『タクシードライバー』&『レイジング・ブル』の名脚本家、ポール・シュレイダーが監督作『魂のゆくえ』で見せる飛躍

『タクシードライバー』&『レイジング・ブル』の名脚本家、ポール・シュレイダーが監督作『魂のゆくえ』で見せる飛躍

イーサン・ホークが信仰心や環境破壊が進む現実を前に苦しむ牧師を演じる『魂のゆくえ』

  • 監督が語る巨匠の仕事

『タクシードライバー』&『レイジング・ブル』の名脚本家、
ポール・シュレイダーが監督作『魂のゆくえ』で見せる飛躍

2021/11/01 公開

今回は、ポール・シュレイダー監督の『魂のゆくえ』(2017年)をご紹介する。主演はイーサン・ホーク。私と映画好きの友人たちの間では、「イーサン・ホークが出演を決める映画は、間違いがない」という定説が出来上がりつつある。もともとイケメンな俳優だけど、ハリウッドの大型娯楽作からいい感じの距離を取りつつ、インディペンデントな映画や気に入った監督の作品にもよく主演している。それが大体おもしろいのだ。ということで、『魂のゆくえ』は前情報もなく映画館に観に行った。

自ら逃げ場のない破滅へと追い詰められていく主人公をイーサン・ホークが体現

ホークが演じるのは、アメリカ・ニューヨーク州北部の小さな教会の牧師を務めるトラー。見るからに満たされていない。何に満たされていないのかは、映画が進むにつれてだんだんわかるけど、彼が登場した瞬間から「何かあるぞ、この人は…」と思わせてくれるのが、我らがイーサン・ホークである。

この牧師さんは、教会を訪れた若い夫婦から相談を受ける。地方のギャルっぽい見た目の妻メアリー(アマンダ・セイフライド)は妊娠している。夫の方は急進的な環境保護活動家で、「こんな世界に子どもを生んでいいのだろうか」と悩んでいる。牧師であるトラーは、中絶に賛同できるはずがない。ここから、ささやかだが彼を苦悩させる事件が始まっていく。

環境汚染している企業の支援を教会が受けていると知り、キリスト教の在り方に疑問を持つトラー(『魂のゆくえ』)

物語は、寒々しい地方都市を舞台に、静かに淡々と進む。派手な事件は、中盤に夫婦の運命を左右する大きな一件が起きるだけだ。でも、トラーは着実に、そして不可逆的に精神を蝕まれ、袋小路へと迷い込んでいく。やがて、その体にも重大な病を抱えていることが明らかになる。じわじわと追い詰められる主人公を、観客がハラハラと見つめ続けるタイプの映画だ。それも、悪意ある敵から追い詰められるわけじゃない。トラーは自分から逃げ場のない破滅へと向かっていくのだ。

主人公をとことん追い詰め、闇に突き落とすポール・シュレイダーの作家性

『魂のゆくえ』の監督&脚本を務めたのは、アメリカのポール・シュレイダー。追い込まれていく男を描かせたら、当代右に出る者はいない(とわたしは思っている)。彼の名前を一躍有名にしたのは、脚本を担当したマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(1976年)。この映画では、都会の孤独なタクシー運転手をロバート・デ・ニーロが演じて、歴史に残る一作になった。

その後もシュレイダーは、スコセッシ&デ・ニーロと再集結して、実在のプロボクサーの栄光と破滅を描いた『レイジング・ブル』(1980年)の脚本を担当した。主演のデ・ニーロは、引き締まった体の現役ボクサー時代と、引退後のぼてぼての腹を表現するため、すさまじい肉体作りを実践し、その徹底ぶりは伝説的な逸話としても残っている。

久しぶりに観直してみると、デ・ニーロの「怒れる牡牛(レイジング・ブル)」っぷりも最高だけど、弟役を演じたジョー・ペシがすばらしい。さりげない演技でデ・ニーロを引き立たせ、映画のリアリティをしっかり支えている。彼のような名優がいるからこそ、堕ちていく主人公の一瞬の光とその後の闇が引き立つのだ。

ポール・シュレイダーが脚本を執筆し、ロバート・デ・ニーロが実在するボクサーを演じた『レイジング・ブル』

シュレイダーが書く主人公は、監督作の『アメリカン・ジゴロ』(1980年)などもそうであるように、絶望的なほどの暗闇へ落ち込んでいく。だが、『魂のゆくえ』がおもしろいのは、宗教・環境破壊・中絶という重いテーマとは裏腹に、ところどころでなぜか笑えてしまうからだ。

コメディ的な演出がされているわけではなく、登場人物たちもいたって真面目。でも(それだからこそ)、どこか滑稽に見えてくる不思議。本作でもっとも笑って驚いたシーンも、中盤に唐突にやって来る。

自身も病に侵されていると知り、トラーは地元の名士たちが集まる教会の式典で自爆テロを起こそうとする(『魂のゆくえ』)

魂の救済を求め合うトラーとメアリーが重なり合う。その光景を観て、「え!?」と映画館で声を出した。「こういう飛躍を観たいからこそ、映画を観続けている」と叫びたくなる。ぜひ注目してもらいたい。そして、映画の終わり方も大好きだ。齢75を超えた大御所ポール・シュレイダーの若々しさにぶっ飛んだ。

文=入江悠

入江悠●1979年生まれ。映画監督。監督作に「SRサイタマノラッパー」シリーズ、『日々ロック』(2014年)、『ジョーカー・ゲーム』(2015年)、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)、『AI崩壊』(2020年)など。『シュシュシュの娘』が全国のミニシアターで公開中のほか、最新作『聖地X』が11月19日(金)公開。

<放送情報>
魂のゆくえ
放送日時:2021年11月25日(木)1:30~

レイジング・ブル
放送日時:2021年11月5日(金)18:30~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります