刑事に扮するソン・ガンホら実力派俳優が集結した『非常宣言』

飛行中の航空機内でバイオテロが発生!
臨場感たっぷりのフライトパニック映画『非常宣言』

2024/02/26 公開

大混乱の上空と対応に奔走する地上、極限下で繰り広げられる人間模様

ここ数年、自然災害や大事故、パンデミックと、日常を突然脅かすような出来事が続いている。ニュースを見ながら、「もし、自分がその場にいたらどうすればよいのだろう」と問いかけている人も多いのではないだろうか。『非常宣言』(2022年)は航空機の中で起きた事件によって生命の危機に直面する乗客、乗務員たちと、彼ら彼女らを助けるために地上で奔走する人々の姿を描く群像劇だ。

娘と共にハワイ行きの航空機に搭乗したパク・ジェヒョク(イ・ビョンホン)は空港内で出会った怪しい男リュ・ジンソク(イム・シワン)が同じ便に乗ったことを知り、不吉な予感を覚える。離陸後、ジンソクの後にトイレを利用した乗客の体調が急変。やがてそれが致死率の高いウイルスを使ったテロであることがわかり、乗務員や乗客たちの間に動揺が広がる。一方、航空機テロの予告動画をアップした犯人を捜査していた刑事ク・イノ(ソン・ガンホ)は、ターゲットとなった航空機に妻が搭乗していることに気づく。

テロリスト役は、韓国で社会現象となったドラマ「ミセン-未生-」のイム・シワン

航空機という閉鎖された空間に撒き散らされたウイルスが乗客たちを恐怖へと陥れる本作。ウイルスが乗客だけでなく、乗務員や操縦士までも襲っていくため、「正常な飛行を続けていけるのか?」というスリルに加え、地上では「ウイルスに感染した乗客たちを空港に着陸させるべきか?」との議論まで起こり、先の読めない展開で観る者を引き込む。

娘と共に当該機に乗り合わせた飛行機恐怖症の男をイ・ビョンホンが演じる

監督は、検察という組織に属する人々の視点から韓国の現代史を描いた『ザ・キング』(2017年)のハン・ジェリム。オフビートなラブコメディ『恋愛の目的』(2005年)、組織暴力団員と家族との葛藤を描く『優雅な世界』(2007年)、人相を見ることに長けた男が宮廷の勢力争いに巻き込まれる時代劇『観相師 かんそうし』(2013年)と、まったくジャンルの違う作品を手掛けてきた彼がパニック・アクションに挑戦。韓国の映画雑誌「CINE21」のインタビューでは「作品の規模やプロダクションに対する野心よりも、航空テロという素材、そしてその中で発揮される人間性というテーマに魅了された」と、この題材を選んだ理由を語っている。

コロナ禍の現実とも重なる、災難時の社会情勢をリアルに描出

本作はコロナ禍以前からの企画だが、閉ざされた空間の中で人間を媒介に広がっていくウイルス、危険を恐れて感染者たちを国内に入れようとしない各国の対応などは、コロナ禍の現実と重なる。ハン・ジェリム監督も、パンデミックによって引き起こされた世界規模の災難の縮小版として、この映画を捉えているとのこと。また、「同じ状況でも韓国社会で起きたら、どんな特徴を見せるだろうか?」と考えながら、設定を考えていったという。

テロ発生を知った刑事は、地上でウイルスの謎を突き止めようとする

映画全体の約7割を、本物の飛行機を海外から空輸して作った実物大のセットで撮影。機体が360度回転するなど、驚きのシーンが次々と登場する。ちなみに本作の美術を手掛けているのは、疾走する特急列車が舞台の『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)も担当したイ・モクウォン。感染者と非感染者が対立して疑心暗鬼になるシーンや、父と娘の絆など、飛行機と列車の違いはあるものの、両作には重なる面があると感じられる。

高度2万8000フィートの上空で、テロと墜落の恐怖が乗客を襲う

手に汗握る展開に加えて見どころとなっているのは、豪華な俳優たちの共演だ。アトピー性皮膚炎に悩む娘と共にハワイに渡るため、苦手な飛行機に乗ることになったジェヒョク役は、トップスターのイ・ビョンホン。今年1月に日本公開された『コンクリート・ユートピア』(2023年)でも、ドラマティックに変貌していくキャラクターを力強く演じていた彼が、訳あって操縦桿を握れなくなってしまった元パイロットに扮している。一方、乗客たちを恐怖に陥れる不審な乗客ジンソクをボーイズグループZE:Aのメンバーで、『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)など俳優としても活躍するイム・シワンが好演。少年のような無垢な顔の奥に秘めた邪悪さが不気味だ。さらに、飛行機の操縦を担う副機長ヒョンスを『感染家族』(2019年)のキム・ナムギル、乗務員や乗客に冷静に対応し続けるチーフパーサーのヒジンを『ザ・キング』で大きく注目されたキム・ソジンが演じている。

チョン・ドヨンが、テロ対策センターで指揮を執る大臣役に

刑事としての使命と妻への思いに突き動かされながら地上で奮闘する刑事イノを演じているのは、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のポン・ジュノ監督の盟友として知られ、是枝裕和監督と組んだ『ベイビー・ブローカー』(2022年)でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したソン・ガンホ。そんな彼の献身的な態度に感銘を受け、自らも問題解決のために動く大臣キム・スッキ役は、2007年の『シークレット・サンシャイン』でカンヌの主演女優賞に選ばれた以来、韓国映画界を牽引してきたチョン・ドヨン。映画ファンとしては『シークレット・サンシャイン』で共演した彼女とソン・ガンホが、まったく違うキャラクターに扮して言葉を交わすシーンに感慨を覚える。

次々と襲いかかる危機の中で飛行を続ける航空機は、果たして無事に着陸できるのか。恐怖のウイルスに感染した人々の運命を見守ってほしい。

文=佐藤結

佐藤結●映画ライター。韓国映画やドキュメンタリーを中心に執筆。「キネマ旬報」「韓流ぴあ」「月刊TVnavi」などの雑誌や劇場用パンフレットに寄稿している。共著に「韓国映画で学ぶ韓国の社会と歴史」(キネマ旬報社)、「作家主義 韓国映画」(A PEOPLE)など、訳書に「私書箱110号の郵便物」(アチーブメント出版)がある。

<放送情報>
非常宣言
放送日時:2024年3月9日(土)21:00~、12日(火)14:00~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)非常宣言
放送日時:2024年3月10日(日)21:00~、14日(木)13:00~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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