言葉で説明しきれない映画的な「格好いい」フランスの巨匠、ジャン=リュック・ゴダールに惹かれるワケ

言葉で説明しきれない映画的な「格好いい」フランスの巨匠、ジャン=リュック・ゴダールに惹かれるワケ

ヌーヴェルヴァーグを象徴する監督の一人、ジャン=リュック・ゴダールの「格好いい」を語る(『気狂いピエロ』)

  • 監督が語る巨匠の仕事

言葉で説明しきれない映画的な「格好いい」
フランスの巨匠、ジャン=リュック・ゴダールに惹かれるワケ

2021/11/29 公開

2021年に逝去した映画スターはたくさんいるけれど、最大級のスターといえば、ジャン=ポール・ベルモンドだろう。フランス出身の俳優で無数の映画に出演し、数々の名作を残した。

今年は日本でも特集上映が開催され、ミニシアターで盛況を博した。私もこれまで観たことのなかったベルモント主演作を観に行った。そんなベルモンドの代表作といえば、やっぱりジャン=リュック・ゴダール監督と組んだ『勝手にしやがれ』(1959年)と『気狂いピエロ』(1965年)だろう。

フランスを代表する俳優、ジャン=ポール・ベルモンドを一躍映画スターの座に押し上げた『勝手にしやがれ』

映画にとって「最も重要なこと」を表現し続けるジャン=リュック・ゴダール

ところが、ゴダールほど語るのが大変な監督もいない。世界中のたくさんの映画評論家がゴダールを論じているし、いまさら私なんかが付け加えることなんかありそうもないからだ。現在91歳ながら作品を撮り続けている現役の巨匠で、クリント・イーストウッドと並ぶ怪物だ(しかも、2人は同い年)。言ってしまえば、20世紀の映画作家の最重要人物。

正直なところ、ゴダールが何を考えて映画を撮っているのか、私のような凡人には考えも及ばないし、下手なことを言ったらいろんな人から怒られそうだ。ゴダールやフランソワ・トリュフォーなどが生み出したヌーヴェルヴァーグについてもしかり。なので、今回は一つだけ思い出話を記したい。

かつて私は映画を学ぶ芸術大学に通っていた。映画を「作る」授業と映画を「観る」授業以外は、ほとんど学校に足が向かない不真面目な学生だった。だから覚えていることは少ないし、映画作りのノウハウについては卒業後に自主映画を撮りながら学んでいったことの方が多い。

そんな中、ある教授がゼミの中で放った言葉が鮮明に記憶に残っている。

「映画にとって、最も重要なことはなんだと思う?」

ゴダールみたいな髪型の教授は私たちに、そう問うた。私たちは、あれこれひねり出して答えたが、教授は満足な顔をせずにぽつりと言った。

「格好いいことじゃないかな」

そして、付け加えた。

「ゴダールの映画って格好いいでしょ」

そうなのだ。ゴダールの映画はずっと格好いい。

警察に追われる男(ジャン=ポール・ベルモンド)と彼のアメリカ人のガールフレンド(ジーン・セバーグ)との退廃的な関係を描く(『勝手にしやがれ』)

ヌーヴェルヴァーグを象徴するゴダールの代表作!『勝手にしやがれ』&『気狂いピエロ』の格好いい

初長編映画『勝手にしやがれ』は、公開から50年以上たったいま観ても、最高に格好いい。ジャンプカットや街頭ロケなどの発明は、いまでは当たり前に真似されているけど、いまでも真似できないことが画面に溢れまくっている。

カットの連続から発せられる生きいきとしたカメラの躍動、俳優たちの予測がつかない言動、惚れぼれしてしまう台詞の応酬。もちろん、ファッションもその一つだ。本作に主演しているベルモンドとジーン・セバーグに恋をした人も多いだろう(私も例に漏れず、ベルモンドに嫉妬し、セバーグへの恋に落ちた)。世界で最も美しい白黒映画の一つといえる。

ジャンプカットや高感度カメラの使用、唐突なクローズアップなどそれまでの映画技法の概念を覆した(『勝手にしやがれ』)

『気狂いピエロ』になると、ややハイコンテクストになり、物語を中心に映画を追う観客の中には、戸惑う人も多かれ少なかれいるだろう(私もそうだった)。でも、やっぱりどこを観ても格好いい。アンナ・カリーナとベルモンドの溢れんばかりの魅力が炸裂し、海と空の色が圧倒的に美しい。こちらは、世界で最も美しいカラー映画の一つといえる。突如訪れる爆発と、ランボーの詩が引用されたラストシーンは有名すぎるほど有名だ。

「ピエロ」と呼ばれる主人公がただただ破滅へと向かっていく『気狂いピエロ』

と、ここまでいろいろと書いてきたけれど、やっぱりゴダールの映画について何か深いことを書こうとすると、自分の中にわずかに残された謙虚さが、ぐっとブレーキを踏む。それはたぶん、死ぬまでゴダールの映画を観続け、「格好いい。格好いい」と呟きながら、天才の所業に憧れ続けるしかないからだろう。なんだったら、ゴダールの映画の凄さについて見事に論評できる人だって格好いいのだ。ちなみに、私が最も好きなゴダール映画は『はなればなれに』(1964年)。これまた格好良くて、最高にかわいい映画だ。

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)など。最新作『シュシュシュの娘』が全国ミニシアター公開のほか、『聖地X』も全国公開中。

<放送情報>
勝手にしやがれ
放送日時:2021年12月1日(水)17:00~、17日(金)6:00~

気狂いピエロ
放送日時:2021年12月12日(日)8:00~、23日(木)10:30~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります