鬼才、クエンティン・タランティーノの作家性の原点「クセがすごい!!」映画たちからの影響に迫る!

鬼才、クエンティン・タランティーノの作家性の原点「クセがすごい!!」映画たちからの影響に迫る!

ハリウッド最強の映画オタク、クエンティン・タランティーノの作家性をひも解く作品たち(『ヘイトフル・エイト』)

  • タランティーノと愉快な映画たち

鬼才、クエンティン・タランティーノの作家性の原点
「クセがすごい!!」映画たちからの影響に迫る!

2021/11/29 公開

ハリウッドで最強の映画オタクは誰か…?そう問われたなら、多くの映画ファンが名を挙げるのがクエンティン・タランティーノ。ヒット作から名作、B級まで、彼の嗜好は幅広い。それだけでなく、自身の監督作でそれらを引用し、オマージュを捧げながら、さらなる傑作を生み続けるのだから。彼の監督作を観るたびに、その引き出しの多さに驚かされるファンも少なくないはずだ。

12月~2022年1月のザ・シネマには、そんなタランティーノのビデオコレクションをイメージしたユニークな企画が登場。彼の作品はもちろん、それに影響を与えたと思われる多彩なエンターテイメントがそろっている。これは映画ファン必見だ。

強烈なバイオレンスにユーモア、アウトローを描くことへのこだわり

放映作について語る前に、まずはタランティーノ作品の特徴を振り返ってみよう。パッと思いつくのは、スタイリッシュにして強烈なバイオレンス。デビュー作『レザボア・ドッグス』(1991年)を見ても明らかだが、強盗犯一味の一人が、捕らえた警官の耳を切り取る場面は、映画を観た人全員が緊張して見守ったに違いない。その行為の瞬間を映像では映してはいないが、それでも痛々しさは観る者の脳裏に刻まれる。スタイリッシュとは、そういう意味である。

次に挙げる特色は、少々マニアックなユーモア。彼の作品はとにかくセリフがおもしろい。『レサボア・ドッグス』のオープニングで、タランティーノ自身が演じるギャングの一人が、延々とマドンナのヒット曲「ライク・ア・ヴァージン」について自説をまくし立てるが、そのバカバカしさについニヤリとしてしまう。ちなみに、このセリフ、後のストーリーに関連するのかと思いきや、まったく関係がなく、小話の一つとして完結してしまっている。このような「寄り道」もタランティーノ作品の醍醐味だ。

そして最後に挙げるのは、アウトローを描くことへのこだわり。『レザボア・ドッグス』もそうだが、『ヘイトフル・エイト』(2015年)も、登場キャラがそれぞれに無頼で、周囲の人間を簡単に信じようとはしないクセ者ばかり。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)の落ち目のTVスターに至っては、「俺はもうダメだ」と、勝手に一人でアウトローになっている。運が良ければ良き味方が付くし、運が悪ければ死ぬだけ。いずれにしても、単に世渡り上手な者の出番はないし、そういうキャラはタランティーノ作品ではクールには見えないのだ。

傑作に名作、知られざる娯楽作品まで…タランティーノが愛した映画たち

以上の観点から、今回の放映作を見てみよう。まずはバイオレンス。『マッドマックス』(1979年)や『ディア・ハンター』(1978年)は、タランティーノの脚本作品『トゥルー・ロマンス』(1993年)のセリフの中で「傑作」の称号を与えているが、どちらも強烈なバイオレンスが宿る。前者はカーチェイス時に起こる無残な死、後者はロシアンルーレットという残酷なゲーム。これらのバイオレンスは、キャラクターのドラマを語る上で必然的に起こるものだ。そういう意味では、タランティーノが敬愛するジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』シリーズでの、登場人物の感情に裏打ちされたアクションも同様である。

メル・ギブソン演じる警察官が妻子を殺した暴走族への復讐を果たそうとする『マッドマックス』

ユーモアの点では、鬼才ロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』(1973年)からの影響が大きい。レイモンド・チャンドラーの推理小説を映画化した本作では、とにかく話が飛び、本筋とは関係ないセリフもポンポン飛び出す。「寄り道」が大好きなタランティーノが敬意を口にするのも納得。

私立探偵フィリップ・マーロウの活躍を描く『ロング・グッドバイ』

ヌーヴェルヴァーグの鬼才、ジャン=リュック・ゴダールの傑作『勝手にしやがれ』(1959年)も、本筋とは関係ないセリフがクールに決まる。ちなみに、タランティーノはゴダールの監督作『はなればなれに』(1964年)の原題から、自身の製作会社を「バンド・アパート」と名付けたほどのゴダール・ファン。ゴダールの『気狂いピエロ』(1965年)には往年の名作へのオマージュが多く見られるが、これもタランティーノが影響を受けた要素だろう。

ヌーヴェルヴァーグを象徴するジャン=リュック・ゴダールの代表作『気狂いピエロ』

アウトローの要素では、何より見逃せないのが『ブラック・ライダー』だ。1971年に作られた同作は、当時としては極めて珍しい黒人を主人公ガンマンにした西部劇。この時代に数多く作られた、黒人層に向けられた娯楽映画、通称ブラックスプロイテーション映画を浴びるように見てきたタランティーノのアンテナに、この映画が引っかからないワケがない。彼の『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)も黒人を主人公にしたウエスタンだが、そこに影響を与えているのは間違いない。同じタランティーノの西部劇『ヘイトフル・エイト』も、盟友サミュエル・L・ジャクソン扮する黒人ガンマンが登場する。

シドニー・ポワチエが監督&主演を務め、無法者の白人グループに立ち向かう黒人ガンマンらの活躍を描く『ブラック・ライダー』

その他の放映作にも目を向けてみよう。ブルース・リー主演の『ブルース・リー/死亡遊戯』(1978年)からは、主人公が着ていた黄色いトラックスーツを、タランティーノは『キル・ビル』2部作のヒロインの戦闘コスチュームに引用。名優ダスティン・ホフマンの出世作となった『卒業』(1967年)に対しては、タランティーノが『ジャッキー・ブラウン』(1997年)のオープニングの場面でオマージュを捧げている。

ブルース・リーが着ていた黄色のトラックスーツを『キル・ビル』2部作のユマ・サーマンも着用(『ブルース・リー/死亡遊戯』)

こんな具合に、タランティーノが愛する映画の幅はとてつもなく広い。言うまでもなく、ここでピックアップしたのはごく一部に過ぎない。まずは、この特集に向き合って、タランティーノ映画の色を体感してみよう。その世界の広さに驚かされるし、映画ファンにはきっと自分だけの発見があるはずだ。

文=相馬学

相馬学●1966年生まれ。アクションとスリラーが大好物のフリーライター。「DVD&動画配信でーた」、「SCREEN」、「Audition」、「SPA!」等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。

<放送情報>
ヘイトフル・エイト[R15+指定版]
放送日時:2021年12月24日(金)17:45~、29日(水)23:30~

サイコ(1960)
放送日時:2021年12月20日(月)12:30~

勝手にしやがれ
放送日時:2021年12月1日(水)17:00~、23日(木)14:30~

スペースバンパイア
放送日時:2021年12月20日(月)1:00~、22日(水)14:30~

ブラック・ライダー
放送日時:2021年12月20日(月)10:30~、29日(水)3:30~

マッドマックス
放送日時:2021年12月21日(火)12:30~

気狂いピエロ
放送日時:2021年12月12日(日)8:00~、23日(木)10:30~

ファイト・クラブ [PG12]
放送日時:2021年12月10日(金)1:30~、24日(金)15:15~

ロング・グッドバイ
放送日時:2021年12月10日(金)6:00~、21日(火)10:15~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

※『レザボア・ドッグス』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、『ディア・ハンター』、『男たちの挽歌』、『男たちの挽歌Ⅱ』、『狼・男たちの挽歌・最終章』、『ブルース・リー/死亡遊戯』は2022年1月に放送予定