日本より先にフランスで人気爆発、そして影響はハリウッドへ 佐藤純彌が知恵と工夫で誕生させたパニック大作のスタンダード

日本より先にフランスで人気爆発、そして影響はハリウッドへ 佐藤純彌が知恵と工夫で誕生させたパニック大作のスタンダード

高倉健が犯人グループのリーダーに扮した「新幹線大爆破」

  • タイムスリップ邦画

日本より先にフランスで人気爆発、そして影響はハリウッドへ
佐藤純彌が知恵と工夫で誕生させたパニック大作のスタンダード

2021/07/05 公開

逆境の中で生まれた緊迫感とリアリティ

「国内の興行で失敗したものが、フランスで大ヒットして、そこで再評価されたわけですのでフランスには感謝しています」
(『映画監督 佐藤純彌~映画よ憤怒の河を渉れ~』DU BOOKSより。聞き手:野村正昭、増當竜也)。

今となっては信じがたいことだが、ノンストップ・サスペンス映画の古典的名作として世界的に愛される『新幹線大爆破』は1975年のリアルタイム公開時、国内興行は苦戦したのである。当時、東映は『仁義なき戦い』シリーズ(1973~74年)の登場でバズった実録やくざ映画に続く新たな路線を打ち出そうと、ハリウッドで人気を博していたパニック大作――『大地震』(1974年)や『タワーリング・インフェルノ』(1974年)、『サブウェイ・パニック』(1974年)や『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)の日本版に当たるものを企画した。監督に指名されたのは、『陸軍残虐物語』(1963年)でデビューし、新幹線のPR映画を撮ったこともある俊英、佐藤純彌(1932年生~2019年没)だった。

犯人らの背景や犯行の動機も丁寧に描き、どの立場の人間にも感情移入してしまう

新幹線の走行速度が時速80km以下になると、車体のどこかに仕掛けられた爆弾が爆発する――。この抜群に冴えた設定のアイデアを発案したのも佐藤だ(脚本は小野竜之助との共同)。主演(犯人の沖田哲男役)の高倉健は脚本を読んで興奮し、「どんな役でもいいから参加したい」と出演を熱望。しかし高度経済成長のシンボルでもある新幹線をテロリストが爆破しようとする内容は相当大胆であり、このタイトルだけで国鉄(JRの前体制)の拒否反応を呼び起こし、公式協力は一切得られなかった。つまり「本物の新幹線の中では撮影できない」ということである。

そこで実物大を含むセットとミニチュアを多数作成し、特撮を駆使。あとはゲリラ撮影でつなぐという苦肉の策が取られた。しかし逆境を受け、ありったけの知恵と工夫を凝らしたことが質的な緊張感をもたらしたのかもしれない。
さらに大きいのはドラマ的充実だ。犯人グループの沖田哲男(高倉健)は倒産した精密機械工場の元経営者であり、工員の大城浩(織田あきら)、元過激派の古賀勝(山本圭)と共に500万ドルを国鉄本社に要求する。鉄道マン側は東京・博多間を走る「ひかり109号」を運転する青木(千葉真一)や運転指令長の倉持(宇津井健)など。そして警察側に加え、乗客たちの事情もスリリングかつ丁寧に描出される。

そもそも当時流行のパニック映画は、未曾有の異常事態を受けて様々な人間模様をオールスター・キャストで描く「グランドホテル形式」とも呼ばれる群像劇を採用するフォーマットがあった。『新幹線大爆破』もそれに倣っているわけだが、製作当時、佐藤監督はニューヨークを舞台にしたオムニバス映画『運命の饗宴』(1942年)みたいな作品を作りたい、とも発言していた。これはアメリカ映画だが、監督のジュリアン・デュヴィヴィエはフランスの名匠(当時は米国に滞在していた)。この構想時点から、実はすでにフランスには縁があったわけである!

映画ファンからの支持と、フランスからの「逆輸入」

ギリギリまで続く、犯人・警察・国鉄の駆け引きに緊張感が止まらない

さて、こうして完成した画期的傑作は、1975年7月5日に封切られたものの、配給収入3億円という惨敗に近い成績に終わった。やはりタイトルの過激さが災いして、満足な広告を打てなかったからという説もある。しかし鑑賞した映画ファンの満足度は極めて高く、「キネマ旬報」誌の読者投票では年間ベストワン。評論家が投票するベストテンでも第7位に選出されている。

そして本格的にハネたのは海外だった。特に1976年の夏、『Super Express 109』もしくは『Crisis Express 109』のタイトルで公開されたフランスでは記録的なヒットとなり(ただし上映時間はオリジナルの152分から約100分に短縮。犯人グループのドラマ部分が大きくカットされている)、同76年12月18日からフランス版が日本で凱旋公開されるという異例の「逆輸入」事態も巻き起こった。

佐藤純彌監督はこれ以降、『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)、『人間の証明』(1977年)、『野性の証明』(1978年)、『敦煌』(1988年)など大作路線を歩むようになる。『新幹線大爆破』の影響はハリウッドにも及ぼし、フォロワー作品としては特にキアヌ・リーヴス主演の『スピード』(1994年/監督:ヤン・デ・ボン)が有名だ。エンターテインメント大作のスタンダードとなった本作のDNAは映画界の至るところに拡散し、全世界で広く長く受け継がれているのである。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
新幹線大爆破 4Kリマスター版
放送日時:2021年7月17日(土)20:00~、25日(日)19:00~
チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります