圧倒的才能を持った若き鬼才アリ・アスターが描く不穏な映像世界

圧倒的才能を持った若き鬼才アリ・アスターが描く不穏な映像世界

明るい白夜の下、若者たちが異様な儀式を体験していく『ミッドサマー』

  • 監督が語る巨匠の仕事

圧倒的才能を持った若き鬼才
アリ・アスターが描く不穏な映像世界

2021/04/26 公開

多くの映画ファンに衝撃を与えたデビュー作『ヘレディタリー/継承』

才能あふれる作品とともに、鮮烈に世に出てくる映画監督がいつの時代にもいる。僕の青春時代だったら、アメリカのクエンティン・タランティーノとか、香港のウォン・カーウァイ、フランスのリュック・ベッソンなんかだった。それぞれ作品にオリジナリティがあって、先人たちが作ってきた映画の歴史をひっくり返すようなパワーを持っていた。

今なら、そんな才能の持ち主は、まちがいなくアリ・アスター監督だろう。長編映画はまだ2作しか撮っていない。でも、たった2作で世界的な映画監督として名が轟いた。1986年生まれで34歳。

人の内面をえぐるような重苦しい演出が特徴のアリ・アスター監督

『ヘレディタリー/継承』(2018年)というホラー映画が、長編デビュー作。これがいきなりすごかった。ホラー映画好きの間でまず話題になり、じわじわ広がって映画ファンの心をわしづかみにした。僕も東京の早稲田松竹という映画館に観に行き、脳天を吹っ飛ばされるほどの衝撃を受けた。

ある家族が崩壊していく様を不気味な映像とともに描く『ヘレディタリー/継承』

郊外に暮らすある一家をめぐる恐怖の物語。祖母の死をきっかけに、一家は様々な出来事に見舞われる。ありがちな設定と思われるかもしれないけど、最初の5分くらいで「この映画はちょっと違うぞ」という予感がプンプンし始める。スクリーンの端々から才能のきらめきを感じる。

「ああ、いやだな〜、なんか起きそうだな〜」という空気がずっと漂っているのだ。その予感は裏切られることなくどんどん加速していき、そして予想もしなかった結末に連れていかれる。

映画監督の資質として最も重要な「演出力」が圧倒的に優れているのだ。長編デビュー作とは信じられない。でも一方で、ベテラン監督じゃここまで思い切った演出はできない、と思うような切れ味の鋭さもある。つまり一言でいってしまえば、すごい新人が出てきた!ということになる。余談だけど、僕が撮った『AI崩壊』(2020年)の撮影中、出演者の岩田剛典さんとも「『ヘレディタリー/継承』、やばいよね~」と盛り上がった。

亡くなった祖母から忌まわしい「何か」を受け継いでしまった家族

一言でジャンルを言い表せない、不思議な世界観の『ミッドサマー』

このアリ・アスター監督の長編2作目が『ミッドサマー』。泣いているのか笑っているのか、よくわからない人が花冠を頭に乗せているポスターと、やけに多幸感あふれる予告編を覚えている方も多いかもしれない。公開前から映画ファン界隈をざわつかせて、日本でもヒットした。一言でジャンルを言い表せない不思議な映画なのに、ここまでヒットすること自体が珍しい。

心にトラウマを抱えたヒロインが、大学で民俗学を研究する恋人やその友人たちとスウェーデンの奥地にある村を訪れ、90年に1度の奇祭に参加することに。その村には美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが歓待してくれる。妙にハッピーな映像だな、と思うと、そこはアリ・アスター監督。だんだん異様な雰囲気が立ちこめ始めて……。

神秘の「夏至祭」に参加することになった若者たちの悪夢を映しだす

『ヘレディタリー/継承』からさらに『ミッドサマー』が進化しているのは、「今、僕が観ているこの映画は何なんだろう?」、「これってどこに向かっていくんだろう?」という大いなる疑問のただ中に観客を叩きこんでいくところだ。

正直なところ、『ヘレディタリー/継承』以上に好き嫌いが分かれる映画だと思う。でも、すべての観客に好かれようなんて思わないところが、才能あふれる作家の資質であり、それはいつの時代だって圧倒的に正しい。尖っているからこそ突き刺さる人には強烈に刺さり、そして歴史に残っていく。

現在進行形で同時代を生きている才能ある映画監督の新作を目撃すること。歴史が更新される瞬間を目の当たりにできるのは、新作を観る喜びの一つだ。古今東西に名作はたくさんあって、僕らは一生をかけてもそのすべてを観尽くすことはできない。でも、歴史の先端で新しい作品を作っている人の営為は享受できる。

笑顔で迎えてくれる人々。明るすぎる映像が逆に不気味…

そういう意味で、アリ・アスター監督は最注目の作家の一人。次の新作でも、また気持ちよく予想を裏切り、「なんだこれ……!」と困惑させてくれるはずだ。もし『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』をまだ観ていない方がいたら、この機会にぜひ!

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)など。連続ドラマ「ネメシス」が4月より放送中。

<放送情報>
へレディタリー/継承
放送日時:2021年5月8日(土)23:45~、12日(水)14:15~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)へレディタリー/継承
放送日時:2021年5月15日(土)21:00~、21日(金)7:45~
チャンネル:スターチャンネル3

へレディタリー/継承
放送日時:2021年5月8日(土)2:30~
チャンネル:WOWOWプライム

ミッドサマー
放送日時:2021年5月8日(土)21:00~、11日(火)14:15~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)ミッドサマー
放送日時:2021年5月9日(日)21:00~、13日(木)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3

ミッドサマー
放送日時:2021年5月10日(月)2:15~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります