日本劇場未公開作品を放送するWOWOWの「ジャパンプレミア」放送作品の見どころを紹介(『レア・セドゥの いつわり』)

劇場未公開なんてもったいない!
『レア・セドゥのいつわり』など珠玉の2本を紹介

2022/02/28 公開

469本——これは2021年に公開された外国映画の数。日本では毎年400~500本の外国映画が公開されているが、世界中で作られている数からすればごく一部。公開されずに終わった映画はその何倍にものぼる。そんな未公開作品に触れることができるのもスカパー!の魅力。世界各国から厳選された日本初登場映画を紹介するWOWOWの人気番組「ジャパンプレミア」から、2作品を紹介する。

ウクライナからやって来た!映画の撮影所が舞台の奇想天外な冒険ファンタジー

『少女ポリーナと7つの迷宮』は、2019年に公開されたウクライナのファンタジー映画。ウクライナはヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作『ひまわり』(1970年)など古くから欧米映画のロケ地として使われてきた歴史があり、東欧諸国の中でも映画制作と深い関わりを持ってきた国。そんなウクライナで製作された本作も、直球勝負のファミリーエンターテインメントになっている。

家族にまつわる真実を知ろうとする少女の映画撮影所での大冒険を描く『少女ポリーナと7つの迷宮』

両親を知らない12歳のポリーナ(ポリーナ・ペチェネンコ)は、意地悪なおばの家で囚人のような日々を送っていた。かつて両親が映画撮影所のオーナーだったと知った彼女は、家を抜け出し撮影所に潜入。現実と映画の世界が交差した不思議な冒険の旅に出る。

撮影所で繰り広げられる本作は、戦車が走る戦場や鬼教師が仕切る学園、中世の王国など冒険の舞台もバラエティ豊か。それぞれの世界で試練を乗り越えたポリーナが、家族にまつわる真実へとたどり着くまでがユーモアを交えて描かれる。

童話から飛び出したような個性豊かなキャラクターが次々登場(『少女ポリーナと7つの迷宮』)

勧善懲悪のストーリー、勇敢な戦士や気の優しい大男など童話から飛び出したようなキャラ設定、バトルでは格闘ゲーム風にアレンジし過激な描写を控えるなどキッズにやさしい作り。ただし、セクシャルマイノリティやハンディキャップを持つキャラクターを配置する日本映画にはない姿勢は新鮮に映る。

子役たちをサポートする大人たちは『レオン』(1994年)でおなじみのジャン・レノや『家なき子 希望の歌声』(2020年)でも絶賛を浴びたヴィルジニー・ルドワイヤン、『バスターのバラード』(2018年)の個性派俳優ソウル・ルビネックらメジャーな顔ぶれが集結。彼らの存在感が映画を引き締め、安定感を与えている。

レア・セドゥの魅力が炸裂!人気作家の実験的私小説を映像化

『レア・セドゥのいつわり』は2021年のフランス映画。『007 スペクター』(2015年)、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020年)と2作続けてボンドガールを演じたフランスの人気女優レア・セドゥの出演作である。監督は『キングス&クイーン』(2004年)や『クリスマス・ストーリー』(2008年)など、厳しくも温かな人間描写で高い評価を得ているアルノー・デプレシャン。セドゥとは『ルーベ、嘆きの光』(2019年)に続くコンビ作である。

初老のアメリカ人作家と、レア・セドゥ演じる人妻をはじめ浮気相手たちとの密会がなまめかしく綴られていく(『レア・セドゥのいつわり』)

妻と共にイギリスで暮らす初老のアメリカ人作家フィリップ。彼と出会った33歳の人妻は、愛人の存在を隠しもしない夫への不満を晴らすようにフィリップと密会を続けていく。原作は『さよならコロンバス』(1969年)や『白いカラス』(2003年)の原作者として知られるアメリカ文壇を代表する巨匠フィルップ・ロスの「いつわり」。主人公である作家フィリップが複数の女性と愛し合った前後に交わした会話を、地の文なしセリフのみで綴った異色の長編小説だ。

映画はフィリップがさりげなく投げかけた問いに、女性たちが答える形で進行する。会話の内容はストーリーを形作るわけではなく、最近の出来事や思い出話、家族について、いまの気持ちなど取り止めがない。しかも女性たちの回想シーンを除き、100分を超える映画の大半がフィリップと不倫相手(ときどき妻)の会話シーンというユニークな構成になっている。セドゥ演じる人妻は主人公の愛人の一人だが、中心的存在として多くのシーンを占めており、彼女とフィリップ役のドゥニ・ポダリデスの2人芝居と言ってもよい。

そんな本作の魅力が会話のリズム。性行為の前や後というシチュエーションのため、高揚感や充足感漂うトーンが他愛のない会話に色を与え、親密な他人、という距離感もリアルに再現されている。おかげで観る側も密会を覗き見しているようなドキドキ感が味わえる。

邦題も納得!愛くるしくも情熱的なレア・セドゥから目が離せない(『レア・セドゥのいつわり』)

さりげない振り付けによる感情表現や繊細なカメラワークは、デプレシャン監督が得意とする手法。大胆にして繊細な視線、相手の体に触れる手や指の微妙な動き、体を捻る様子などセドゥの情感豊かな仕草や、それをじっくりと追うカメラワークもエロティックな雰囲気を盛り上げる。

ある時は気だるげに、ある時は愛くるしく、またある時は情熱的にと様々な顔を見せるセドゥ。多彩なファッションを含め、邦題の「レア・セドゥの~」のとおり、彼女を満喫できる作品だ。

文=神武団四郎

神武団四郎●映画ライター。「映画秘宝」「MOVIE WALKER PRESS」「シネマトゥデイ」などへの寄稿、パンフレットの執筆、編集など。編書に「別冊映画秘宝 絶対必見!SF映画200」(洋泉社)など。監修書に「テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトデザイン画集」(玄光社)、「メイキング・オブ・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(玄光社)など。ゴジラよりコング派。

<放送情報>
少女ポリーナと7つの迷宮
放送日時:2022年3月3日(木)21:00~、16日(水)15:15~

レア・セドゥの いつわり
放送日時:2022年3月31日(木)21:00~

チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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