不条理な闘争の果て、いくつもの生首が大地に転がる...超現実的な恐怖寓話『バクラウ地図から消された村』

不条理な闘争の果て、いくつもの生首が大地に転がる...超現実的な恐怖寓話『バクラウ地図から消された村』

カンヌほか各国の映画祭で賞賛を浴びたブラジル映画『バクラウ 地図から消された村』

  • こんなホラーが観たい

不条理な闘争の果て、いくつもの生首が大地に転がる…
超現実的な恐怖寓話『バクラウ 地図から消された村』

2021/06/28 公開

地図から消失した村で繰り広げられる、とてつもなく血生臭いモダンホラー

今から2年前、2019年の第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』は、貧富の格差拡大の世相を背景にした家族ドラマであり、どんでん返しが炸裂するスリラー、痛烈なブラック・コメディでもあった。要するに、複数のジャンルの要素をはらんだユニークな社会派娯楽作だったわけだが、同年のカンヌで審査員賞に輝いた『バクラウ 地図から消された村』はそれどころではなかった。スリラー、アクション、コメディ、西部劇、政治風刺劇、ファンタジーが入り混じっているうえに、「今から数年後」を舞台にした近未来SFでもある。おまけに、とてつもなく血生臭いモダンホラーなのだ!

このいかにも怪しげなブラジル映画は、日本でも噂が噂を呼んでミニシアターにてロングランヒットを飛ばしたが、おそらく多くの映画ファンは「どんな映画なのかよくわからないが、とにかく凄そうだ」という気分で劇場に足を運んだのではないか。そもそもこの映画、あらすじをまとめるのも難しい。舞台となるのは、ブラジル北東部ペルナンブコ州の辺境に位置するバクラウという小さな村。時代の流れから取り残されたようなこの村で長老格の老女が息を引き取った直後、なぜかインターネットの地図から村が消失してしまう。さらに給水車が銃撃され、謎のふたり組バイカーやUFO が現れるなど、不可解な出来事が続発。ついには村外れで農場の一家の惨殺死体が発見され、バクラウの住民は孤立無援の状況に陥っていくという物語だ。

謎めいた村と、どこか奇妙な村人たちの言動からも目が離せない!

「どんな映画かよくわからない」心理状態で本編を見始めた者は、筆者もそうであったように、ほとんど意味不明な序盤の展開にいっそう面食らうはめになる。いったい、バクラウの村人たちを脅かしているのは何者なのか。そもそも何を描こうとしているのかさえ、なかなか真意をうかがわせないこの映画は、得体の知れない不穏な気配をまきちらし、中盤へと突き進んでいく。すると、あっと驚く展開が待っている。ずっと姿を潜めてバクラウに圧力をかけていた「何者か」が堂々と画面に現れ、映画は180度視点を転換させるのだ。序盤に観る者を唖然とさせていたUFOの正体も明らかになり、「村人」VS「外界からの侵略者」の対立の構図が突如としてせり上がってくる。

何もかも型破り。クライマックスの「決闘」にも注目!

本作を理解するには欧米諸国の植民地主義や政治腐敗への反発などの複雑な背景も重要だが、そうしたテーマについて頭をひねるのは後回しで構わない。土着的で、野蛮で、獰猛なこの映画は、その半面、技術的に極めて洗練されている。クレーン&ドローン・ショットやズーム、ワイプなどを自在に織り交ぜ、風変わりな村人たちの日常やブラジリアン・ウエスタンの興趣あふれる起伏に富んだ風景を描出。ジョン・カーペンター作のエレクトリック音楽「Night」の旋律に乗せて村人がカポエイラに興じる光景、無邪気な子供たちが真夜中の原っぱで外敵と遭遇するシーンなど、あらゆるスリリングにしてストレンジな描写から目が離せない。

ラース・フォン・トリアー作品などで知られる怪優、ウド・キアも出演

ジュリアーノ・ドルネリスとの共同監督で本作を撮り上げたクレーベル・メンドンサ・フィリオ監督は、前作『アクエリアス』(2016年)でも不穏な予兆をかき立てるサスペンス演出に抜群の腕の冴えを見せていたが、本作ではスプラッタ・ホラーと見まがう怒濤のクライマックスの映像化もやってのけた。その長大な「決闘」のシークエンスは圧倒的な武力を備えた侵略者たちの視点で進行していくが、その危機を察知したバクラウの住民は意外な連帯力を発揮して抵抗し、傲慢な敵を迎え撃つ。それまで無力な社会的弱者のように描かれてきた村人たちのしぶとさは、何もかも型破りなこの映画における最大のサプライズであろう。

そして慢性的な水不足にあえぎ、食料や薬品などの生活物資を外界からの「輸入」に頼っているバクラウの村には、唯一の観光スポット「歴史博物館」があり、そこもクライマックスの惨劇の舞台となる。血塗られた過去から先住民の亡霊がよみがえり、今なお繰り返される不条理な闘争の果てにいくつもの生首が大地に転がるこの映画は、もはや超現実的な恐怖寓話としか言いようがない。筋金入りの映画好きとして名高いバラク・オバマ元大統領も「2020年のお気に入り」にリストアップした破格の映像世界を、ぜひご堪能あれ。

文=高橋諭治

高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ+〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。

<放送情報>
バクラウ 地図から消された村
放送日時:2021年7月6日(火)22:45~

チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります