『君の名前で僕を呼んで』に流れる恋の痛みと喜び恋愛映画、家族ドラマとしても秀逸な理由とは?

『君の名前で僕を呼んで』に流れる恋の痛みと喜び恋愛映画、家族ドラマとしても秀逸な理由とは?

本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメ

  • 恋愛映画のススメ

『君の名前で僕を呼んで』に流れる恋の痛みと喜び
恋愛映画、家族ドラマとしても秀逸な理由とは?

2021/05/10 公開

「みんなの恋愛映画100選」などで知られる小川知子と、映画活動家として活躍する松崎まことの2人が、毎回、古今東西の「恋愛映画」から1本をピックアップし、忌憚ない意見を交わし合うこの企画。第2回に登場するのは、若手演技派のティモシー・シャラメがブレイクするきっかけとなった『君の名前で僕を呼んで』(2017年)。相手役を務めたアーミー・ハマーとのせつないラブストーリーが話題を呼んだ。

アンドレ・アシマンの同名小説を原作に、『眺めのいい部屋』(1986年)、『日の名残り』(1993年)の名匠ジェームズ・アイヴォリーが脚本を執筆したこの作品。『胸騒ぎのシチリア』(2015年)のルカ・グァダニーノ監督がメガホンをとり、第90回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされ、アイヴォリーが脚色賞を受賞している。

1983年、夏。両親と共に北イタリアの避暑地にやってきた17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。一緒に過ごす時間の中で、エリオはオリヴァーに特別な思いを抱くようになり、やがてふたりは激しい恋に落ちるが、夏の終わりと共にオリヴァーが去る日が近づいてくる。

お互いに欠けている部分を埋めようとする普遍的なラブストーリー

松崎「まず外せないのが、タイトル。どういう意味なのかすごく考えませんでしたか?」

小川「映画を観た友人からも『あれってどういう意味なの?』とよく聞かれました(笑)」

松崎「本当のところは本人じゃないとわからないだろうけど、僕が感じたのは、恋愛においてお互いに足りない部分を埋めていく中で生まれる、一体化願望があったのだろうなということです。今回はたまたま男性同士のせつなる思いが描かれているけど、そういう感情に性別は関係ないですよね」

小川「エリオはオリヴァーに、オリヴァーはエリオに、それぞれが『こうありたい自分』を見出しているのかなと。シャイなエリオ目線では、同じユダヤ人でありながら常に堂々としていて、知的で体格も良く、人好きするオリヴァーに憧れるし、オリヴァーも家庭環境のすばらしさからくるエリオの知性や自由な感性、自分の感情に正直な部分をうらやましく感じ、惹かれていた気がします」

松崎「お互いに欠けている部分を同一化したいというやつですね」

小川「共通する部分があるのに自分には足りていない部分を好きになることは、特に若い頃の恋愛で起こりやすい気も。エリオは同世代の友人たちとはちょっと違う17歳で、彼が求める知的な会話が成り立つような人が親世代の大人以外にはいない。でも、大人と比べると自分はまだまだ自信がなくて。そんなところに話が合うオリヴァーが現れて、しかも、見た目も中身もエリオより成熟した青年となると、気にならないわけがないですよね」

松崎「幼いながらも駆け引きしている感じがかわいいですよね」

小川「わからない人にはまったく伝わらないピアノのアレンジ。駆け引きにしては高尚すぎる、あのアプローチがいじらしい!」

松崎「小馬鹿にしたフリをしてちょっと関心を引くとか、ね」

小川「意識した相手にそういう態度をする気持ちは、わかりますよね。まあ、オリヴァーにも幼さを感じる部分はありますけれど(笑)」

松崎「ありますね。でも知的さやビジュアルも含めて、すべての要素でエリオの方が幼い。オリヴァーはジェンダー感なども含めて自覚している部分があるからこそ、うしろめたさがある感じが出ていましたね。年上が年下を導くというオリヴァーとエリオのような関係は、『卒業』(1967年)や『おもいでの夏』(1971年)など、多くの映画で描かれてきたパターンです。この映画の公開が20年前だったら、時代背景や同性同士の恋愛への理解も含めて、ここまですんなり受け入れられてなかったかも、と僕個人として感じています」

小川「この映画の舞台になっている時代(1983年)の公開だったら、世の中も違った反応だったかもしれないですね」

オリヴァーを演じるのは、『コードネームU.N.C.L.E.』などのアーミー・ハマー

エリオとオリヴァーの関係を見守る両親の温かい眼差しも魅力

松崎「オリヴァーのセリフで印象的だったのは、『君の両親がうらやましい』です。エリオとの家庭環境の違いに憧れを抱いている。7歳年下だけど、彼のことがうらやましいという気持ちがあったと思います」

小川「エリオの家庭環境はまるごとうらやましいですよね。私がこの映画を観て一番感動したのは家族の在り方です。終盤のお父さんのスピーチはとにかくすばらしいし、最初から、勇気がなくて言えないことでも、『僕らには話していい』というスタンスで、泣けちゃいます」

松崎「あそこまで物わかりのいい親はいないですよね。知的さが勝っている感じがします」

小川「親でなくても、口にしづらいことを話していいと思わせてくれる大人の存在は大事だと思って生きてきたので、あのシーンは特に感動しました」

限られた時間の中で情熱的な恋をするエリオとオリヴァー

松崎「原作者のベースにあるのが、古代ギリシャ時代にあった、少年から青年になる若者を青年期の男性が導くという話。自分の経験を教えていくことを理想としていたようです。原作者自身、ある男性に恋をしていたのですが、その人とは関係を持たないまま、女性と結婚をして子どもにも恵まれました。だけど、もしあの時結ばれていたら?という気持ちもあり、その理想を小説にした。そのような背景を知ったうえで映画を観たら、よりおもしろさを感じるかもしれません」

小川「エリオの家庭は、感情に対して社会の正しさを押し付けない。その眼差しのようなものがあるようでないのは、今も大きくは変わらないのかもと感じたりもしました」

松崎「映画の世界では、表向きは許容されているけれど、現実はそうではない。偏見や居心地の悪さはまだまだありますしね。例えば日本では古くから少女漫画にBLの世界があって、物語を受け入れられる余地があったはずだけど、社会が遅れている印象は否めないです」

小川「実際自分の周りでは絶賛する声がほとんどでしたが、『受け入れられない』という意見もちらほら聞きました」

松崎「僕自身も、観る時期によって感じ方は大きく変わっていたかもしれません」

小川「1回目に観た時は、感情が溢れすぎて細かな伏線を拾うことができないほど号泣していました。2回目に観た時には、泣きながらも『ティモシーが着ているあのシャツほしいな』と思えるくらい余裕が出ました(笑)」

松崎「オリヴァーが結婚を告げるシーンで自分の名前を言う、あそこはグッと来ますよね」

小川「すべてが崩壊する号泣ポイントでした。オリヴァーとエリオの恋はもちろんですが、やっぱり、一番強く残っているのは親である大人の在り方ですよね。恋愛と親子関係、両方についていろいろと考えさせられる。人間として人生に関する学びの多い映画だと思います」

松崎「原作者、監督、脚本家のすべての思いが入って理想化されている部分もあるけれど、学びが多い映画というのは同感です。僕も年頃の子どもがいるけど、あのようなセリフは我が子には言えませんね」

小川「もう会えないかもしれないからって、17歳を前に『一緒に旅に行ってきたら?』なんて、なかなか言えないですよね」

松崎「僕の知らないところでやって、と思っちゃいますね」

小川「子どもを信じて手を放して見守る、それがきっと重要なんですよね。すごくいい教育映画にも見えてきました」

松崎「物語が先行して現実が影響を受けることはよくあること。それが映画の役割でもあるから、こういう理想の描き方もいいですよね」

取材・文=タナカシノブ

松崎まこと●1964年生まれ。映画活動家/放送作家。オンラインマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に「映画活動家日誌」、洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」HP にて映画コラムを連載。「田辺・弁慶映画祭」でMC&コーディネーターを務めるほか、各地の映画祭に審査員などで参加する。人生で初めてうっとりとした恋愛映画は『ある日どこかで』。

小川知子●1982年生まれ。ライター。映画会社、出版社勤務を経て、2011年に独立。雑誌を中心に、インタビュー、コラムの寄稿、翻訳を行う。「GINZA」「花椿」「TRANSIT」「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などで執筆。共著に「みんなの恋愛映画100選」(オークラ出版)がある。

<放送情報>
君の名前で僕を呼んで
放送日時:2021年5月28日(金)23:15~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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