生きる伝説、クリント・イーストウッド名作を作り続ける尽きないバイタリティと凄み

生きる伝説、クリント・イーストウッド名作を作り続ける尽きないバイタリティと凄み

俳優だけでなく監督としても名作を作り続けるクリント・イーストウッド(『グラン・トリノ』)

  • 監督が語る巨匠の仕事

生きる伝説、クリント・イーストウッド
名作を作り続ける尽きないバイタリティと凄み

2021/08/30 公開

いま、生きる伝説と呼べる人を一人、映画の世界で挙げろ、と言われたら、クリント・イーストウッドを挙げる。

現在91才で、いまなお映画を撮り続けている。とんでもない人だ。俳優出身で、それだけでも名を残したはずなのに、映画監督としても活躍し続けている。クリント・イーストウッドが携わった映画は膨大過ぎて、数えるのも大変なくらいだ。

イーストウッドは、昔からシネフィルの間ではアメリカ映画といえば必ず名前が挙がる人だったと思うけど、日本でも新たに火がついたのはいつからだろう。

イーストウッドの監督2作目で、ある町の護衛を依頼されたガンマンの活躍を描く西部劇『荒野のストレンジャー』

監督兼主演で名作を作り続けるクリント・イーストウッド

1つには『グラン・トリノ』(2008年)の存在がある気がしている。その他の多くの作品と同じく、イーストウッド自身が監督と主演を務めている。日本で監督兼主演といえば北野武さんが有名だが、アメリカではイーストウッドだろう(いったいどうやって主演と監督が両立できるのか。しかも、それですごい映画を撮り続けられるのか、いまだに謎だ)。

『グラン・トリノ』での役柄は、妻に先立たれて隠居生活をしている面倒なじいさん。かなり意固地で寡黙。近所づきあいもほぼないが、ひょんなことをきっかけにアジア人たちと仲良くなる。そしてある事件で、街を荒らすギャングたちとの戦いに乗り出していく。

タイトルにある「グラン・トリノ」は、このじいさんが大事に所有している車種の名前だ。衝撃だったのはクライマックス。未見の方のために言わないでおきたいけど、公開当時、映画館で観ていて思わず声が出そうになった。イーストウッドがこれまで映画の世界で積み重ねてきたことの、最後の総決算を見ているような気になったのだ。(とはいえ、この後もたくさん映画を撮っている)。

イーストウッド演じる頑固者の老人とアジア系の少年との交流を描く『グラン・トリノ』

「映画のすべてを知り抜いている」巨匠の凄み

イーストウッドはこれ以外にもたくさん傑作を撮っているが、なんでこんなに連発できるんだろう。作品を世に送り出すペースが早く、しかも傑作揃いだ。

『グラン・トリノ』より少し前の作品では、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)が有名だろう。本作は米アカデミー賞で作品賞ほか4部門を受賞した。この映画でもイーストウッドは主演を張っている。

ヒラリー・スワンク演じる女性ボクサーを描く映画だが、何度観ても中盤からの展開に、「あっ」と驚いてしまう。前半はアメリカ映画が得意とする王道のボクシング映画だが、後半はあるテーマへと突入するのだ。尊厳死だ。個人的にはいつも、前半の流れるようなボクシングシーンの数々に目を奪われて、後半に待っている展開を忘れてしまう。そして、イーストウッドとモーガン・フリーマンの渋い俳優同士の演技も見どころの一つ。

孤独な女性ボクサーと彼女のトレーナーとの絆の物語『ミリオンダラー・ベイビー』

この名優2人のバディ感は、『許されざる者』(1992年)ですでに果たされている。この映画は、個人的にイーストウッド監督作のベスト5に入るほど好き。ただ、難しいのは、なんで好きかを簡単には言えないことだ。これは他のイーストウッド作品についても言える。とてつもなくすごい映画なのはわかるけれど、撮影手法そのものはけっこうサラッと撮っているようにも見えるし、わかりやすく「これはヤバい!」というような難易度の高いカットが頻出するわけでもない。でも、なんだか「この人は映画のすべてを知り抜いている」というようなすごみを感じてしまうのだ。

イーストウッドとモーガン・フリーマン、名優同士のかけ合いも見どころ(『ミリオンダラー・ベイビー』)

実際、イーストウッドは俳優時代から錚々たる巨匠たちと仕事をしてきて、映画のすべてを知り尽くしているだろう。イーストウッド自身も『許されざる者』の前に監督兼主演の西部劇を作っていて、『荒野のストレンジャー』(1972年)と『ペイルライダー』(1985年)あたりは、確実に『許されざる者』の精神性や演出手法へと繋がっており、そして進化を遂げていっている。

いまもイーストウッドは若々しく映画を作り続け、その新作が公開を待たれている。いったいどんな肉体と精神をしているのだろう。生きる伝説であると同時に、映画の超人と呼びたくなる衝動にいつも駆られている。

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)など。最新作『シュシュシュの娘』が8月21日(土)より全国ミニシアター公開。

<放送情報>
荒野のストレンジャー
放送日時:2021年9月10日(金)8:00~、25日(土)16:30~

ミリオンダラー・ベイビー
放送日時:2021年9月25日(土)18:30~

グラン・トリノ
放送日時:2021年9月25日(土)21:00~、29日(水)14:00~
チャンネル:WOWOWプラス

グラン・トリノ
放送日時:2021年9月27日(月)13:00~
チャンネル:WOWOWプライム

グラン・トリノ
放送日時:2021年9月21日(火)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

マディソン郡の橋
放送日時:2021年9月3日(金)1:00~、11日(土)12:00~
チャンネル:スターチャンネル2

(吹)マディソン郡の橋
放送日時:2021年9月4日(土)10:30~、15日(水)3:30~
チャンネル:スターチャンネル3
※放送スケジュールは変更になる場合があります