昭和の未解決誘拐・脅迫事件の真相はこうだった…!? 事実とフィクションの境界が見えないミステリー大作

昭和の未解決誘拐・脅迫事件の真相はこうだった…!? 事実とフィクションの境界が見えないミステリー大作

小栗旬と星野源が映画で初共演を果たし、息もぴったり合って評判を呼んだ

  • 今月の5つ星

昭和の未解決誘拐・脅迫事件の真相はこうだった…!?
事実とフィクションの境界が見えないミステリー大作

2022/01/31 公開

始まりは、35年前に記録された「声」

昭和の日本を騒然とさせ、時効を迎えた今もなお未解決のままで有名な誘拐・脅迫事件の謎を題材に、2016年に塩田武士が発表したサスペンス小説を映画化。小説のタイトルの通り、この作品で重要となるのは「声」。音は残されているけど、それが、いつ、どこで録られ、誰のものなのか?という点がミステリー性を高めている。

平成が終わろうとしていた頃、大手新聞社の記者・阿久津英士は、昭和の未解決事件の特集に関わっていた。彼は事件における身代金交渉の際に用いられた音声の素性が気になっていた。その音声は、1つ目が16歳くらいの少女、2つ目が6~8歳くらいの男の子のものと推測されていた。声の主は30年以上の歳月が過ぎた今、どうしているのだろう?

同じ頃、注文紳士服店を営む曽根俊也は父親の遺品の中から黒革の手帖とカセットテープを見つけた。それは大手菓子メーカーが脅迫、恐喝された未解決事件への関与を匂わす音声テープ。再生すると子供の声が聞こえた。あれは子供の頃の自分の声だ。なぜ自分の声なのだ?なぜそんなものが遺品の中に? 曽根にはいくら考えてもわからなかった。

登場する企業、団体は別の名にされている。それでも丁寧なドラマの組み立てとスリリングな展開により、「これは事実なのか?」「どこからがフィクションなの?」と、観る側が翻弄されていくのが楽しい。

阿久津は曽根に過去の事件を追うことへの意味を問われ、葛藤する

小栗旬、星野源、それぞれの役への対峙

新聞記者・阿久津を演じるのは、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で主演の北条義時役を務めていることでも話題の小栗旬。本来は文化部の記者だが、特集取材の応援に駆り出され、取材を重ねるなかで、他人のプライバシーを暴くことで誰かを傷つけるかもしれない仕事に疑問を抱く。そんな阿久津の心の変化が役柄にもドラマにも深みと奥行きを与えてスリルが増してくる。

一方、曽根役はアーティストとしても活躍する星野源。妻子との静かな暮らしを望み、病身で入院中の母親のことを案じる、誰よりも家族思いの男が、自身と同じく声を利用された少女の存在を知り、その身を案じ一歩を踏み出す。悩み、葛藤しながら真相へ迫る曽根を演じる姿に、目を引かれる。

監督の土井裕泰は、そんな映画初共演の2人の持ち味を巧みに生かして、418ページに及ぶ原作を2時間20分の映像に仕立てた。実際の出来事の発生日時などが緻密に落とし込まれている原作と同様に、劇中に登場する犯人からの脅迫状や挑戦状などは、すべて事件当時の実物を細部まで模倣し、その悍ましさを再現した。そのこだわりも真実とフィクションの境界を曖昧にする演出に一役買っている。

曽根は、事件を巡る家族の関係とその真相を知っていく

未解決事件の物語を、いかに締めくくるか

本作は、大企業の社長を誘拐。青酸ソーダ入り食品をスーパーの棚に並べて脅す大胆な手口。日本の犯罪史上に類を見ない劇場型犯罪と言われた事件に材を取り、架空の人物を登場させ、大胆な解釈で「真相はこうだったのかも」と思わせる物語が繰り広げられる。そのため、見る側としても自分なりの推理を駆使して事件と向かい合う楽しみが生まれるのが魅力だ。

そこで事件を知る世代が思い出すのは、きっと唯一目撃された謎の人物「キツネ目の男」。犯行グループの一員と思しき彼を、警察はなぜ捕まえられなかったのか? そんな謎にも物語は大胆な解釈で切り込む。

映画では、曽根と少女の声を録音したであろう人物をはじめ、犯行グループの背後に潜む存在を見え隠れさせ、阿久津と曽根は手掛かりを求めて京都、大阪、岡山を奔走する。素性も立場も異なる2人を結ぶものは「声」の真相を知りたいという共通の思い。やがて行動を共にするうちに、出会うはずのなかった2人に信頼と友情が芽生え、温かな絆が生まれる。そして見えてくる意外な事実。

実際には未解決のまま時効を迎えたこの事件を、物語ではどのように描き、終わらせているのか?その予想もできない展開を存分に楽しみたい。

文=渡辺祥子

渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。今一番見たい映画は『ナイル殺人事件』。緊迫感あふれる日本の推理小説も好みだが、ゆったりと華やかに進むアガサ・クリスティのミステリーもお気に入り。日本経済新聞、週刊朝日、VOGUEなどで映画評を執筆。「NHKジャーナル」(NHKラジオ第1)に月1回出演。

<放送情報>
罪の声
放送日時:2022年2月3日(木)21:00~、11日(金・祝)19:20~

チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります