最速の称号に挑むドラマに高揚する『フォードvsフェラーリ』より

名車フェラーリが堅持する世界最速の座に殴り込み!
大衆車フォードのデザイナー&レーサーの意地を賭けた闘い

2021/04/05 公開

マット・デイモン&クリスチャン・ベールが最速に挑む男たちを体現

1960年代後半、業績不振の世界最大の自動車メーカー、アメリカのフォード社は、ル・マン24時間耐久レースで優勝することでイメージアップを図る戦略を立て、3年連続で首位を守るイタリア、フェラーリ社の買収を画策する。ところが、相手は巨大企業フォード社の創業者の孫にあたる現社長を無視、まったく相手にしてくれなかった。

マット・デイモンとクリスチャン・ベールの共演も見どころ

フェラーリを追い越す車を開発し、レーシング・チームを作って「ル・マン24時間耐久レース」で優勝する。そんなフォードの不可能としか思えない仕事を受けたのが、伝説のカーデザイナー、キャロル・シェルビー(マット・デイモン)だ。彼は以前からよく知る、アメリカで小さな自動車整備工場を営むイギリス出身の偏屈な天才ドライバー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)を、自らが設計したレーシングカーのドライバーに指名した。

車に関しては絶対に妥協を許さない頑固な性格が災いし嫌われ者となったマイルズだが、彼と組めば、シェルビーの狙い通り、技術の粋を尽くした車の機能を活かしきることができるはず。とはいえ、空気を読まず、お世辞も言えない彼の性格はフォードの重役連中に嫌われ、シェルビーの仕事を邪魔することになったりもするのだが。

シェルビーの無謀とも思える依頼にマイルズは興味を示す

スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)の名子役から『ザ・ファイター』(2010年)でアカデミー賞助演男優賞を受賞、バットマン役も好評を博し世界のスターに上り詰めたベールが、そんな頑固な偏屈男役で絶品の名演を展開する。そして、こちらも少年時代からの親友ベン・アフレックと共同で脚本を書いて主演した『グッド・ウィル・ハンティング』(1997年)でアカデミー賞脚本賞を受賞、『ボーン・アイデンティティー』(2002年)などのシリーズを代表作に持つマット・デイモンのぐっと自分を押さえ、目的のためには耐えることもできるキャラクターが生きてくる。スリリングなレースシーンを、ただスピードを競うだけでなく、張り詰めた緊張感の中に人間味を感じさせ、奥行きのあるものにしているのが2人の演技の実力だ。

レースシーン以外のドラマでも楽しませる演出の巧みさ

スピードに命を懸けるレーサー、マイルズと、最速・最高を目指して車づくりに賭けた不屈の設計者でル・マン出場チームのリーダーでもあるシェルビーのスピードとの闘いを描くのは、『17歳のカルテ』(1999年)、『グレイテスト・ショーマン』(2018年)のジェームズ・マンゴールド監督。彼は24時間にわたる苛酷なカー・レースの間に、夫マイルズの才能を信じて尽くしながらも、ときに勝ち気な性格で夫やシェルビーをたじたじとさせる妻モリー(カトリーナ・バルフ)や、父を尊敬する幼い息子ピーターとの温かな家庭を見せることを忘れない。

ファッション・モデル出身のカトリーナ・バルフがモリーを好演

そしてサーキットへ若い女性とヘリコプターで降り立つフォードの3代目社長、上司の顔色ばかり窺いマイルズやシェルビーのことなど考えない重役連中を見せることで、世界最高のカー・レースの現場が熾烈なビジネスや華やかな社交の場でもあることを見せて物語を膨らませている。だからこそ、カー・レースや車そのものに興味がなかったとしても映画として十分楽しめるのだ。これは実話がモデルだが、モデルになった人たちの反応はどうだったのか?特に重役たちの(笑)なんて考えてしまうシーンもある。

社長や重役たちの無理解が、2人の足かせに

とはいっても、見どころはフェラーリに勝つためにシェルビーのチームが新たに設計した車でつくる記録であり、スピードに命を張るマイルズの鮮やかな運転技術だ。決して快調ではない出だしで車のドアが壊れ、不安の暗い影を投げかけながら、フォードは他社の車を追い抜いていくが、重役連中は勝つことに総てを賭けた2人の男たちの思いもよらないことを考えていた…。

車の設計者とその車に乗るレーサーが互いに抱く敬意。彼らが向かい合うフォード社の重役たちは、技術の世界に生きる人間には理解し難い、企業としての成功や出世のために他人を踏みにじることなど気にもしない浅ましさで、シェルビーとマイルズを傷つける。それでも2人に育まれる信頼と友情は変わらない。その美しさをたっぷり味わいたい。

はたしてシェルビーとマイルズは最速の栄冠を掴むことができるのか?

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。今の夢は『007/ノータイム・トゥ・ダイ』を大スクリーンで見ること。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
フォードvsフェラーリ
放送日時:2021年4月10日(土) 15:45~
チャンネル:WOWOWシネマ

フォードvsフェラーリ
放送日時:2021年4月15日(木)7:30~
チャンネル:スターチャンネル1
(吹)フォードvsフェラーリ
放送日時:2021年4月24日(土)21:00~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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