名作ファンタジーの映像化に挑んだ情熱とこだわり歴史を変えた『ロード・オブ・ザ・リング』の功績に迫る

名作ファンタジーの映像化に挑んだ情熱とこだわり歴史を変えた『ロード・オブ・ザ・リング』の功績に迫る

世界を支配できる「力の指輪」を巡る冒険と戦いの物語(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』)

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名作ファンタジーの映像化に挑んだ情熱とこだわり
歴史を変えた『ロード・オブ・ザ・リング』の功績に迫る

2021/07/26 公開

「ハリー・ポッター」に「ナルニア国物語」、「ライラの冒険」と、2000年代は名作ファンタジー小説の映画化が立て続けに行われていた。どの作品も魔法や不思議な生き物、ワクワクするような冒険に満ちた作品ばかりだが、特にJ・R・R.トールキンの「指輪物語」が原作の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作で描かれる世界観は壮大かつ独創的だ。第1部『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』(2001年、公開時のタイトルは『ロード・オブ・ザ・リング』)の公開から20年となるいま、本作を軸とするハリウッド映画の潮流を探ってみたい。

大人でも人間の子どもぐらいの身長しかないホビット族(『ロード・オブ・ザ・リング』)

『ロード・オブ・ザ・リング』3部作は『~ /旅の仲間』、『~ /二つの塔』(2002年)、『~ /王の帰還』(2003年)で構成され、それぞれの上映時間が178分、179分、203分という超大作。2012年からは本作の前日譚にあたる「ホビットの冒険」を映画化した『ホビット』3部作も製作されている。

物語の舞台となるのは地球だが、「中つ国(ミドルアース)」と呼ばれる私たちが認識している歴史よりも遥昔にあった架空の世界。冥王サウロンが中つ国を支配するために作った「力の指輪(一つの指輪)」を巡る冒険と戦いが繰り広げられる。

力の指輪を葬り去るため、青年フロドは仲間とともに滅びの山を目指す(『ロード・オブ・ザ・リング』

本作の特徴として、人間以外にエルフやドワーフ、人間の子どものような見た目のホビット、さらに、オークやゴブリンといった様々な種族が登場する。トールキンが「指輪物語」の第1部を発表したのが1954年(「ホビットの冒険」は1937年)。これらの種族についての描写―とんがり耳で弓を使うエルフに、ずんぐり体型で髭モジャのドワーフなど―の描写は、のちのファンタジー映画や小説にも踏襲されている。

また、旅を続けるなかで仲間が増えたり、スティングと呼ばれる短剣やミスリルの鎖帷子などのアイテムを手に入れたり、各地で様々な困難や強敵と対峙する展開も。こういった要素は、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や「ドラゴンクエスト」、「ファイナルファンタジー」といったボードゲーム、テレビゲームにも影響を与えたと言えるだろう。

大学教授であり言語学の専門家でもあるトールキンは、約15の人工言語を発明し、中つ国にも登場するエルフ語のクウェンヤやシンダール語といった言語も生みだした。さらに、「指輪物語」において主人公のフロドが指輪を捨てるため、故郷であるホビット庄を旅立ってから帰ってくるまでに1年と数ヶ月ほどの時が流れているが、その期間外に起こった出来事も事細かに記されている。トールキンの頭の中には中つ国が含まれる世界全体、つまり地球の創造から神々の戦い、様々な種族の誕生に国々の栄枯盛衰といった先史時代の歴史があり、それらをメモや草稿にして生涯書き続けてきたという。

残念ながら「ホビットの冒険」と「指輪物語」以外で小説にされることはなかったが、のちに彼の息子のクリストファーによって、「シルマリルの物語」や「終わらざりし物語」、「中つ国の歴史」といった書籍で出版されている。中つ国の物語が長きにわたって愛されているのは、神話や大河ドラマのような、知れば知るほど深みにはまっていく奥深さがそこにあるからなのだ。

フロドの養父ビルボと13人のドワーフの冒険を描いた「ホビットの冒険」も映画化された(『ホビット 思いがけない冒険』)

壮絶な戦場や異形の生き物の映像化を可能にしたデジタル技術の進化

前置きが長くなってしまったが、「指輪物語」を映画化することは、小説だけでなく、その奥にある歴史も感じさせるものではなくてはならない。それだけに本作は「映画化不可能」と言われ続け、いくつかのアニメーション作品はあったものの、3部作の完全映画化には小説の完結から約半世紀もかかってしまった。

『ロード・オブ・ザ・リング』(と『ホビット』)の監督を務めたのは、『乙女の祈り』(1994年)や『さまよう魂たち』(1996年)などを手がけてきたピーター・ジャクソン。彼にとって「指輪物語」はティーンエイジャー時代に感銘を受けた作品であり、映画化は悲願だった。

人間を統べる王族の末柄ながら世捨て人として生きてきたアラゴルンの苦悩も描かれる(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』)

撮影地に選ばれたのはジャクソンの母国であり、切り立った山脈に、森林や草原など広大な自然が残るニュージーランドで、400日以上をかけて3作の撮影が行われた。リアリティを追求するジャクソンは、トールキン作品の挿絵画家で知られるアラン・リーが描いたイメージボードをもとに、中つ国の世界を構築。ナズグル(指輪の幽鬼)やトロルといったクリーチャーは生物学に基づいて設計され、4万個以上の鎧に500本の弓、1万本の矢といった武具に加え、1万9000もの衣装が作られたという。

劇中に登場する村や町、城や要塞のセットも細部にいたるまで見事な出来。とりわけ、フロドたちが暮らすホビット庄は撮影の数ヶ月前から村全体が制作され、その使い込まれた質感からも本当にホビット族が何世代にもわたって暮らしてきたかのよう。このホビット庄は撮影後も解体されずに残っており、ファンにとってはおなじみの観光スポットとなった。

ホビット庄を訪れる魔法使いのガンダルフ(『ホビット 思いがけない冒険』)

本作が映画化できた要因の一つに、デジタル技術の進化も挙げられる。視覚効果を担当したのは、ジャクソン自らが立ち上げたVFX制作会社「WETAデジタル」。WETAが開発したプログラムの一つに、MASSIVEがある。これは「思考」を持ったCGキャラクターの兵士を素早く生成するもので、周囲の状況に合わせてそれぞれが独立した反応を見せるという。

本作には「角笛城の戦い」や「ペレンノール野の合戦」といった数千から数万の軍勢がぶつかり合う戦闘シーンがいくつも登場する。MASSIVEによってこれらの映像化が可能となり、劇中では隊列を組んできびきびと動く者もいれば、戦場から逃げだしてしまう者もいるなど、戦場の描写をよりリアルなものにしている。

300人ほどのローハン軍が迫りくる1万のウルク=ハイと激闘を繰り広げた「角笛城の戦い」(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』)

さらに、WETAはモーションキャプチャーの技術も発展させ、生身の俳優とCGキャラクターが同じ画面内で違和感なく共演させることに成功している。その代表が『~ /二つの塔』から本格的に登場するゴラムだ。

指輪に執着するゴラムは、仲間とは別の道を行くことになったフロドと、彼の従者で友人のサムと行動をともにする。劇中では、2人と取っ組み合いをしたり、好物の魚にかぶりついたり、喜んで飛び跳ねたりと様々な表情や動きを見せており、彼がCGキャラクターであることを忘れてしまう。

演じているのは、本作をきっかけにモーションキャプチャー俳優の第一人者となったアンディ・サーキス。撮影中のサーキスは特殊なボディスーツに身を包み、彼の体や表情の動きがコンピューターに取り込まれた。後から合成するのではなく、セットやロケ地で実際に共演者との演技に臨んでいるため、フロドやサムとの自然なかけ合いを映像にすることができたのだ。

「旅の仲間」から離れたフロドとサムは、指輪に執着するゴラムに出会う(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』)

のちに、WETAはジャクソンの『キング・コング』(2005年)をはじめ、『アバター』(2009年)や『アベンジャーズ』シリーズなどのVFXも担当。MASSIVEも『キング・コング』のほか、『父親たちの星条旗』(2006年)や『300〈スリーハンドレッド〉』(2007年)にも使用されている。

一方のサーキスも、上記のキング・コングやリブート版『猿の惑星』3部作のシーザー、『スター・ウォーズ』続3部作の最高指導者スノークといったキャラクターをモーションキャプチャーで演じてきた。デジタル技術において、本作がのちのハリウッド映画にもたらした功績ははかり知れない。

ファンタジー映画の枠の収まらない歴史的な映画となった『ロード・オブ・ザリング』

このように、中つ国を映像化すること自体が偉業と言え、それを達成したジャクソンの手腕と情熱は相当なもの。興行面でも大成功を収め、第1部の世界興行収入が8億8,700万ドル以上、第2部は9億5,100万ドル以上、第3部も11億4,100万ドル以上で、3作合わせて30億ドル近い数字をたたきだしている。

さらに、特筆すべきは批評面でもシリーズが大絶賛されたことで、米アカデミー賞において3作すべてが作品賞や監督賞をふくむ数多くの部門にノミネートされている。そして、完結編の『~ /王の帰還』はノミネートされた11部門すべての賞を受賞し、『ベン・ハー』(1959年)や『タイタニック』(1997年)と並ぶ史上最多タイ記録を達成するなど、歴史に名を刻む作品となった。

過去にも、『オズの魔法使い』(1939年)や『スター・ウォーズ』(1977年)、『E.T.』(1982年)といったファンタジー/SF作品が賞レースをにぎわすことはあったが、作品賞や監督賞はノミネート止まりで、視覚効果や音響、美術など技術部門での評価が大半だった。最近でも、『アバター』や『ブラック・パンサー』(2018年)がこれらの賞を逃しており、『ロード・オブ・ザ・リング』がどれだけ画期的な作品だったかがわかっていただけるはず。

過酷な旅を続けるフロドたちをエルフの女王、ガラドリエルが勇気づける(『ロード・オブ・ザ・リング』)

本作が興行面、批評面ともに成功できた要因には、もちろん、20世紀で最も人気のある文学作品が原作ということもあるが、それまでのファンタジー作品の枠に収まらない映像や演出、テーマ性もカギだったと考えられる。

「ネバーエンディング・ストーリー」(1984年)に代表されるように、本作以前のファンタジー作品はどこか子どもが観るものという位置づけだった。しかし、前述の通り「指輪物語」には重厚な歴史ドラマがあり、映画には大迫力の合戦シーンや善と悪の勢力争いも描かれている。一方で、魔法や不思議な力は存在するが、登場人物がそれらに頼ることはなく、己の力や仲間との協力で困難を乗り越えていくのも本作ならでは。合戦シーンにおいても、籠城戦や騎馬隊の突撃はリアルさが追求されており、投石機や攻城塔といった史実にある兵器も使用されている。

歴史大作とオスカーの相性はよく、上記の『ベン・ハー』のほか、『ブレイブハート』(1995年)や『グラディエーター』(2000年)などもアカデミー賞作品賞や監督賞を受賞している。後者2本は本作と製作年も比較的近く、そういった流れも有利に働いたのかもしれない。実際、2000年代には、『トロイ』(2004年)や『キング・アーサー』(2004年)、『アレキサンダー』(2004年)、『キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)といった合戦シーンが印象的な歴史大作がいくつも作られていた。

とりわけ、『キング・アーサー』はアーサー王伝説をベースにしながらも、アーサー王のモデルと言われる古代ローマの軍人の史実が描かれている。それまでのファンタジー作品の色を感じさせないという意味では、『ロード・オブ・ザ・リング』からの流れを汲んだ作品の一つと言えるだろう。

『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』ではアラゴルンたちが危機的状況に陥った人間の国、ローハンを救おうとする

最後に、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ホビット』ともに、世界の命運を握る主人公はフロドとビルボという純朴な青年。どちらの作品にも高潔な英雄たちが何人も登場するが、彼らはフロドたちのサポート役に努めている。

「偉大な力だけが悪を封じられると言うが、わしの考えは違う。普通の人々の行いが悪を払うのです。思いやりや愛情が。なぜバギンズか?わしも怖いのです。彼は勇気をくれる」

これは『ホビット 思いがけない冒険』(2012年)で、魔法使いのガンダルフがエルフの女王、ガラドリエルから、ビルボを危険な旅に引き入れたことについて問われた際に語った言葉。原作にはないセリフだが、ホビットが主人公であること、トールキンが作品に込めた意味を鮮明に観客に伝えていると感じられる。

『ロード・オブ・ザ・リング』の指輪や『ホビット』におけるアーケン石は、力や富、権力の象徴であり、劇中にもそれらによって心が惑わされ、破滅を招いてしまう者が何人も登場する。フロドたちはちっぽけだが、それらに抗おうとする存在。本作は心の強さを描いた作品であり、ホビット族のように平和を愛し、他人を慈しむ大切さを教えてくれるのだ。

竜に奪われたドワーフの国を取り戻すため、「忍びの者」となったビルボが大活躍(『ホビット 竜に奪われた王国』)

思い返せば、2001年はアメリカ同時多発テロが起こった年であり、世論が戦争へと大きく傾いていた。そういった社会情勢への不安もまた、本作が大勢に支持された理由と言えるかもしれない。そして現在、国同士の対立や人種、思想の違いから世界的な分断への警鐘が鳴らされている。

『ロード・オブ・ザ・リング』、そして『ホビット』もまた、過去にあった対立を乗り越え、多種多様な種族が一つの目的のために手を結ぶ作品でもある。彼らが立ち向かう悪は、怒りや憎しみ、猜疑心といった心の弱さがもたらす災厄のメタファー。いま、改めてシリーズを観返せば、これからの未来を生きるヒントが見つかるかもしれない。

文=平尾嘉浩

<放送情報>
ロード・オブ・ザ・リング
放送日時:2021年8月21日(土)11:00~
ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
放送日時:2021年8月21日(土)14:15~
ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
放送日時:2021年8月21日(土)17:30~
ホビット 思いがけない冒険
放送日時:2021年8月7日(土)15:00~、11日(水)21:00~
(吹)ホビット 思いがけない冒険
放送日時:2021年8月11日(水)12:45~
ホビット 竜に奪われた王国
放送日時:2021年8月7日(土)18:00~、12日(木)21:00~
(吹)ホビット 竜に奪われた王国
放送日時:2021年8月12日(木)12:00~
ホビット 決戦のゆくえ
放送日時:2021年8月7日(土)21:00~、13日(金)21:00~
(吹)ホビット 決戦のゆくえ
放送日時:2021年8月13日(金)12:30~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります