『ゴッドファーザー』は、ヴィトー(マーロン・ブランド)のシーンから始まる

マフィアの物語が長く愛される理由は
抗争とともに写し出された「家族愛」にあり

2021/08/02 公開

名匠、名優を生み出したマフィア映画の金字塔

イタリア移民の息子でマンハッタン出身の作家マリオ・プーゾが1969年に出版した小説「ゴッドファーザー」。終戦後の1945年を舞台に、イタリアンマフィアの抗争劇を特有の「家族愛」をベースに魅力たっぷりに綴り、全米で2000万部超えの大ベストセラーとなり日本でも大評判に。その映画化が決定し、多くのファンが(もちろん、駆け出しのフリーライターだった私も)大いに期待を寄せた。

監督は無名に等しかったイタリア系アメリカ人のフランシス・フォード・コッポラ。彼が主人公ドン・ヴィトー・コルレオーネ役に希望したのは、マーロン・ブランドただ一人。少々落ち目ながらもワガママな大物の起用に、製作会社であるパラマウント映画は大反対だったが、結果としてコッポラ側に押し切られ、ブランドはアカデミー主演男優賞を受賞する好演を見せる。

配役で難航したのはヴィトーの跡を継ぐ三男マイケル役だった。コッポラはイタリア人の祖母を持つアル・パチーノを抜擢。ハリウッドでは無名だったが、ブロードウェイの芝居で1971年にトニー賞助演男優賞を受賞しており、コッポラはその芝居を観ていた。また、長男ソニー役でオーディションを、無名時代のロバート・デ・ニーロが受けているが、起用には至らなかった。

イタリア移民社会の家族愛や結束を、自然に、リアルに描く

計算尽くされた冷徹なリーダーシップと家族思いの面倒見の良さで、ニューヨークの五大犯罪ファミリーの一角のドンにのし上がったヴィトー。彼は「ゴッドファーザー」と呼ばれていた。

幼い日に両親を殺されたヴィトーは、ファミリーの結束を誰よりも重んじる(『ゴッドファーザー』)

「ゴッドファーザー」とは、カトリック教会の洗礼における名付け親、後見人を指す。イタリア系アメリカ移民はマフィアのドンをゴッドファーザーとして敬い、庇護を受けてきた。映画の冒頭は、その関係を見事に映し出した。ヴィトーは暗い部屋で報復や揉め事の相談に訪れた人々に淡々と対応する一方、外では末娘の結婚パーティーが華やかに催され、多くの人々が祝福している。コッポラはヴィトーがただ恐ろしいドンなのではなく、人々に頼られ、慕われていることを自然に映した。

そんなヴィトーを慕う人気歌手が映画へのオファーを絶たれ泣きついてくる。ヴィトーは部下に命じ映画会社の社長へ警告を発するが、そのやり口が怖い。社長が朝、目を覚ますと、ベッドに愛馬の首が血まみれで転がっていたのだ。このエピソードは、かのフランク・シナトラが『地上より永遠に』(1953年)に出演した際の実話が基と言われている。

遺志を継いだ息子の苦悩と、一代で成り上がった父の苦闘

1972年、『ゴッドファーザー』の爆発的ヒットでパラマウント映画は続編を望んだが、一流監督にのし上がったコッポラは拒み続け、『カンバセーション…盗聴…』(1974年)でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞後、兼プロデューサーとして全権を掌握し、『PART II』のシナリオをプーゾと固め始める。

『PART II』でマイケル(アル・パチーノ)は、偉大な亡き父へ思いを馳せる

『PART II』ではマイケルが組織を拡大させていく姿と重ね合わせるように、前作では描かれなかったヴィトーの青年時代が描かれた。両親を殺され9歳でアメリカに渡った男が言葉もわからぬまま必死で自由の国に根を下ろしていく。そんな父と、遺志を継いだ息子の物語を並行させる演出で、前作をしのぐ名作が誕生した。

また、『PART II』でコッポラは、前作のオーディションでギラギラした存在感を見せたデ・ニーロを、若き日のヴィトー役に起用した。デ・ニーロはアカデミー助演男優賞を受賞して名優への道を歩き始める。本シリーズは、ハリウッドを代表する名匠と、2人の名優を生んだのだ。

若き日のブランドを思わせる顔立ちのロバート・デ・ニーロがヴィトーを好演(『ゴッドファーザーPART II』)

ファミリーのドラマ終章は、ドンの悔恨の物語

『PART II』も成功を収め、ファンからは『PART III』も見たいと言う声が高まるなか、その願いは16年後の1990年に実現した。老いてなおゴッドファーザーとして君臨するマイケルの悔恨、前作で別れた元妻との再会、愛娘と後継者との認められざる恋など、家族の物語が進む間に、マイケル暗殺の陰謀が企てられていく。

舞台は『PART II』の時代から20年後の1979年。空白の16年の間に実際に起こったバチカンをめぐる様々なスキャンダルが物語に織り込まれ、ファミリーのルーツであるイタリアとより結びついたテイストに仕上がった。

当初『PART III』は原題に『マイケル・コルレオーネの死』と冠せられていた

ちなみに、あの有名な「愛のテーマ」は第1作でニーノ・ロータが手がけたものだけど、『PART II』からはコッポラの父親で作曲家のカーマイン・コッポラが参加、『PART III』にはコッポラの愛娘ソフィア・コッポラがマイケルの娘役で出演した(1作目にも洗礼を受ける赤ちゃん役で登場)。3作を通してコッポラの妹タリア・シャイアも出演しているし、こちらもイタリア発祥の家族愛に包まれていたよう。

社会描写をリアルに織り込み、アメリカで長らく問題になっていたマフィアの実態にメスを入れつつ、甘美な調べに包んで差し出される壮大な「家族愛」のドラマ。ぜひ3作続けて見て、浸ってみてください。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。今の夢は『007/ノータイム・トゥ・ダイ』を大スクリーンで見ること。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
ゴッドファーザー [デジタル・リストア版]
放送日時:2021年8月21日(土)14:00~
ゴッドファーザーPART II [デジタル・リストア版]
放送日時:2021年8月21日(土)17:15~
ゴッドファーザーPART III [デジタル・リマスター版]
放送日時:2021年8月21日(土)21:00~

チャンネル:WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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