社会派の巨匠・今井正監督が放つ『武士道残酷物語』武士道のダークサイドをえぐり出す「日本人論」映画の極北

社会派の巨匠・今井正監督が放つ『武士道残酷物語』武士道のダークサイドをえぐり出す「日本人論」映画の極北

戦国時代から続く呪われた家系に翻弄される男の姿を描く

  • タイムスリップ邦画

社会派の巨匠・今井正監督が放つ『武士道残酷物語』
武士道のダークサイドをえぐり出す「日本人論」映画の極北

2021/12/27 公開

日本人の精神構造を客観的に描き出した異色の社会派ドラマ

戦後日本を代表する映画監督の一人である今井正(1912年生~1991年没)。東宝で撮った初期の『青い山脈』(1949年)や『また逢う日まで』(1950年)といった抒情豊かな名作も含め、テーマ性が前面化した『ひめゆりの塔』(1953年/1982年に再映画化)、『真昼の暗黒』(1956年)、『橋のない川』二部作(1969年/1970年)、『戦争と青春』(1991年)など一貫して社会派の巨匠として知られている。

そんな彼が1963年に東映で発表した傑作が『武士道残酷物語』だ。タイトルだけ聞くといわゆる時代劇のようだが、通常のジャンル的枠組みを大きく超える破格の作風で、今井正のフィルモグラフィーの中でも特に壮絶な衝撃をもたらす一本。「武士道」という時に美化・理想化して語られがちな価値体系の裏にある、日本人の暗い精神構造を解析することがテーマ。江戸時代の初期から昭和の高度経済成長期まで、350年もの歴史を概観しながら我々の国民性や宿業を執拗にえぐってみせた。

進が会社の事情により結婚を先延ばしにしたことから、絶望した婚約者は自殺を図る

原作は南條範夫の小説『被虐の系譜』。物語は「現代」のシーンから始まる。建設会社に勤める青年・飯倉進(中村錦之助)。彼はライバル関係にある会社の事務員、杏子(三田佳子)と婚約している。しかし会社同士のパワーゲームに巻き込まれて結婚は延期。杏子は睡眠薬で自殺を図り、病院に運ばれてしまった。遺書に記されていたのは「私たちの愛が壊れてしまった以上、生きていけなくなりました」という彼女の悲痛な想い。この婚約者の自殺未遂事件をきっかけに、飯倉進は自らの呪われたルーツを探ろうと、七代にわたる一家の系譜を調べ始める――といった印象的な導入部だ。

以降、本編は計七話構成。まず慶長十五年(1610年)、関ヶ原の戦いのあと、信州矢崎藩藩主・掘式部少輔(東野英治郎)の家臣として拾われた侍、飯倉次郎左衛門秀清のエピソードが語られる。そこから明らかになっていくのは、封建制度の中で主君や国家のために犠牲を強いられることが当然だと思い込んでいる飯倉家の先祖の姿。どんな不条理な命令でも、命を投げ出してまで忠義を従順に守ってしまう各話の歴代主人公を、すべて当時30歳の中村錦之助(のちの萬屋錦之介)が演じるというコンセプチュアルな設計である。

7つの時代にさかのぼりながら、先祖たちの最期を辿っていく

現代にもはびこる労働現場の問題について問いかける

武士の切腹から戦争中の特攻隊へと至る血塗られた歴史の連鎖が、現代における企業の奴隷と化した生き方への疑問につながっていく。

とりわけ権力者の性欲が絡む挿話は陰惨だ。第三話・元禄期の衆道狂いの藩主・掘丹波守宗昌(森雅之)や、第四話・天明期の残虐なサディストの藩主・掘式部少輔安高(江原真二郎)。彼ら殿様の行いは今で言うパワハラやセクハラの祖型。また一方で、同調圧力に過剰適応してしまい、パートナーの女性にまで組織の抑圧を強いる気弱な男性の無自覚な暴力性にも糾弾が及んでいる。

モノクロームの重厚な映像で、サムライ美学のダークサイドを描き出した本作は、「日本人論」映画の極北とも言えるもので、令和の世にも見直してほしい内容の鋭さを備えている。

音楽は黛敏郎。助監督にはすでに東映で監督デビューしており、『関の彌太ッペ』(1963年)や『博奕打ち 総長賭博』(1968年)など時代劇・任侠映画の名手となる山下耕作が就いていた。当時、第13回ベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞するなど、国際的にも評価の高い必見作だ。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
武士道残酷物語 4Kリマスター版
放送日時:2022年1月6日(木)11:00~、19日(水)22:00~

チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります