日本で成功した数少ないロードムービーの金字塔 山田洋次監督の「ポップな名作」を再発見しよう

日本で成功した数少ないロードムービーの金字塔 山田洋次監督の「ポップな名作」を再発見しよう

高倉健が主演を務め、倍賞千恵子、桃井かおり、武田鉄矢が共演した「幸福の黄色いハンカチ」

  • タイムスリップ邦画

日本で成功した数少ないロードムービーの金字塔
山田洋次監督の「ポップな名作」を再発見しよう

2021/04/26 公開

ヒットメーカーが生んだ「頂点」といえる傑作

2010年4月10日に『幸福の黄色いハンカチ』のデジタルリマスター版が劇場公開された際、筆者はそのパンフレット(続けて公開されたウィリアム・ハート主演のハリウッド・リメイク版『イエロー・ハンカチーフ』(2008年)とセットの冊子)に以下のようなことを書いた。

「おそらく『男はつらいよ』シリーズなら、このような解説文は不要。寅さんという名キャラクターはもはや永遠不滅の伝説であり、作品の面白さは若い世代にもずいぶん届いているだろう。
しかし『幸福の黄色いハンカチ』は、今こそ「再発見」されるべきだと思う。21世紀を迎えてもなお、作家性と大衆性を兼ね備えた日本最高のヒットメーカーとして走り続ける山田洋次監督の膨大なフィルモグラフィーの中でも、創造力の頂点を記録したもの、映画の黄金律を極めた一本として――。」

原作は米国のジャーナリスト、ピート・ハミルがベトナム戦争時代である1971年に発表したコラム『Going Home』(『黄色いハンカチ』の邦題で『ニューヨーク・スケッチブック』河出文庫、訳・高見浩所収)。映画は1977年10月1日に松竹系で公開され、大ヒットを記録。第1回日本アカデミー賞では主要部門をほぼ総なめ。キネマ旬報ベストワンなど数々の栄誉に輝いた。

「定番の感動作」のイメージを覆す物語

刑務所から出所した男はある男女と出会い、妻のもとへと向かう

リアルタイムで絶大な評価を受けた『幸福の黄色いハンカチ』。しかし本作は意外にも、公開当時の盛り上がりやなんとなくの知名度に比べると、後続の世代から「再発見」される機会を逃しているのではないかと思う。それはきっと「定番の感動作」というイメージが出来上がり過ぎているからではないか。実際に筆者も、ベタに泣ける昔なつかしの映画でしょ、という偏見で長らく敬遠していたのだ。

それだけにこの映画を初めて観た時の衝撃は大きかった。
まず登場する青年・欽也を演じるのは、これが映画初出演となる若き日の武田鉄矢(当時28歳)。恋人にフラれ、ヤケになって仕事も辞めた彼は、赤い自動車マツダ・ファミリアを購入し、「さあ出かけよう!」とカウボーイハットにサングラス姿で車を走らせる。
前方をさえぎる車には「さっさと飛ばせ、このイモ野郎!」とヤジを飛ばし、道行く女子を目にするとマシンガントークでナンパしまくる。
あまりにも「定番の感動作」とはイメージが違いすぎる!フォーク・グループ「海援隊」の絶頂期であり、まだ1979年から始まったテレビシリーズ「3年B組金八先生」(TBS系)に主演する前の、ギラギラしたハイエナジー男子だった頃の武田が、破天荒なグルーヴを発揮しながら画面の中で大暴れする。

そんな欽也のファミリアに乗り込むのが、桃井かおり(当時26歳)演じるヒロインの朱実。そして高倉健(当時46歳)演じるワケありの男・島勇作だ。
この頃の桃井かおりは「しらけ世代」と呼ばれた1970年代のアンニュイを体現する時代の寵児。コメディエンヌとしての才能を本作で開花させる。高倉健は任侠映画を代表するスターというイメージから脱皮しつつある頃。本作では網走刑務所から出所してきたばかりの元炭鉱夫を演じ、「カツ丼とラーメン、それとビールください」は名セリフとしてよく知られている。

この「男ふたり・女ひとり」による旅の構図は『明日に向って撃て!』(1969年/監督:ジョージ・ロイ・ヒル)などを彷彿させるが、『幸福の黄色いハンカチ』が、はぐれ者たちのさすらいの旅を描いたアメリカン・ニューシネマの日本版という作品意識に彩られていることは間違いない。
画面に広がる北海道の雄大な自然。そして路上の走行感覚に沿った、風を感じる移動の気持ちよさ。カーラジオから流れるピンクレディーの「渚のシンドバッド」やイルカの「なごり雪」などが、1977年という時代の空気を伝えつつ、いま観てもドライブ感は満点。
確かにこの作品は、日本で成功した数少ないロードムービーの代表的な一本なのだ。

こうして前半はパワフルで痛快な喜劇性とスピード感が映画の牽引力となる。そこから転調が起こるのは、中盤の検問で、勇作が殺人罪で網走刑務所に入っていたことを欽也と朱実が知るところ。後半は回想シーンもたっぷり交え、勇作と離ればなれになった妻・光枝(倍賞千恵子)の物語に力点が移っていく。

ざっくり構造を要約すれば、「笑い」の前半、「泣き」の後半と言うことができる。だが「泣き」の部分もセンチメンタル過剰で描写が湿りすぎないよう、常に抑制が効いているのが見事だ。
大人の男女(勇作&光枝)と若い男女(欽也&朱実)のラブストーリーの二段重ねは、『男はつらいよ』のシリーズ後半でおなじみになっていくパターン。そして美しいラストを目にする頃には、完璧な二楽章構成の音楽を聴いたような満足感でいっぱいになる。

世代の異なる2組の男女による、2つの恋の物語が交じり合う

フレッシュな人材とベテランの力、そして山田洋次監督の卓越した演出力と語りの妙が結晶した『幸福の黄色いハンカチ』。ぜひ一切の偏見抜きで向き合って欲しい。普遍性を時代性の中でいきいきと成立させた「ポップな名作」としての魅力を存分に堪能できるはずだ。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
幸福の黄色いハンカチ
放送日時:2021年5月6日(木)9:15~、12日(水)19:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります