される前、わたしは『太陽』(2015年)という映画を撮っていて、分断された2つの地域を繋ぐ「橋」の撮影に大変苦労した。そして、『ブリッジ・オブ・スパイ』を観て、「ああ、やっぱりスピルバーグって本当に偉大な監督なんだな」と嘆息した。「橋」は分断された両地域を繋ぐ空間的な場であるとともに、別れてしまった人たちの心を繋ぎとめる儀式的な場でもあったのだ。

スピルバーグは、映画のメッセージを登場人物たちに声高に叫ばせたりはしない。人が命を懸けて越えようとする「境界線」や、人が歩んでいく「橋」を映像として見せることで、分断の愚かさや人々の交流の温かさを観客にそっと伝える。『リンカーン』で最も感動的なシーンも、議会での激しい言葉の応酬ではない。奴隷制に反対していた議員(トミー・リー・ジョーンズ)がそっとベッドに横たわる時、静かにトラックバック(カメラが被写体から引いていく撮影技法)して、その横にいる人物を映しだす瞬間だ。

ダニエル・デイ=ルイスが3度目のアカデミー賞主演男優賞を受賞した『リンカーン』

スピルバーグこそ、言葉ではなく映像で物語を伝える名手。そのことに彼ほど多くのアイデアを持っている映画監督はなかなかいないし、『激突!』(1971年)や『E.T.』(1982年)の頃から、徹底した技術力は変わっていない。

地球に取り残された宇宙人と少年少女の交流を描く感動作『E.T.』

2台の車の距離が近づいたり離れたりすることでサスペンスを生みだし、異星人や子供たちが自転車で疾走するシーンで友情の育みを描く。もともと映画には音声がなく、ただ無音の映像のみで物語を紡いできた時代があった。その頃にスピルバーグが生まれていたとしても、彼は今と同じように世界的な名監督になっていただろう。

すでに彼は新作の制作中らしく、わたしは首を長くして今か今かと劇場公開を待っている。また何度も観るんだろうなぁ。

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)など。新作映画『シュシュシュの娘』が今夏公開予定。

<放送情報>
タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密
放送日時:2021年7月24日(土)5:15~
ブリッジ・オブ・スパイ
放送日時:2021年7月11日(日)16:15~、24日(土)7:15~
E.T.
放送日時:2021年7月24日(土)10:15~
ミュンヘン
放送日時:2021年7月24日(土)12:15~
A.I.
放送日時:2021年7月24日(土)15:00~
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
放送日時:2021年7月24日(土)17:30~
チャンネル:WOWOWシネマ

ブリッジ・オブ・スパイ
放送日時:2021年7月6日(火)10:30~、15日(木)3:45~
チャンネル:スターチャンネル1

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
放送日時:2021年7月3日(土)13:20~、14日(水)16:10~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)ブリッジ・オブ・スパイ
放送日時:2021年7月10日(土)21:00~、18日(日)16:40~
(吹)キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
放送日時:2021年7月7日(水)15:00~、10日(土)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3

プライベート・ライアン
放送日時:2021年7月3日(土)14:00~、14日(水)10:00~
(吹)プライベート・ライアン
放送日時:2021年7月14日(水)23:00~
リンカーン
放送日時:2021年7月1日(木)6:30~、16日(金)18:15~
チャンネル:WOWOWプラス

シンドラーのリスト
放送日時:2021年7月16日(金)2:00~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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