映画の作り手に最高の名誉を送るカンヌ国際映画祭 その歴史と価値を日本映画で辿る

映画の作り手に最高の名誉を送るカンヌ国際映画祭 その歴史と価値を日本映画で辿る

都会の片隅で万引きなどの犯罪で食いつなぐ一家の日々を綴る『万引き家族』

  • カンヌ映画祭と日本映画

映画の作り手に最高の名誉を送るカンヌ国際映画祭
その歴史と価値を日本映画で辿る

2021/06/28 公開

映画界最大のイベントといえば、アメリカのアカデミー賞、そして世界3大映画祭。基本的に自国=アメリカ映画を讃えるアカデミー賞に対し、3大映画祭は世界中の映画を広く対象にした祭典だ。世界各国の名だたるフィルムメーカーたちは、この3大映画祭で新作をお披露目することを目標にする。コンペティションに選ばれ、何かの賞に輝けば、世界的な公開も決まり、何より、映画の作り手として最高の名誉を獲得できるのである。

黒澤明に今村昌平…パルム・ドールに輝いた日本人監督たち

ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの3大映画祭は、それぞれ特色が分かれるものの、カンヌの場合、マーケット(新作映画の売買)も「世界3大マーケット」の一つであり、総合的な賑わいや華やかさという面で、カンヌへの注目度はひときわ高い。ベルリンやヴェネチアには申し訳ないが、カンヌへの出品を最優先にするフィルムメーカーが多いのは事実だ。つまりカンヌでの受賞作品というのは、監督が満を持した究極の自信作が目利きの審査員に認められたことを意味し、映画ファンに至福の体験を届けることになる。

カンヌ国際映画祭の最高賞はパルム・ドールと呼ばれる。意味は「黄金のシュロ(ヤシ科の植物)」。では、これまで日本映画は何回、パルム・ドールに輝いたのか?カンヌが始まったのは1939年に遡り、2019年までの間の72回(第二次世界大戦で行われなかった年もあり、2020年はコロナでコンペが中止)のうち、5回で受賞している。ごくたまに複数の作品が選ばれる年もあるが、72回で5回は、なかなかの高確率。これまで日本映画のパルム・ドール受賞作は、『地獄門』(1953年)、『影武者』(1980年)、『楢山節考』(1983年)、『うなぎ』(1997年)、『万引き家族』(2018年)。

山に捨てられる老婆と、その息子の心の葛藤を描く『楢山節考』

『地獄門』は当時、日本国内でそこまで高い評価を得ておらず、サプライズの受賞だったが、それから26年後、世界的巨匠として尊敬される黒澤明監督のパルム・ドール受賞は大きなニュースとなった。主演を務めるはずだった勝新太郎が黒澤監督と衝突し、降板するなど話題が途切れなかった『影武者』は、カンヌの直前に日本で劇場公開。そこにパルム・ドール受賞が追い風となり、日本映画として当時の歴代最高の興行成績を記録した。常識を変える大スケールの合戦シーンや絢爛たる映像美は、いま改めて観ても圧巻だ。

大迫力の合戦シーンも話題となった『影武者』

『楢山節考』と『うなぎ』は、どちらも今村昌平の監督作。過去に2回受賞したのは今村監督のほか、フランシス・フォード・コッポラなど計8例。『楢山節考』は、老いた親を子供が「捨てに行く」という、ある意味で衝撃的なストーリーで、一方の『うなぎ』は前科者の主人公が今は静かに理髪店を営むヒューマンドラマ。その作風はまったく違うが、カンヌはこのように一人の監督に何度も賞を与える傾向がある。「映画作家」としての変遷を見守るスタンスが他の映画祭以上に色濃いので、監督たちも「カンヌのために」という意思で新作を作る好循環が生まれるのだ。

元殺人犯の男と自殺を図った女性、一匹のうなぎとの物語が描かれる『うなぎ』

ステップアップしながらパルム・ドールにたどり着いた是枝裕和監督

カンヌにはパルム・ドール以外にも、グランプリ(最高賞に次ぐ賞)、監督賞、審査員賞など数々の賞があり、メインのコンペティションだけでなく「ある視点」部門も注目される。日本人では、河瀨直美(『萌の朱雀』(1997年)で新人監督賞のカメラ・ドール、『殯の森』(2007年)でグランプリ)、黒沢清(『トウキョウソナタ』(2008年)で「ある視点」部門審査員賞、『岸辺の旅』(2015年)で同部門監督賞)らのように、複数の作品で受賞を果たしている監督もいる。

その代表格が是枝裕和監督で、2013年の『そして父になる』で審査員賞を受賞し、2018年の『万引き家族』でパルム・ドールと、階段を駆け上がるように最高の栄誉へと到達。カンヌでの是枝作品の最初の受賞は2004年の『誰も知らない』の男優賞で、当時、14歳だった柳楽優弥が史上最年少受賞の記録を作って、日本でも大きな話題となった。日本人俳優のカンヌでの受賞は、現在に至るまで彼のみ。演技初挑戦の子役から引き出されたピュアな輝きは、年月を経ても色褪せないので、カンヌのチョイスには感服する。また、是枝監督の受賞作品は、一見、日本ならではの社会問題を扱いつつ、どの国の人が観ても感動できる普遍さが、世界的映画祭で評価される理由だろう。

柳楽優弥が日本人初となる男優賞を史上最年少で受賞した『誰も知らない』

日本人で「唯一」といえば、メインのコンペティションで監督賞を受賞したのも、大島渚、ただ一人。受賞作『愛の亡霊』(1978年)は、前作の『愛のコリーダ』(1976年)に続き、フランスのプロデューサーの下、「性」を赤裸々に見つめた。日本映画の常識を変えようとした大島監督の野心がみなぎっているが、センセーショナルな描写で世間を騒然とさせた『愛のコリーダ』以上に、愛を深く追求した点を評価する人が多い。大島作品では『戦場のメリークリスマス』(1983年)がパルム・ドール確実という前評判があったが、その予想を覆し、大逆転で受賞したのが『楢山節考』だった。

大島渚監督が『愛のコリーダ』に続いて性をテーマに挑んだ『愛の亡霊』

このようにカンヌの長い歴史を振り返ると、監督の作家性が重視されているようでもあるが、ここ数年、コンペティションや「ある視点」に選ばれる日本映画には、誰もが感情移入しやすい人間ドラマも目立つ。そんな流れを実感する意味でも、改めてカンヌ受賞作をじっくりと堪能したい。

文=斉藤博昭

斉藤博昭●1963年生まれ。映画誌、女性誌、情報誌、劇場パンフレット、映画サイトなど様々な媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品。

<放送情報>
影武者
放送日時:2021年7月12日(月)23:00~
楢山節考(1983)
放送日時:2021年7月13日(火)23:00~
うなぎ[完全版]
放送日時:2021年7月14日(水)23:15~
万引き家族
放送日時:2021年7月15日(木)22:30~
チャンネル:WOWOWシネマ

誰も知らない
放送日時:2021年7月7日(水)1:30~、11日(日)1:30~
愛の亡霊
放送日時:2021年7月9日(金)1:30~、13日(火)23:30~
チャンネル:ムービープラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります