大衆娯楽の歓びに全身全霊を捧げた伝説の映画監督!没後30年を機に五社英雄の功績を再確認してみる

大衆娯楽の歓びに全身全霊を捧げた伝説の映画監督!没後30年を機に五社英雄の功績を再確認してみる

数多くの時代劇やヤクザ映画を手掛け、伝統的な映画業界システムに風穴を空けた伝説的な映画監督、五社英雄の功績に迫る(『鬼龍院花子の生涯』)

  • タイムスリップ邦画

大衆娯楽の歓びに全身全霊を捧げた伝説の映画監督!
没後30年を機に五社英雄の功績を再確認してみる

2022/08/01 公開

2022年8月で没後30年を迎える伝説の映画監督、五社英雄(1929年生~1992年没)。戦時中は軍国少年として予科練に入隊。やがて映画会社の就職試験にことごとく落ちたことをきっかけに、草創期のテレビ業界に潜り込み、ニッポン放送を経て開局したばかりのフジテレビに入社。1963年、34歳の気鋭ディレクターとして画期的なテレビ時代劇「三匹の侍」を手掛ける。翌年には同番組の劇場版で映画監督デビュー。以来、ヒットメーカーとして時代劇やヤクザ映画を数多く手掛け、昭和という時代を駆け抜けてきた大衆娯楽の巨匠だ。

しかしその正当な評価は、近年ようやく固まってきた気がする。日本初となる「テレビ局出身の映画監督」であることをはじめ、伝統的な映画業界のシステムを外側から食い破ってきた存在だからこそ、五社は先駆的な側面をいくつも持ち合わせていた。

任俠映画に新しい風を吹き込んだ『極道の妻たち』

その最たる成果が、女性たちを主人公にした威勢のいいエンターテインメント映画群だ。とりわけよく知られているのは、1986年の東映映画『極道の妻たち』。五社監督による第一作が大好評を博して以来、新しい時代のヤクザ映画として、国民的人気とも言えるほどのロングランシリーズへと展開していった。

主演は岩下志麻。収監中の夫に代わり、香川県・高松の粟津組を取り仕切っている女親分・粟津環という役どころである。家田荘子のルポルタージュを原作とし、これまで「男の世界」だった任俠映画のフォーマットを、女性中心の世界観で斬新に塗り替えた。岩下姐さんがドスの効いた声で放つ「あんたら、覚悟しいや!」というキャッチーな決め台詞は、以降シリーズで定番化。かたせ梨乃が演じた環の妹・真琴は回を重ねるごとに重要な人気キャラクターに育っていった。

岩下志麻が主演を務め、「男の世界」だった任俠映画を女性視点で描いた『極道の妻たち』

「極妻(ごくつま)」の略称で今も愛される本シリーズは、昭和のラストランから平成への橋渡しともなった。続編の監督には山下耕作や中島貞夫といった、かつて任俠映画や実録路線を支えたベテラン監督たちが登板。第10作『極道の妻たち 決着(けじめ)』(1998年/監督:中島貞夫)のあと、さらに高島礼子、黒谷友香と主演を替えて、現時点での最新作は通算第16作『極道の妻たち Neo』(2013年/監督:香月秀之)となる。この金字塔シリーズの原点を確かめる意味でも、五社が唯一手掛けたファースト『極妻』はぜひ観ておきたい。

「極妻」の愛称で呼ばれるなど、シリーズ化した『極道の妻たち』

起死回生を狙った『鬼龍院花子の生涯』に始まる「高知三部作」

さて、そんな五社英雄流儀による「女性映画」の偉大なる起点となったのが、1982年の名作『鬼龍院花子の生涯』である。原作は宮尾登美子の同名小説。当時24歳の夏目雅子をヒロインに迎え、大正、昭和の高知を舞台に、物語の語り手となる俠客の養女・松恵の半生を描いた146分の大作だ(ヒロインの松恵は鬼龍院家の盛衰を見届ける役であり、鬼龍院の実娘・花子は高杉かほりが演じる)。

実はこの時期の五社は公私ともに壮絶な負の状態にあり、1979年に多額の借金を残して妻が失踪。翌80年には自身が拳銃不法所持の疑いで逮捕(罰金刑で釈放)。フジテレビの退社を余儀なくされてしまい、『鬼龍院花子の生涯』はフリーランスとしての第一作、どん底からの復活を賭けた決死の闘いであった。このへんの事情は、五社の長女・五社巴の名著「映画極道 五社英雄」(徳間書店)に詳しい。

果たして五社の一世一代の勝負作は、興収20億超えの大ヒットとなる。まだ演者としての評価は定まっていなかった夏目が会心の芝居と存在感を見せ、特に「なめたらいかんぜよ!」と啖呵を切るシーンは爆発的な大反響を呼んだ。このキラーフレーズは宮尾の原作にも完成台本にもなく、撮影現場において即興で書き加えられた台詞であったことは有名だ。

なお夏目は1985年9月11日、27歳の若さで急性骨髄性白血病によりこの世を去ってしまう。永遠のアイコニックな女優の代表作としても、日本映画ファンなら絶対必見と言える一本である。

夏目雅子演じる土佐の俠客の養女になった女性が、周囲に翻弄されながらも一家の盛衰を見届ける『鬼龍院花子の生涯』

この『鬼龍院花子の生涯』の成功を受けて、五社の「女性文芸大作路線」が本格展開することになる。芸妓の世界を描いた1983年の『陽暉楼』では、第7回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。昭和初期、土佐随一の料亭「陽暉楼」を舞台に、女衒の勝造(緒形拳)とその娘の芸妓・桃若や、勝造の愛人・珠子らをめぐる濃厚な人間模様が繰り広げられる。父娘の愛憎を物語の軸としつつ、数奇な運命に翻弄される女性たちの情念が妖艶にたぎる傑作だ。とりわけ語り草となっている、桃若役の池上季実子と珠子役の浅野温子が洗面所で大乱闘する15分にもおよぶシーンは圧巻!

土佐の花柳界を舞台に、芸妓の女性と女衒の父親との愛憎を軸に、父親の愛人も絡めた濃厚な人間模様が描かれる『陽暉楼』

さらに1985年の『櫂』も含め、宮尾登美子原作の「高知三部作」は五社のキャリアの中でも質的な突出を誇るものだ(脚本の高田宏治などメインの座組みも共通している)。波瀾万丈な人生をタフに生き抜く女性たちの姿は、敗戦直後を舞台にした田村泰次郎原作、かたせ梨乃主演の『肉体の門』(1988年)などにも引き継がれていった。

敗戦直後の日本でダンスホールを開業するという夢を抱きながらたくましく生きる女性たちを映しだす『肉体の門』

以上、「女性映画」の名手として五社の軌跡を振り返ってみたが、一方で初期の小気味よいアクション作品も大変おもしろく、今回の特集で放映される夏八木勲の主演作『牙狼之介』(1966年)、『牙狼之介 地獄斬り』(1967年)もそういった時代劇の快作である。

天涯孤独のヒゲ面浪人の活躍を描くダイナミックかつスピーディな時代劇『牙狼之介』

そして遺作となった『女殺油地獄』(1992年)まで、五社は63年の生涯で24本の映画を監督した。一貫して大衆娯楽の歓びに全身全霊を捧げる「戯作者」であったこの監督の映画術の真髄について、先述した「映画極道 五社英雄」から本人の発言を以下に引用させていただきたい。

「映画監督は、ラブ・シーンの色事とアクションの荒事という二つの場面を撮ることを、絶対に避けて通ってはだめだと思っている。色事と荒事はどちらもアクションに変わりない。それは演出の基本であり、作品の切れ味をいちばん見せやすいところなんだ」――。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

<放送情報>
極道の妻たち
放送日時:2022年8月8日(月)20:00~、20日(土)15:00~

肉体の門
放送日時:2022年8月7日(日)20:00~、18日(木)11:00~

牙狼之介
放送日時:2022年8月9日(火)20:00~、17日(水)13:30~

牙狼之介 地獄斬り
放送日時:2022年8月10日(水)20:00~、18日(木)13:30~
チャンネル:東映チャンネル

鬼龍院花子の生涯
放送日時:2022年8月6日(土)21:00~、13日(土)22:30~

陽暉楼
放送日時:2022年8月6日(土)23:40~、23日(火)10:25~
チャンネル:日本映画専門チャンネル

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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