働く女性の共感を呼び、大ヒット その後の「お仕事コメディ」に圧倒的な影響を及ぼした作品

働く女性の共感を呼び、大ヒット その後の「お仕事コメディ」に圧倒的な影響を及ぼした作品

恋に仕事に頑張る女性のサクセスストーリー『プラダを着た悪魔』

  • 青春シネマクロニクル

働く女性の共感を呼び、大ヒット
その後の「お仕事コメディ」に圧倒的な影響を及ぼした作品

2022/01/24 公開

アン・ハサウェイ、メリル・ストリープ…完璧なキャスティング

大学を卒業して、文芸誌の編集者になるためにニューヨークへとやってきたアンディは、それまで全く関心がなかった女性ファッションを扱う雑誌「ランウェイ」に就職。編集長ミランダのアシスタントとして働くことになった。モード界に名声を轟かせていたミランダだったが、上司としては仕事と無関係の身の回りの世話まで押し付ける悪魔のような存在。アンディは彼女の横暴さに呆れながらも、無茶な要求になんとか応えようとするのだが…。

アンディは、無理難題ばかり押し付けてくる編集長を相手に悪戦苦闘する

『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008年)の監督デヴィッド・フランケルと衣裳担当のパトリシア・フィールドが手を組んだ2006年公開作『プラダを着た悪魔』は、その後の「若い女子のお仕事コメディ」に圧倒的な影響を及ぼした作品である。同じ年に放映開始されたTVドラマ「アグリー・ベティ」は、基本プロットが全く同一だったし、スーパーマンの従姉妹を主人公にした「スーパーガール」も、普段仕事している時のノリは『プラダを着た悪魔』そのままだった。

なぜこれほどの影響を及ぼしたのだろうか? それは「理不尽な上司」「それでも頑張る主人公」という現実的な描写と、「職場はファッション雑誌の編集部」「そこで働くうちに洗練されたファッション感覚を身につけていく」という夢のバランスが絶妙だったからだろう。

キャスティングもパーフェクトだった。主人公のアンディを演じたのはアン・ハサウェイ。彼女のブレイク作は、イケてない女子高校生が突然ヨーロッパの小国の王位継承者に指名され、祖母である女王のサジェスチョンで美しく変身するティーン・ムービー『プリティ・プリンセス』(2001年)だった。つまり途中からメイクオーバーするのはお手のもの。本作でも、トレードマークの大きな瞳と、くるくる変わる表情でアンディを演じきっている。

スタンリー・トゥッチが、毒舌のアート・ディレクターをユーモラスに好演

対するミランダに扮しているのは、メリル・ストリープ。それまでも賞賛を浴び続けてきた大女優だが、最悪の上司でありながら不思議なチャームを漂わすミランダを演じきって、若いファンを獲得した。本作がなかったら、それ以降のキャリアはかなり異なったものになっていたに違いない。また本作は、アンディの同僚エミリーを好演したエミリー・ブラントにとってブレイク作となった。スタンリー・トゥッチもイイ味を出している。

虚実が入り混じった、実録映画としての面白さ

徹底的な役作りをしたメリンダ役のメリル・ストリープは本作でアカデミー賞候補に

『プラダを着た悪魔』にはこうした俳優たちのアンサンブルを楽しめる劇映画としての魅力のほかに、虚実が入り混じった実録映画としての面白さもある。本作には同名の原作小説があるのだが、作者のローレン・ワイズバーガーには、大学卒業直後にファッション雑誌「ヴォーグ」の名物編集長アナ・ウィンターの下でアシスタントとして働いていた経験があるのだ。

何人ものアシスタントを抱え、リムジンで通勤、マンハッタンの豪華マンションで暮らすミランダの待遇を、コメディ映画特有の「盛った」描写と考える日本人は多いかもしれない。たしかに日本の出版社では不可能だ。でもアメリカの雑誌編集長の報酬は桁違いである。なかでも「ヴォーグ」の編集長は特別だ。というのも、1892年創刊の伝統あるこの雑誌は、編集長の任期が異様に長いのだ。

ジャーナリストの夢を叶えるためアンディは必死でミランダにくらいつく

オードリー・ヘプバーンを知らない人はまずいないはずだ。代表作はもちろん『ローマの休日』(1953年)。主人公がヨーロッパの小国のプリンセス設定において『プリティ・プリンセス』の元ネタといえる同作でスター女優になった彼女に、『パリの恋人』という1957年公開の主演作がある。ストーリーは、オシャレに興味がない文化系女子がスーパーモデルに変身するもの。そう、『プラダを着た悪魔』と似ていなくもない話なのだ。注目すべきは同作に登場するマギーという人物である。

モード界の流行を一人で創り出してしまうファッション雑誌編集長である彼女のモデルは、当時ファッション雑誌「ハーパーズ バザー」の編集者だったダイアナ・ヴリーランドと言われている。そのヴリーランドは1962 年にライバルの「ヴォーグ」に編集長として移籍すると、1971年までその座に君臨したのだった。

どんどん洗練されていくアンディの変貌ぶりも見どころ

彼女を継いだグレース・ミラベラは17年間、そして1988年に編集長に就任したアナ・ウィンターは、今も在任記録を更新中だ。現在公開中の『ハウス・オブ・グッチ』には、トム・フォードがクリエイティブ・ディレクターに就任した1990年代のグッチのファッション・ショーが再現されているシーンがあるのだが、そこにもアナ・ウィンター(のそっくりさん)が登場する。

つまり「ヴォーグ」には、ヘプバーンがファッション・アイコンだった時代から現在まで、たった三人の編集長しか存在しないのだ。ほとんどどこかの王国の女王様ではないか。そしてこの女王には、ファッション界という魑魅魍魎が跋扈する世界を左右する巨大な権力が与えられている。『プラダを着た悪魔』とは、そんな王国に外界から迷い込んでしまった一般人の奮闘を描いた物語なのだ。

文=長谷川町蔵

長谷川町蔵●ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「CDジャーナル」「EYESCREAM」などに連載中。著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「文化系のためのヒップホップ入門1~3」(アルテスパブリッシング/大和田俊之と共著)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(DU BOOKS/山崎まどかと共著)など。人生で最も観た映画は『ブレックファスト・クラブ』。

<放送情報>
(吹)プラダを着た悪魔
放送日時:2022年2月5日(土)19:00~

チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります