こんなスパイ映画が観たかった!最強の英国紳士の活躍を描く『キングスマン』の斬新さ

こんなスパイ映画が観たかった!最強の英国紳士の活躍を描く『キングスマン』の斬新さ

どこの国にも属さない諜報機関「キングスマン」に所属する最強の英国紳士たちの活躍を描く『キングスマン』

  • ヒーロー大図鑑

こんなスパイ映画が観たかった!
最強の英国紳士の活躍を描く『キングスマン』の斬新さ

2021/12/27 公開

スパイ・アクション超大作が相変わらず花盛りだ。ダニエル・クレイグが15年頑張った末にとうとうマイクを、もといワルサーPPKを置いた「007」シリーズ然り、どうやら今度の新作でもトム・クルーズが生身の人間の限界に挑戦するらしい「ミッション:インポッシブル」シリーズ然り。コミック・ヒーロー映画ジャンルでも『ブラック・ウィドウ』(2020年)が激闘を見せていた。こうしてスクリーンの中では常にどこかしらのスパイが走って跳んで、殴り殴られ、ずいぶんな目に遭っている。

単身で敵の本拠地へ乗り込むエグジー

肉体を酷使してこそスパイ、という風潮を決定的なものにしたのは『ボーン・アイデンティティ』(2002年)から続く「ジェイソン・ボーン」シリーズなのではないかと思う。そりゃ例えば、ロジャー・ムーアの「007」なども毎度派手なアクションに励んではいたが、その合間合間では割と頭を使ってみたり、あるいは結構まったりしていたのではないか。しかし、「ジェイソン・ボーン」シリーズがジャンルにおけるアクションの臨場感を極限まで追求して以降、どうも映画のスパイたちは、まず身体を張ってナンボ、という不文律ができあがっているように思えてならない。

もちろん、常軌を逸したスーパー・アクションはみんなの大好物だから、それはそれで大いにやり続けていただきたいのだが、ただスパイって…そういうことですかね…?という疑問をおそらく長年抱いてきた監督がいた。それがマシュー・ヴォーンである。

優雅なふるまいに遊び心たっぷりのガジェット…あらゆる要素を全部盛りにしたスパイ映画『キングスマン』!

「007」のお膝元、英国生まれのヴォーンにしてみれば、スパイ映画とはもっとオーバー・ザ・トップかつ優雅で、洒落の効いたものでなければならなかった。つまり悪の天才が途方もない世界征服計画を立てて、やけに設定の練り込まれたスーパー・スパイ組織がその阻止に乗りだす。巨大な悪に無尽蔵な体力とド根性で立ち向かうというより、プラス頭脳とガジェットと、さらに洒脱な態度が必要とされると。

『キングスマン』(2015年)はまさにそうした要素を全部盛りにした作品だ。タイトルが示すのは、ロンドンはサヴィル・ロウに本拠地を構える諜報組織で、その構成員はみなビシッと背広を着こなす紳士である。作戦に欠かせないスパイの秘密道具も蝙蝠傘や革靴、万年筆といった紳士の持ち物に擬してあり、よく考えると非常に馬鹿馬鹿しいのだが、そうした作り込みこそがスパイ映画の醍醐味なのだから仕方がなかった。

荒んだ生活を送っていたエグジーを、彼の父の友人でもあったハリーがキングスマンにスカウトする

主人公エグジー(タロン・エガートン)は下町の兄ちゃんだったが、あることから件の秘密組織、「キングスマン」にリクルートされる。同組織のエースであるハリー(コリン・ファース)によれば、実は死んだ父親もエージェントだったという。

厳しすぎる訓練を経て、何でもない若者だったエグジーはプロフェッショナルとして、さらに重要なことには英国紳士としての自覚と実力を身につけていく。この英国紳士として…というあたりも考えてみれば、なぜ?と思わなくもないのだが、スパイといったら英国紳士なのだからこれも仕方がないのである。

サミュエル・L・ジャクソン演じる悪の組織のボス、ヴァレンタインと、彼の部下でソフィア・ブテラ扮する両足が義足の殺し屋、ガゼル

また、スーパー・スパイに欠かせないのが途轍もないスーパー悪役。サミュエル・L・ジャクソン扮する超悪徳実業家ヴァレンタインは、人間を狂乱させる電波を仕込んだSIMカードを全人類に実質無料で配布し、世界を崩壊させようとする。行き過ぎた新自由主義丸出しのアメリカ人ヴァレンタインの計画に、にわか仕込みの新人英国紳士エグジーが立ち向かう。いかにも今風で冷酷なバリューを振り回す俗物のオッサンと、非常に伝統的な精神を(短期促成ではあるが)叩き込まれた若者が闘うという、これは新旧の世代と価値観とが交錯した、意外に複雑な物語ではある。

紳士的なハリーが中盤で見せるとんでもない大乱闘は必見!

『キングスマン』はスコットランド生まれのコミック作家、マーク・ミラーによる原作を基にしている。ヴォーンがミラーの原作を映画化するのは『キック・アス』(2010年)に続いてこれが2度目。思い出せば『キック・アス』も、何の取り柄もない青年がスーパーヒーローになろうと思い立ち、自警団父娘との出会いを通して正義の道に足を踏み入れていくという物語だった。

原作においては、『キック・アス』も『キングスマン』も同じ「ミラー・ワールド」という世界観に属していて、いずれ映画でも各シリーズの主人公たちがクロスオーバーしてはくれないものかと思うが、ともあれ、ミラー×ヴォーンの合体に外れなし、ということはここで改めて言っておきたい。

特殊なSIMカードによって凶暴化した人々を次々と殺害していくハリー

さらに、アクション・ヒーローにスポットライトを当てる当連載の主旨に照らして言うと、何しろ映画『キングスマン』最大の見どころはコリン・ファース演じるスーパー・スパイの大活躍だ。1965~67年にかけて製作された英国発のスパイ映画「国際諜報局」シリーズでマイケル・ケインが演じたエージェント、眼鏡のハリー・パーマーの延長線上にある紳士ハリーにいちいち痺れる。

いつも冷静で寛容な態度を崩さず、紳士の何たるかをチンピラ上がりの主人公エグジーに教えてくれる。できればこういう人間になりたいものだと思う。そんな落ち着き払ったジェントルマンがいろいろあって我を忘れ、とある教会で人間のクズたち相手にとんでもない大殺戮を繰り広げてしまうくだりには思わず息を呑み、ついついここだけを何度も何度も観返してしまう。これは物語の構成でいえば第2幕の終盤あたりで、映画には締めの第3幕もあるのだが、正直に言えばここですっかり満足して寝ることさえある。それだけ異常なテンションに満ちた、映画史に残る名場面だと思う。

本作にはさらにケレン味を増した続編『キングスマン : ゴールデン・サークル』(2017年)もあり、さらには秘密諜報組織のオリジンを描く最新作『キングスマン : ファースト・エージェント』も現在公開中だ。近年、よりリアルに、より肉弾路線に舵を切っているスパイ映画ジャンルにおいて、王道の「やりすぎ感」を追及している当シリーズ。今後の展開にも期待したいところだが、とりいそぎその第1作に改めて触れていただきたい。

文=てらさわホーク

てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。

<放送情報>
キングスマン
放送日時:2022年1月9日(日)16:45~
チャンネル:WOWOWプラス

※放送スケジュールは変更になる場合があります