「死霊館ユニバース」の核となる実録ホラー『死霊館』&『死霊館エンフィールド事件』のリアリズム

「死霊館ユニバース」の核となる実録ホラー『死霊館』&『死霊館エンフィールド事件』のリアリズム

ホラー映画として異色のユニバースを展開する『死霊館』シリーズ(『アナベル 死霊博物館』)

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「死霊館ユニバース」の核となる実録ホラー
『死霊館』&『死霊館 エンフィールド事件』のリアリズム

2021/09/27 公開

超常現象研究家のウォーレン夫妻が関わった事件を映画化

2013年のサマーシーズンに全米公開され、全世界で3億ドル超という驚異的な興収成績を叩き出した『死霊館』は、その後、続編とスピンオフが毎年のように作られ、ホラー映画の歴史に名を残すであろう「ユニバース」を形成してきた。8 作目となる最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(2021年)が公開を迎えるなか、ザ・シネマではシリーズの過去作品6本を放映する。

数多くの続編やリメイクが作られてきた過去の長寿ホラーシリーズには、『ハロウィン』(1978年)のブギーマン、『13日の金曜日』(1980年)のジェイソン、『エルム街の悪夢』(1984年)のフレディに代表されるように、キャッチーなモンスターの存在が不可欠だった。「死霊館ユニバース」における『アナベル』シリーズ(2014、2017、2019年)のアナベル人形、『死霊館のシスター』(2018年)の尼僧の悪魔ヴァラクもそれらの系譜を受け継ぐモンスターと言っていい。

アナベル人形の呪いが持ち主を恐怖のどん底に突き落とす(『アナベル 死霊館の人形』)

ルーマニアの修道院で復活した悪魔のシスターとは…?(『死霊館のシスター』)

しかし本ユニバースの「核」になっている『死霊館』と『死霊館 エンフィールド事件』(2016年)は、いわゆるモンスター映画ではない。人間と悪魔の壮絶な対決を描き上げたこの2作品の主役は、あくまで実在の超常現象研究家エド&ロレイン・ウォーレン夫妻であり、彼らが関わった幾多の事件簿の中から選りすぐりのエピソードを映画化した「実録」ホラーなのである。

記念すべき第1作『死霊館』は、1971年に米ロードアイランド州ハリスヴィルで起こった心霊事件に基づいている。森に囲まれた田舎の一軒家に移り住んだペロン一家の親子7人が、世にも奇怪なポルターガイスト現象に悩まされ、その分野の高名な専門家のウォーレン夫妻に助けを求める。現地を訪れた夫妻はその家にこびりついた複数の邪悪な幽霊の気配を察知し、ついにはすべての災いの元凶である魔女と対決することに…。

1970年代に起きた実話をベースにしたシリーズ1作目『死霊館』

あらすじだけ読めば「よくある」パターンの心霊ホラーだが、おざなりになりがちな「悪霊」と「悪魔」の違いに言及するなど、ジェームズ・ワン監督の細部の描き込みは尋常ではない。序盤では、肉が腐ったような異臭が漂い、なぜか午前3時7分になると時計が止まってしまうペロン邸での怪現象の数々を描出。とりわけ母親キャロリンが末っ子エイプリルとの「目隠し鬼」の遊びに興じている最中、幽霊の「拍手」を映像化したシーンが実に恐ろしい。また、真夜中の寝室で目を覚ました三女のクリスティーンが出入り口の暗がりに脅え、「ドアの陰に誰かが立ってるわ。私たちを見てる!」と涙ながらに叫ぶシーンには、これといった出来事が何も起こらないのに異様な緊迫感がみなぎっている。

やがて心身共に疲弊しきったキャロリンは魔物に取り憑かれ、ウォーレン夫妻の悪魔祓いを受けることになるのだが、こうした一連の流れは劇中で夫妻が語る「悪魔の行動3段階」に忠実に則っている。それは、①出没(悪魔が囁き声などで存在を知らせる)、②攻撃(狙いを定めた標的にアタックする)、③憑依(弱った標的に憑依する)という法則だ。要するにワン監督は、自らが敬愛するウォーレン夫妻の経歴と人物像、そして彼らが関わった事件簿を入念にリサーチしたうえで、心霊現象がエスカレートしていく過程を「リアリズム」によって映像化しているのだ。

霊能力を持つウォーレン夫妻の妻ロレインが、夫と共に怪事件に挑む(『死霊館』)

濃密な心理的恐怖を創出するワン監督の並々ならぬこだわり

さらにワン監督が力を込めた「リアリズム」の一例を挙げてみよう。正式な悪魔祓いを行うためには教会の認可が必要なため、ウォーレン夫妻は若い助手のドリュー、地元の警官ブラッドを伴い、現地で本格的な調査を開始する。フィルムカメラ、サーモセンサー付きのスチルカメラ、テープレコーダーなどの機器を持ち込み、心霊現象を「記録」しようとするのだ。それはまさしく心霊現象を可視化する試みであり、生々しい持続的なサスペンスを織り交ぜてリアルな恐怖を生み出すワン監督の手腕が最も冴え渡るシークエンスだ。

怪現象に襲われる屋敷には、悪霊が棲みついていた(『死霊館』)

むろん実話ものとはいえ、本作は紛れもなくフィクショナルな劇映画であり、脚色や誇張がふんだんに盛り込まれている。例えば、冒頭5分間で映像化されている1968年の「アナベル事件」の人形は、本物のそれとはデザインがまったく異なっている。劇中の呪いの人形は見るからにおぞましいが、実際にウォーレン夫妻の恐怖博物館に封印されているアナベル人形は拍子抜けするほど可愛らしい外見だ。

最恐の人形アナベルがいかに誕生したかが明かされる『アナベル 死霊人形の誕生』

その一方で、ハリスヴィル事件の被害者となるロジャー&キャロリン・ペロン夫妻には5人の娘がいるという設定になっているが、この極端に女性に偏った家族構成は事実に沿っている。四女のシンディが悪霊に操られ、夢遊病者となって夜な夜な屋敷内をさまよい歩くエピソードなども、ひょっとすると「実話」なのかもしれない。

人体浮遊や不気味な囁き声などの元凶は…(『死霊館 エンフィールド事件』)

ちなみに、ワン監督が再びメガホンを執り、ウォーレン夫妻を主人公にした『死霊館 エンフィールド事件』は、1977年に英ロンドン・エンフィールドの住宅街で起こった怪奇事件の映画化。心霊事件史上最も長いポルターガイスト現象とも呼ばれ、数多くの写真や音声記録などの物証が残されているこの事件は、まさにワン監督の「心霊リアリズム」にうってつけのケースだった。まだ「死霊館ユニバース」に触れたことのない映画ファンには、まず『死霊館』と『死霊館 エンフィールド事件』を観ることをお勧めしたい。純粋な創作である他の5作品とは違い、「実話もの」であるこの2作品には、グロテスクな残虐描写に頼ることなく、濃密な心理的恐怖を創出するワン監督の並々ならぬこだわりがぎっしりと詰まっている。

文=高橋諭治

高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ+〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。

<放送情報>
死霊館[PG12]
放送日時:2021年10月2日(土)1:30~、15日(金)1:30~

死霊館 エンフィールド事件[PG12]
放送日時:2021年10月1日(金)23:00~

アナベル 死霊館の人形[PG12]
放送日時:2021年10月16日(土)1:30~

アナベル 死霊人形の誕生[PG12]
放送日時:2021年10月17日(日)1:30~

アナベル 死霊博物館
放送日時:2021年10月1日(金)21:00~、18日(月)1:45~

(吹)アナベル 死霊博物館
放送日時:2021年10月1日(金)12:30~

死霊館のシスター
放送日時:2021年10月2日(土)3:45~、25日(月)4:00~

チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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