曇り空の下、ワンショットにこだわった『1917 命をかけた伝令』サム・メンデスは戦火の草原を駆け抜ける兵士に何を託したのか?

曇り空の下、ワンショットにこだわった『1917 命をかけた伝令』サム・メンデスは戦火の草原を駆け抜ける兵士に何を託したのか?

ドイツ軍の罠に堕ちかけたイギリス軍1600人の命運が、2人の兵士に託される

  • 今月の5つ星

曇り空の下、ワンショットにこだわった『1917 命をかけた伝令』
サム・メンデスは戦火の草原を駆け抜ける兵士に何を託したのか?

2021/11/29 公開

徹底してワンショット撮影を貫き、兵士視線の物語を描出

曇り空の下、静まり返ったフランスの野原。人影のない野原を緊張に身を固くして行く2人の兵士――。『1917 命をかけた伝令』(2019年)は、サム・メンデス監督が第一次世界大戦に従軍した祖父から聞いた話に着想を得て生まれた。

メンデスはよりリアルなドラマに仕立てるためワンショット撮影を思いつく。大切なのは2人の兵士の視線だ。彼らが何を見ているのか。そのために映像をカットしたり、繋いだりする映画ならではの魔術を使わない。もちろんCGもない。

伝令役の2人に演習するサム・メンデス監督

激戦地のはずが、なぜか人っ子一人いない戦場を行く若い兵士たちの肌を刺す恐怖と不安感を再現するために、一つ一つのシーンをほぼワンショットで撮影、ドラマの進行とともに状況が変化することで、見ている私たちも戦場に投げ込まれ、もう逃げられない、という不安と緊張に縛られてしまう。

敵側のドイツ兵がどこかに待ち伏せているのではないか?爆薬が仕掛けられているのではないか?戦争映画は数多くあるが、兵士の目線で映像が作られるのは珍しく、そうすることによって生と死の境目にいる彼らの恐怖が、観る者により強烈に迫って来る。

長く掘られた壕を進み、戦場へ飛び出すまでの行軍の様子だけで物語に引き込まれる

無名の2人に託された、戦渦のリアリティの創出

第一次世界大戦は地面に塹壕を掘り、地上の銃撃戦と戦車による戦闘が中心だが、この時イギリス軍は航空機の偵察により、ドイツ軍が前線から撤退すると見せかけ、大規模な砲兵隊を投じ1600人のイギリス軍部隊を待ち受けていることを知った。だが、部隊との通信手段であった電話線はドイツ軍に破壊され、伝令を命じられた下士官ブレイクは戦友のスコフィールドを相棒に指名し、兄も所属する部隊へ向かうべく、ドイツ軍が放棄、撤退した草原を進んでいく。

時は4月。伏兵を警戒しながら進むなか、美しい花を見たブレイクは故郷を思い出す

ブレイク役のディーン・チャールズ・チャップマンは、「ゲーム・オブ・スローンズ」の出演者の一人。スコフィールド役は『はじまりへの旅』(2016年)のジョージ・マッケイ、というようにほぼ無名に近い2人の起用は、監督がよりリアリティを大切にして決めたこと。

その代わり、軍の上官にはベネディクト・カンバーバッチやコリン・ファース、マーク・ストロング、リチャード・マッデンら英国のベテラン・スターを揃え、映画のスケールを大きくしていることも見逃せない。

2人が伝令に向かった部隊を率いるマッケンジー中尉を演じたベネディクト・カンバーバッチ

曇り空の下で表現された「生きることの難しさ」

メンデスは、映画監督デビュー作『アメリカン・ビューティ』(1999年)でアカデミー監督賞を受賞。その頃、すでに英国演劇界を代表する名演出家として知られていたが、映画での成功により『007 スカイフォール』(2012年)や『007 スペクター』(2015年)の監督に起用され、おそらくは舞台演出にはなかった大がかりなアクションの演出術をマスターしたはずだ。

クライマックス、伝令が戦場を駆け抜けるシーンの撮影風景

本作のハイライト、爆弾が炸裂する戦場を多くの兵士が逃げ惑うシーンでは、まったく切れ目のないショットの中、映画ならではの迫力を生み出すことに成功している。その迫力で、この場を必死で駆け抜けるマッケイはカメラが回っていることを忘れ、自分が撮影用に仕掛けられた爆薬に触れないことだけを考えて必死で駆け抜けたのだろう。

この撮影で2018年度のアカデミー撮影賞を受賞した撮影監督のロジャー・ディーキンスは、『ブレードランナー2049』(2017年)で注目され、メンデスとは『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(2008年)、『007 スカイフォール』で組んできた気心の知れた仲。それでも、「全編ワンショットで撮影したいと言われ、初めて脚本を読んだ時は、ホントに!?と目を疑ったが、脚本を読み進め、監督と話しているうちに納得がいった」と話している。撮影は全体の色調を揃えるため曇りの日にのみ行われ、晴れた日はリハーサル、日がかげると撮影…というようにお天気任せで進行した。

夜の市街地を砲撃の炎が明るく照らす。死線を乗り越えた時、兵士の胸に去来するものは…?

兵士たちは途中、墜落した戦闘機に乗るドイツ兵と遭遇、夜の闇が訪れる中、廃墟と化した街や、お腹を空かせた赤ちゃんを連れた女性に出会いながら先を急ぐ。伝令が間に合わなければ友軍は全滅する。責任が重くのしかかるが、様々な恐怖の積み重ねの中で描かれるのは、生きることの大切さ。そして生き延びることの難しさ。そのすべてが曇り空の下の長いワンショットの映像に塗り込められ、圧巻の迫力であなたに迫ってくるのだ。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。今の夢は『ウエスト・サイド・ストーリー』を大スクリーンで見ること。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
1917 命をかけた伝令
放送日時:2021年12月11日(土)21:00~、14日(火)13:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)1917 命をかけた伝令
放送日時:2021年12月12日(日)21:00~、16日(木)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3

1917 命をかけた伝令
放送日時:2021年12月25日(土)13:00~、28日(火)18:00~
チャンネル:WOWOWプライム

1917 命をかけた伝令
放送日時:2021年12月25日(土)20:00~、31日(金)7:25~
チャンネル:WOWOWシネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります