レディー・ガガ&ブラッドリー・クーパーのタッグで贈る現代だからこそ描ける新たな『スター誕生』

レディー・ガガ&ブラッドリー・クーパーのタッグで贈る現代だからこそ描ける新たな『スター誕生』

何度もリメイクされてきた1937年の名作『スター誕生』がレディー・ガガ&ブラッドリー・クーパーの主演で再び映像化

  • 恋愛映画のススメ

レディー・ガガ&ブラッドリー・クーパーのタッグで贈る
現代だからこそ描ける新たな『スター誕生』

2021/11/29 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第9回に登場するのは、『アリー/スター誕生』(2018年)。世界的歌姫のレディー・ガガが映画初主演。本作はもともと、クリント・イーストウッドが映画化する予定で進められていたが、『アメリカン・スナイパー』(2014年)でイーストウッドとタッグを組んだブラッドリー・クーパーが初監督作としてメガホンをとり、ガガと共に主演を務めた。第91回アカデミー賞では作品賞を含む8部門でノミネートされ、主題歌賞を受賞した。ちなみに本作は1937年公開の同名映画の3度目のリメイク作品。

音楽業界でスターになることを夢見ながらも、自分に自信がなく、周囲からは容姿も否定されるアリー(ガガ)は、小さなバーで細々と歌いながら日々を過ごしていた。そんな彼女はある日、世界的ロックスターのジャクソン(クーパー)に見出され、等身大の自分のままでショービジネスの世界に飛び込んでいく…。

歌手を夢見る一人の女性の運命が、世界的ロックスターとの出会いで一変する

「男らしさ」からの脱却を図ったブラッドリー・クーパーの2018年版ジャクソン

小川「松崎さんは過去作全部ご覧になっていますか?」

松崎「ヒロインがジャネット・ゲイナー、ジュディ・ガーランド、バーブラ・ストライサンド、そして今回のレディー・ガガの4本ですね。フォーマットは古いものなのに、これだけリメイクされる意味みたいなところを考えてしまう作品です」

小川「男女関係なく、才能があるのに埋もれている若者をどうにかしてあげたいという気持ちはありませんか?応援したいというのかな」

松崎「ありますね。なるべく上から目線の『マウントおじさん』にならないようにと心掛けながら(笑)」

小川「子供の頃は『自分は特別』と思えても、ままならない現実があって苦しむことはきっと誰にだってありますよね。若者とその才能に惚れ込む大人の関係は、どちらの世代にとっても感情移入できる気がします。立場が変わると崩れてしまう関係性のバランスの難しさ含め、普遍的な話だなと。だからこそ何度もリメイクされているんでしょうけど」

松崎「パートナー間で、特に恋愛が絡んでくると立場が変わることで関係が変わって、壊れやすくなるという感じはしますよね。この作品では、その結末が端的に『死』として表現されています」

小川「状況を受け入れられないの究極ですね」

松崎「多分、本人同士の気持ちもあるのだろうけれど、周りの目というのも一つの要因になっている気がします」

小川「確かに。一般的に、男性の方が周りの目や社会的立場を気にするというか、ある意味、マイノリティとして生きてきた女性の方がそうした変化を受け入れやすいのかもしれないですね」

アリーの歌声に惚れ込んだジャクソンは、ステージでデュエットするなど、彼女がスターダムへ駆け上がるきっかけを作る

松崎「公開時と今回で2度目の鑑賞でした」

小川「私もです。1976年版が女性の物語だとしたら、今回は男性の物語なんだなと改めて思いました」

松崎「ブラッドリー・クーパーという男性が監督と主演を兼ねているということも大きいかもしれないですね」

小川「男らしいという意味ではなくて、有害な男らしさがもたらした悪い循環を断ち切ろうとしている男の物語という、そんな印象を受けました」

松崎「悲劇的な方向に向かってしまうのは、クーパーが演じるジャクソンがやさしくて弱い人だから。彼女をスターにしたいという気持ちがあるのに、自分の状況がやばくなってきたらちょっと苛立つところがあるくらいで、基本、ずっとやさしい男性として描かれています」

小川「単純に有名になった年下女性とそれをやっかむ年上男性の関係ではないですよね」

松崎「アル中になって命を落とすパターンは過去作と同じだけど、2018年版はそういった部分も含めてアップデートされている気がしました。アリーの描かれ方もそうで、1976年版のバーブラが演じていたキャラのようには、自己主張が強くないというのかな。男性が強いという時代じゃないから、女性もそこまで前に前にという描き方をしなくていいという気もします」

小川「レディー・ガガはミュージックビデオなどですばらしい演技を見せているので、うまいだろうなとは思っていました。実際、すごくいい役者だなと思います。でも、やっぱりブラッドリー・クーパーこそがすばらしい映画というか」

松崎「彼はミュージシャンを演じるために1年半も特訓したらしいですしね。やっぱり役作りが半端ないなと思いました」

小川「作詞・作曲もしてましたし、もはやミュージシャンですよね」

本作のためにギターを猛特訓したクーパーの演奏も必見!

現代的にアップデートされた男女の立ち位置や関係性

松崎「この作品もある種『ボーイ・ミーツ・ガール』の変形みたいなところを感じます。恋に落ちる瞬間、それに近いものが描かれている気がしました。アリーの歌う姿にパッと惹かれるところですね。ボディタッチの描写とかも、ある意味すごくエモいなという印象がありました」

小川「触らせてくれるなら君をスターにしてやる、みたいな感じはないんですよね。相手が誰であっても、初対面の人にいきなり触られるのは嫌という態度を女性がきちんと意思表示するのは、1976年版と通じるものがある気がしました」

松崎「2018年版では、アル中やドラッグにハマるのも心の弱さの結果でなったという感じで、昔と違って病という描き方になっているところも変化だと思いました。時代に合わせてアップデートしている感じがあります」

小川「彼が中毒になった原因も、アル中の父親との関係にありますしね。それこそ彼自身が、男らしさの被害者であることが文脈からわかる。さっきも言ったようにアリーに対するやっかみというよりは、成功して自分らしさを失っていく彼女に過去の自分を重ねて悲しんでいて、アルコールに逃げているように思えました」

松崎「やっかみはゼロではないだろうけど、多分その要素よりは、自分自身への怒りみたいなものは感じますよね。落ちぶれていく原因も、もちろん精神面もあっただろうけれど、耳の病気もあったわけで。もともと自殺願望があることも匂わせていますしね」

小川「生まれた瞬間に母親が亡くなり、父親がほとんど酔った状態で育った男の子の傷がやトラウマを抱えたまま前に進んでしまうと、結局アルコールに依存せずにはいられなくなるという負の連鎖が描かれていますよね。だからこそ、アリーの前で号泣したり、祝いの席で失禁もしていましたけど、男性としては恥ずかしいとされる描写があることに意味があるというか」

松崎「あのシーンね。僕はいまどきっぽい印象を受けました。どんなにつらくても、苦しくても、それでも歯を食いしばって立ち上がろうとして、結果的に耐え切れずに死を選ぶ、という話ではないんだなと」

小川「そうですね。むしろそういう部分を葬る時だと言っているような。劇中でもジャクソンが、『古臭いやり方は終わる時がきた』みたいな歌を繰り返し歌っていますし」

松崎「映画化作品の3本目までは、立場的には圧倒的に男性の方が上だったものがひっくり返っていくことでの自尊心の損ね方を描いていたけれど、今回の場合は、会った時からジャクソンがスーパースターだからとか、その辺の立場が上・下といった、そういうのがなかった気がします」

小川「そこが現代的なのかもしれないし、だから、アリーとジャクソンは惹かれ合ったのかもしれないですね」

深い愛情で結ばれていたが、アリーがトップスターになるのに反して、ジャクソンは精神的に不安定になっていく…

松崎「4本の『スター誕生』の変遷を見た場合、最初の2本、1937年版と54年版ではヒロインが、自殺した夫の名前を挙げて『私はノーマン・メイン夫人です』と挨拶するのが、クライマックスになっています。ところが76年版のバーブラはそのくだりをカットしたので、公開当時は批評家などに叩かれたりもしました。彼女の場合、ウーマンリブの時代の人だからそうした自己主張になり、また批判もされたわけですが、今回ヒロインがそう名乗らないのは、それとは違う理由、もうそういう時代じゃないということなんですよね」

小川「バーブラ版は、自分では名乗らずMCに名前を呼ばれていましたよね。近年は奥さんと呼ばれたり呼んだりすること自体も問題視されていますしね。個人的には、みんなが名乗りたい苗字を名乗れればいいとは思いますけど」

松崎「それぞれの夫婦や個人で、自分が良いと思う名乗り方をするという考えですね。この作品ではその辺り、ブラッドリー・クーパーの思想も入っているのかなという気がします」

小川「ある種、男性らしいと言える過去の物語を現代の男性監督が書き換えた作品だと思うので、現代の女性監督がリメイクしたらどうなったんだろうな…とかも考えてしまいますよね」

松崎「時代に合わせた『スター誕生』が今後もリメイクされていくのかもしれないですね」

取材・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
アリー/スター誕生 [PG12]
放送日時:2021年12月11日(土)21:00~、17日(金)21:00~

(吹)アリー/スター誕生 [PG12]
放送日時:2021年12月17日(金)12:30~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります