人気俳優ジョナ・ヒルの、待望の監督デビュー作普遍的な輝きを放つ青春映画『mid90s ミッドナインティーズ』

人気俳優ジョナ・ヒルの、待望の監督デビュー作普遍的な輝きを放つ青春映画『mid90s ミッドナインティーズ』

ジョナ・ヒルの半自伝的ストーリー『mid90s ミッドナインティーズ』

  • 青春シネマクロニクル

人気俳優ジョナ・ヒルの、待望の監督デビュー作
普遍的な輝きを放つ青春映画『mid90s ミッドナインティーズ』

2021/06/28 公開

1990年代半ばの時代風俗に対する執拗なまでのこだわり

1990年代半ばのロサンゼルス。13歳の内気なスティーヴィー(サニー・スリッチ)は、年の離れた兄のイアン(ルーカス・ヘッジズ)に力でねじふせられ、鬱々とした日々を送っていた。そんなある日、彼は街のスケートボード・ショップに出入りする少年たちと知り合う。口が悪くて乱暴だけど、底抜けに幸せそうな彼らの姿に刺激を受けたスティーヴィーは、彼らの仲間入りをしてスケートボードに励むようになるのだが…。

『mid90s ミッドナインティーズ』は、『マネーボール』(2011年)や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)などで知られる人気俳優ジョナ・ヒルの、待望の監督デビュー作である。「待望の」と書いたのには意味がある。もともとジョナは、ジャド・アパトーがプロデュースする一連のコメディ映画で名を上げた人なのだが、この一派は修行期間を終えたら自分たちでクリエイティブ面もこなすようになるのが当たり前。兄貴分にあたるセス・ローゲンやジェイソン・シーゲルは、早い段階で自ら監督や脚本も手がけ始めており、ジョナも『21ジャンプ・ストリート』2部作(2012〜14年)や『ウェディング・バトル アウトな男たち』(2016年)といった作品ではストーリー原案を担当していた。つまり監督・脚本作がいつ発表されてもおかしくない状況だったのだ。

主人公の暴力的な兄イアンを若手実力派のルーカス・ヘッジズが演じる

だがコメディと並行して、シリアス作品での演技も評価されていたジョナは、兄貴分とは異なる形で監督・脚本家にステップアップしたかったに違いない。その結果、セスの脚本作『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)と同じ半自伝作でありながら、本作はずいぶん趣が異なる作品に仕上がっている。

最大の差異は、1990年代半ばの時代風俗に対する執拗なまでのこだわりだろう。鮮明な画質と操作性の良さから、現在圧倒的な主流となっているデジタルカメラではなく、あえて16ミリフィルムカメラを使って撮影した滲みやハレーションのある映像は、観客の甘美な郷愁を呼び覚ましてくれる。

誰もが十代に経験するイニシエーションが描かれる

映像面のリファレンスになっているのは、ガス・ヴァン・サントやハーモニー・コリンが当時作った作品群——ふたりのそれぞれの近作『ドント・ウォーリー』(2018年)、『ビーチ・バム まじめに不真面目』(2019年)にはジョナも出演しており、なんらかのサジェスチョンを受けたかもしれない——。ファッションやショップの看板は、当時に撮影されたものと言われたら信じてしまいそうなくらいリアルだ。

また当時のLAのスケートボード・シーンに、映画内で再現する価値があることも事実である。というのも、この時代にこの街のスケートボーダーの生き方、そして彼らが身に着けていたスニーカーやTシャツ、そして愛聴していたヒップホップをはじめとする音楽は、一大ライフスタイルとして世界中のティーンに強い影響を与えていたからだ。

1990年代の音楽やファッション、ゲームなどのカルチャーが満載!

そしてこうしたムーヴメントの末端に13歳のジョナも実際に身を置いていた。ロケ地に使用されたスケートパークは少年時代のジョナがスケートボードを楽しんだ場所だし、イアンの部屋のマニアックなヒップホップCDコレクションは、音楽好きが高じて後にロビン・シックやマルーン5のマネージャーになったジョナの実兄ジョーダン・フェルドスタインのそれを再現したものだろう。なおジョーダンは2017年に急死しており、それが本作の内省的なトーンに影響を与えている可能性も高い。そんな兄から影響を受けたのか、ジョナ自身もかなりのヒップホップ・フリークで、GZAやファーサイドのナンバーの絶妙な使われ方も見どころとなっている。

そんな本作だけど、1990年代半ばのLAで育っていない人間には共感不可能なマニアックな物語というわけでは断じてないのでご心配なく。思春期を迎えた主人公が家族以外の人間関係に夢中になるものの、それがあっけなく壊れる瞬間に立ち会うことで少しだけ大人になる。スティーヴィーのそんな体験は、誰もが十代に経験するイニシエーションだからだ。時代を限定したタイトルが付けられながら、だから本作は青春映画として普遍的な輝きを放っている。

大半がそれまで演技経験のないスケートボーダーだったという少年たちの、演技の自然さにも注目してほしい。

文=長谷川町蔵

長谷川町蔵●ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「CDジャーナル」「EYESCREAM」などに連載中。著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「文化系のためのヒップホップ入門1~3」(アルテスパブリッシング/大和田俊之と共著)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(DU BOOKS/山崎まどかと共著)など。人生で最も観た映画は『ブレックファスト・クラブ』。

<放送情報>
mid90s ミッドナインティーズ
放送日時:2021年7月18日(日)21:00~、28日(水)13:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります