ロック雑誌ライターとなった少年の初恋と成長を監督の実体験をベースに描く『あの頃ペニー・レインと』

ロック雑誌ライターとなった少年の初恋と成長を監督の実体験をベースに描く『あの頃ペニー・レインと』

青春音楽映画の名作として語り継がれる『あの頃ペニー・レインと』

  • 青春シネマクロニクル

ロック雑誌ライターとなった少年の初恋と成長を
監督の実体験をベースに描く『あの頃ペニー・レインと』

2021/10/25 公開

ロックバンドの全米ツアーに同行した少年が見聞きしたものは…

カリフォルニア州サンディエゴ。姉からの影響でロックに魅せられた少年ウィリアムは、地元のロック雑誌「クリーム」誌に執筆。その記事を読んで、てっきり大人のライターと勘違いしたナンバーワン・ロック雑誌「ローリング・ストーン」から、人気急上昇中のバンド、スティルウォーターの全米ツアー同行取材をオファーされてしまう。かくして厳格な母親に育てられた少年にとっては初めて尽くしの全米旅行が始まった……。

グルーピーの一人であるペニー・レインは、ロックバンドを愛する「バンド・エイド」を名乗る

2000年に公開された『あの頃ペニー・レインと』は、ロック黄金期の1973年を舞台に、少年の初恋と成長を描いた青春映画である。ファンタジックな内容にしか思えないけど実は本作、監督兼脚本のキャメロン・クロウの自伝作品だ。

クロウは、小学校を飛び級で卒業する天才児で、ローリング・ストーンから記事執筆の依頼が舞い込んだのは映画と同じ15歳の時だった。すぐに彼は雑誌に欠かせないライターとなった。1970年代以降のロックの変化に戸惑っていた年上のライターと異なり、十代の彼にとっては同時代ロックすべてが新鮮に響いたからだ。アーティストたちからも愛され、ジョニ・ミッチェルをはじめ取材相手に逆指名されるケースも多かったという。

ウィリアムに助言する音楽ジャーナリスト役でフィリップ・シーモア・ホフマンも出演

やがてローリング・ストーンが映画進出を模索し始めると、21歳になっていたクロウは高校生と偽って地元の高校に潜入取材を行ってルポルタージュを書き上げる。これに目をつけたユニバーサルが、クロウに脚本を書かせたのが、学園コメディの古典『初体験/リッジモント・ハイ』(1982年)だった。高校生たちの日常生活をヴィヴィッドに描いた脚本は評判を呼び、同作に出演したショーン・ペンやジェニファー・ジェイソン=リーらが注目されるきっかけとなった。1984年には同様のコンセプトを持つ『ワイルド・ライフ』の脚本を執筆。音楽はエディ・ヴァン・ヘイレンが担当している。

監督デビュー作は高校を卒業したばかりのティーンの恋愛を描いた『セイ・エニシング』(1989年)。ジョン・キューザック演じる主人公が、アイオン・スカイ(英国のフォーク・シンガー、ドノヴァンの娘)扮するヒロインの寝室の窓にラジカセを向けてピーター・ガブリエルの「イン・ユア・アイズ」を聴かせるシーンは、『レディ・プレイヤー1』(2018年)をはじめ、多くの映画で引用される名シーンとなった。

当時の夫人でハートのギタリスト、ナンシー・ウィルソンの地元シアトルで撮影した『シングルス 』(1992年)は、ロックスター志望の青年を中心とした群像劇。出演もしたパール・ジャムをはじめ、グランジ・ロック・ブームが燃え上がる瞬間を真空パックした貴重な作品に仕上がっている。そしてトム・クルーズが主演を務めた『ザ・エージェント』(1996年)の監督兼脚本を手掛けて、クロウの評価はハリウッドで揺るぎないものになった。

五感が拡張していくかのような多幸感を、スクリーンに焼きつけた

そんな彼が初めて過去を振り返った作品が『あの頃ペニー・レインと』だった。作品中でウィリアムが見聞きする出来事は、クロウがオールマン・ブラザーズ・バンド、レッド・ツェッペリンといったバンドを取材した時の実経験がベースになっている。スティルウォーターは架空のバンドだが、リーダーのラッセルはイーグルスのグレン・フライや本作の音楽も手掛けたピーター・フランプトンらがモデルらしい。

ゴールディ・ホーンの娘としても知られるケイト・ハドソンは本作で大ブレイク

ウィリアムの初恋の相手ペニー・レインも、同名のグルーピーがモデルだ。ペニー・レインを演じたのは当時まだ無名だったケイト・ハドソン。このキャスティングには面白い裏話がある。実際のペニー・レインはもっと妖精タイプの繊細な女性で、カナダ人女優のサラ・ポーリーがそっくりであることから候補に挙がっていた。しかしクランクイン直前にポーリーが辞退したために、ウィリアムの姉を演じる予定だったハドソンが急遽演じることになったのだ。クロウの実姉は誰からも好かれる人気者タイプで、飛び級で高校に入学してきたクロウが学校でイジメられなかったのは、姉のお陰だったらしい。

つまり人気者タイプのハドソンが妖精タイプを演じるのは、クロウとしては不本意だったわけだが、これがペニー・レインのキャラに複雑な魅力を与え、作品の評価をぐっと上げたのだから映画というメディアはつくづく面白い。ちなみに空いた姉役は、ズーイー・デシャネルが繰り上げ合格して演じ、同作をきっかけにハドソンもデシャネルもブレイクすることになった。

ウィリアムの姉役を『(500)日のサマー』(2009年)のズーイー・デシャネルが演じている

本作が素晴らしいのは、単なるクロウの追憶に終わっていないこと。クロウは、思春期にロックンロールに触れた時、ティーンの誰もが感じる五感が拡張していくかのような多幸感を、甘酸っぱいダイアローグとともにスクリーンに焼きつけている。敬愛するビリー・ワイルダー監督の『アパートの鍵貸します』(1960年)へのオマージュも込められた本作によって、彼はゴールデングローブ賞作品賞(ミュージカル・コメディ部門)とアカデミー賞脚本賞を受賞している。

文=長谷川町蔵

長谷川町蔵●ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「CDジャーナル」「EYESCREAM」などに連載中。著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「文化系のためのヒップホップ入門1~3」(アルテスパブリッシング/大和田俊之と共著)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(DU BOOKS/山崎まどかと共著)など。人生で最も観た映画は『ブレックファスト・クラブ』。

<放送情報>
あの頃ペニー・レインと
放送日時:2021年11月10日(水)8:15~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります