「新しい才能」のシンボルであり続ける、天才・森田芳光の世界 『家族ゲーム』や『の・ようなもの』をはじめ、永遠に瑞々しい才気に痺れる!

「新しい才能」のシンボルであり続ける、天才・森田芳光の世界 『家族ゲーム』や『の・ようなもの』をはじめ、永遠に瑞々しい才気に痺れる!

落語家の青年を主人公にしたコメディ『の・ようなもの』

  • タイムスリップ邦画

「新しい才能」のシンボルであり続ける、天才・森田芳光の世界
『家族ゲーム』や『の・ようなもの』をはじめ、永遠に瑞々しい才気に痺れる!

2021/08/23 公開

1980年代を代表する文化人であった森田芳光

「80年代は、サブカルチャーを牽引する新しい才能に若者たちが熱狂した時代である。音楽はサザンオールスターズの桑田佳祐、文学は村上春樹、広告は糸井重里、そして映画は森田芳光だった。」

これは2012年刊行のぴあMOOK「森田芳光祭 全員集合!モリタ監督トリビュート」で、あの詩人・谷川俊太郎が文・構成を務めた名テキスト「モリタイズムから学ぶポジティブ人生」の一節である。ここにもう一人付け加えるなら「漫画は大友克洋」となるだろうが、1980年代、好景気に沸く日本の中で颯爽とカルチャーシーンに登場した「新しい才能」のシンボルが、森田芳光(1950年生~2011年没)という映画監督だった。ちなみに森田の初期の自主映画『ライブイン茅ヶ崎』(1978年)のチラシをデザインしたのが、他ならぬ大友である。

森田芳光のきらめくフィルモグラフィの中で、もし一本だけベストを選び出すとしたら、多くの人が1983年の『家族ゲーム』(10月に日本映画専門チャンネルで放送予定)を挙げるだろう。製作・配給は尖鋭的な映画群を送り出していた伝説のレーベル、「ATG」ことアート・シアター・ギルド(1984年には伊丹十三の『お葬式』、1985年には相米慎二の『台風クラブ』を手掛ける)。「天才モリタ」の才気が最高潮にほとばしり、同時代の空気を鋭く反映させながら、いま観ても抜群に面白い極めつけのマスターピースだ。

主演は松田優作。アクションスターとして人気絶頂だった彼がここでは派手な動きを封じ、なんと家庭教師を演じる。三流私立大学(「城南大学」と架空の校名がついている)の七年生という怪しい素性の吉本勝。彼が東京湾に臨む団地で暮らす沼田家にやってきて、高校受験を控えながらまったく勉強のできない中学三年生の次男・茂之(宮川一朗太)の指導に当たることになる。

本作ではまず、沼田家の面々が同じ方向を向いて食卓に座る「横並びの構図」が話題となった。昔ながらの一家団欒の構図ではなく、バラバラの「個人」の集まりでしかない家族の肖像。映画評論家の佐藤忠男は「小津安二郎の映画で人物が同じ方向を向いて並ぶのが気心の一致と調和を意味していたことの向こうを張るように、人物たちが同じ方向を向くのは相互の無関心の表現になり、真正面から向かい合うのは危険なディス・コミュニケーションのシグナルになる、といった具合だ」と解説している(「ATG映画を読む」フィルムアート社刊より)。たしかに都市生活者のミーイズムと核家族像をシンボリックな表現で提示した『家族ゲーム』は、小津の『東京物語』(1953年)を更新した「家族映画」と言えるのだ。

沼田家をはじめ、登場人物は曲者ばかり。目玉焼きの黄身だけをチューチュー吸う父・孝助を演じるのは、翌年先述した『お葬式』で監督デビューする伊丹十三。母・千賀子役は由紀さおり。ちなみに近所に住む変わり者の若奥さん役は戸川純で、家庭教師・吉本の恋人を作詞家としてよく知られる阿木燿子が演じるなど、キャストには音楽方面の人材の起用が多い。実際、モリタ映画は「音楽性の高さ」がよく指摘される。『家族ゲーム』はいわゆる映画音楽を一切使用していないのだが、そのぶんヘリコプターの音など、現実音や環境音が重視され、台詞のトーンも含めて映画全体が音楽的に組成されている。また団地の空間性の活かし方などは、明らかに川島雄三監督の傑作『しとやかな獣』(1962年)が念頭に置かれているだろう。

ハードボイルドと言っていい静かな緊張感が張り詰める映画ではあるのだが、同時にシュールな笑いが炸裂する秀逸なコメディであり、風刺劇としての痛快さもある。それは松田優作が快演(怪演?)する「型破りの教師」像が大きい。いじめられっ子の劣等生である茂之をむしろ手荒に扱いながら、それでも深い信頼を得て、独特のやり方で成績もグングン上げていく。そしてひいては教育や学校、家族の現代的な在り方をクールに対象化して、批評的に放り出す。

『家族ゲーム』は作家・本間洋平が1981年にすばる文学賞を受賞した同名小説が原作であり、映画版に少し遅れて放映された長渕剛主演のTBSドラマシリーズも有名だ(主題歌は長渕の「GOOD-BYE青春」)。のちの「ドラゴン桜」や「二月の勝者-絶対合格の教室-」といった受験ものドラマの原点のひとつに『家族ゲーム』があることは疑いない。実際筆者はTBSドラマ版「ドラゴン桜」の主演・阿部寛を観るたびに、『家族ゲーム』の松田優作を想い出すのだ。

この森田芳光×松田優作の黄金タッグは、夏目漱石の小説を映画化した『それから』(1985年)にも引き継がれ、『家族ゲーム』と同じくキネマ旬報ベストテン第1位を獲得するなど各方面の絶賛を受けることになる。他にも『ときめきに死す』(1984年)、『(ハル)』(1996年)、『阿修羅のごとく』(2003年)、遺作となった『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)まで、長期にわたって「天才モリタ」の瑞々しい輝きが衰えることはなかった。

『阿修羅のごとく』では、四姉妹の騒動を描き出す

長編デビュー作ならではの質感を感じられる『の・ようなもの』

そんな森田芳光の「瑞々しい輝き」の起点として、ぜひ押さえてほしいのが、劇場用長編映画デビュー作の『の・ようなもの』(1981年)である。

『家族ゲーム』にも茂之の担任の国語教師として出演した、伊藤克信が主演。古典落語の修行に励む新米落語家を好演した。伊藤は城西大学の落研出身で、学生落語コンクールで入賞したところを、天才モリタに見初められた。とはいえ当時は森田もまだ無名に近い自主映画作家だったから、伊藤にしてみると「ワケのわからないヤツに捕まった」くらいの感じだったかもしれない。森田はすでに大学を卒業して生命保険会社に勤めていた伊藤を説得し、会社を辞めさせ俳優の道へと引きずり込んだ。

商業用長編とはいえ、資金は森田が実家を抵当に入れてまで(!)、自力で捻出したもの。それだけに自主映画の感触に近い、「時代の寵児」になる直前のハンドメイドな温かみに満ちた珠玉の青春群像となっている。インテリの風俗嬢を演じる秋吉久美子や、落語の兄弟子役の尾藤イサオやでんでんなど、役者陣はみんな印象的。関根勤(当時・ラビット関根)や小堺一機も顔を見せ、落研所属の女子高生役で当時17歳のエド・はるみが出演していることも、のちに話題となった。ちなみに森田の逝去後、長らく森田組の助監督を務めてきた杉山泰一の監督により、松山ケンイチ主演の35年後の後日談『の・ようなもの のようなもの』(2016年)が公開されている。

のちに『の・ようなもの のようなもの』で主演を務める松山ケンイチが主演した森田監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』

この『の・ようなもの』は、第3回ヨコハマ映画祭の日本映画ベストテンで第1位に選出され、作品賞と新人監督賞を受賞。ヨコハマ映画祭では第34回(2012年度)から急逝した森田監督にちなみ、新人監督賞を「森田芳光メモリアル 新人監督賞」との名称に変更した。以降、白石和彌(『凶悪』)、中野量太(『チチを撮りに』)、真利子哲也(『ディストラクション・ベイビーズ』)、石川慶(『愚行録』)、野尻克己(『鈴木家の嘘』)、片山慎三(『岬の兄妹』)、内山拓也(『佐々木、イン、マイマイン』)など錚々たる新星が栄誉に輝いている。そう、いまも森田芳光は「新しい才能」のシンボルであり続けているのだ。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
の・ようなもの
放送日時:2021年9月6日(月)21:00~

ときめきに死す
放送日時:2021年9月13日(月)23:30~

失楽園<R-15>
放送日時:2021年9月20日(月・祝)23:20~、27日(月)23:30~

阿修羅のごとく
放送日時:2021年9月27日(月)21:00~
チャンネル:日本映画専門チャンネル

海猫 umineko[R15+]
放送日時:2021年9月11日(土)21:30~、20日(月)22:00~

僕達急行 A列車で行こう
放送日時:2021年9月11日(土)17:30~、22日(水)22:00~

サウスバウンド
放送日時:2021年9月11日(土)19:30~、21日(火)22:00~
チャンネル:東映チャンネル

(本)噂のストリッパー(R-15版)
放送日時:2021年9月12日(日)1:45~、20日(月・祝)1:45~
チャンネル:衛星劇場

黒い家
放送日時:2021年9月14日(火)21:00~、30日(木)6:00~

39 刑法第三十九条
放送日時:2021年9月13日(月)21:00~
チャンネル:チャンネルNECO

※放送スケジュールは変更になる場合があります

森田芳光監督生誕70周年・没後10年を迎えるにあたって、日本映画専門チャンネル、東映チャンネル、映画・チャンネルNECO、衛星劇場の4チャンネルでは、デビュー作から遺作まで、コメディからサスペンスまで、ロマンポルノから大作まで、森田監督のキャリアを一気に振り返る全18作品を2ヶ月にわたり放送します。

■日本映画専門チャンネル
[9月]『の・ようなもの』『ときめきに死す』『失楽園<R-15>』『阿修羅のごとく』
[10月放送予定]『家族ゲーム』『キッチン』『(ハル)』『模倣犯』

■東映チャンネル
[9月]『海猫 umineko[R15+]』『サウスバウンド』『僕達急行 A列車で行こう』
[10月放送予定]『ボーイズ & ガールズ』『それから』『悲しい色やねん』

■映画・チャンネルNECO
[9月]『39 刑法第三十九条』『黒い家』

■衛星劇場
[9月]『(本)噂のストリッパー』
[10月放送予定]『ピンクカット 太く愛して深く愛して』