名画を彷彿させる演出と、現代ならではのシナリオで80歳の巨匠が描く、騎士と女の真実を勝ち取る戦い

名画を彷彿させる演出と、現代ならではのシナリオで80歳の巨匠が描く、騎士と女の真実を勝ち取る戦い

戦国時代から続く呪われた家系に翻弄される男の姿を描く

  • 今月の5つ星

名画を彷彿させる演出と、現代ならではのシナリオで
80歳の巨匠が描く、騎士と女の真実を勝ち取る戦い

2021/12/27 公開

マット・デイモンの機転で実現した決闘劇

史実でありながら真相は未だ謎が残る決闘裁判を題材にした、エリック・ジェイガーのノンフィクションを映画化した本作は、一度は企画が進んでいたものの実現は難航。そんな折、原作を読んで気に入ったマット・デイモンが、『オデッセイ』(2015年)で組んだリドリー・スコットに監督を依頼したことで、映画化に漕ぎつけた。

スコットは35歳の時、19世紀の2人の騎士が15年もの長い年月にわたり闘い続ける『デュエリスト/決闘者』(1977年)で監督デビューを飾った。その後も『グラディエーター』(2000年)、『キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)などの歴史大作で手腕を発揮。名匠、巨匠の名をほしいままにして80歳を過ぎた今、またしても衝撃の決闘映画に挑戦した。

本作でデイモンは、劇中で共演する親友ベン・アフレックと共同で脚本も手掛けている。これは2人のキャリアにおいて、アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィルハンティング 旅立ち』(1998年)以来24年ぶりのことで、その手腕の成長にも注目が集まった。

舞台は14世紀のフランス。名家の出の騎士ジャン・ドゥ・カルージュ(デイモン)は、若く美しいマルグリット(ジョディ・カマー)を妻に迎えた。だが無骨で教養のない彼は、妻に甘い言葉一つかけるでもなく、領地獲得のための戦いに明け暮れていた。ある日、かつてカルージュと同じ主人に仕え、現在はピエール伯(アフレック)に従うジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)は、カルージュが留守の家を訪れ、マルグリットを強引にベッドに連れ込んだ。黙っていれば夫にはわからないと女友達は言ったが、でも相手を許すわけにはいかないとマルグリットは考えたのだ。

謎のままの事件を際立たせる『羅生門』を思わせる演出

かねてより嫌っているル・グリに妻が犯されたと知り激怒したカルージュは訴えを起こす。一方、訴えられたル・グリは女好きの遊び人らしく、「あなたも楽しんだはず」とマルグリットに言う。レイプではない、という彼の言葉をマルグリットははねつける。

凛々しく美しいマルグリットを演じるのは新星ジョディ・カマー

一つのレイプ事件とその背景を巡り2人の男と1人の女がそれぞれの立場を主張するスタイルを活かすため、黒澤明監督の『羅生門』(1950年)の演出手法が参考にされた。同じ出来事、状況が三者の視点から繰り返し映し出され、各々が状況をどう捉え、他の2人をどう思っていたのかが浮かび上がる。一つの真実も視点が変われば複数の偽りとされてしまう。その捉え方の違いで、感情のぶつかり合いが生じる。真実そのものが謎という史実を、見事に描いていく。

事件の真実は、まさに『羅生門』の原作タイトル「藪の中」でも、裁判は真実を決しなければ終わらない。ここは映画のタイトル通り、訴えた側と訴えられた側が決闘し、その勝者が神の思し召しで無罪、敗者が有罪とされる。真実を勝ち取るための決闘を見届けようと、野次馬は決闘の場に詰めかける。ここでは結果見たさの群衆の姿が浮き上がるが、ある意味、最も真実な描写かもしれない。

現在の女性運動にもシンクロするシナリオ

先述の通り、本作はデイモンとアフレックが脚本を担当しているが、マルグリットのパートには『ある女流作家の罪と罰』(2018年)の女性脚本家ニコール・ホロフセナーも加わった。レイプの被害者でありながら泣き寝入りすることなく、相手を告発する彼女の強さや知的な面を強調したほか、カルージュが決闘に敗北した際は、自身が偽証罪で火あぶりの刑になる彼女の葛藤、そして明日をも知れぬ身になりながら身に宿した新しい命を思う姿など、女性の立場を巡る「MeToo運動」全盛の現代にも通じる視点が、ドラマに落とし込まれている。

また、スコット監督といえば出世作『エイリアン』(1978年)でシガニー・ウィーバー演じるリプリーを戦うヒロインに仕立てた人物。強く聡明な女性の描き方は超一級だ。

2人の戦いは、パリ高等法院認可の最後の決闘裁判だが、決闘裁判自体は1800年頃までは行われていた

マルグリットの命はどちらかが死ぬまで闘う2人の騎士の勝敗にかかっている。カルージュとル・グリは硬く重い鎧兜で身を固め、槍と剣を手に馬を走らせて相手に激突、槍で突き、叩き落とす。共に「ボーン」シリーズ、「スター・ウォーズ」シリーズでアクションにも定評ある2人による死闘の描写は見応えも十分。金属がぶつかり合う音と人や馬の荒い息遣い、その様子を恐怖に身を固くしながら見つめる美しい人妻。果たして決闘裁判の行方は? 作り込まれたエンターテイメントをぜひ楽しんでもらいたい。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。今の夢は『ウエスト・サイド・ストーリー』を大スクリーンで見ること。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
最後の決闘裁判
放送日時:2022年1月1日(土)21:00~、15日(土)21:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)最後の決闘裁判
放送日時:2022年1月16日(日)21:00~、20日(木)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3

最後の決闘裁判
放送日時:2022年1月8日(土)20:00~、16日(日)16:45~
チャンネル:WOWOWシネマ

(吹)最後の決闘裁判
放送日時:2022年1月8日(土)13:00~、13日(木)17:15~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります